ミッションは「無農薬・無肥料」による酒米づくり
秋田県秋田市河辺の鵜養(うやしない)地区。清らかな水と集落を包み込むようにそびえ立つ山々、田んぼが織りなす美しい景色は日本の原風景を今に伝える貴重な存在です。この土地で無農薬酒米を作っているのが秋田県を代表する酒造メーカー「新政酒造(あらまさしゅぞう)」執行役員兼原料部長の古関 弘(こせき・ひろむ)さんです。米づくりはおろか、農業経験ゼロからの挑戦が始まったのは2016年のこと。
「何もわからないからこそ知識を詰め込むのではなく、失敗から学ぶことにしました。初年度はいもち病が発生するなど、それはそれはたくさん失敗しましたよ」
と、当時を振り返る古関さん。中でも「雑草」との闘いは想像を絶するものだったと言葉を続けます。
「初年度にお借りした1.7町歩の圃場(ほじょう)のうち、まずは3反歩だけ除草剤を使用せずにやってみました。案の定、雑草だらけになり除草作業は本当に大変でした」
大手メーカーの除草機を使用していた古関さんですが、車体の重さから泥が深い水田では車輪が半分以上埋まり、イネが潰れる、大きな車体は変形や狭小の田んぼには適さない、株間の雑草を取りきれないなどのジレンマを抱えていました。
「除草には大きく分けて2つの理由があります。一つはイネの生育を妨げないようにするため。もう一つは美しい田んぼを守ること。先祖代々守り続けてきた大切な土地をお借りしているわけです。雑草だらけの田んぼでは地主さんを悲しませてしまうことになります」と、鵜養への思いを語る古関さん。そんな時に出会ったのが山形県酒田市の農機具メーカー「株式会社美善(びぜん)」の水田用株間除草機『あめんぼ号』です。展示会での運命的な出会いが無農薬酒米プロジェクトに大きな転機をもたらします。
「営業担当の方が話を真剣に聞いてくれたことがとても心強かったです。その後、実際に圃場に足を運んでいただき改善点を持ち帰っては改良に繋げていただきました。わたしは“話せる”農機具メーカーとの出会いを求めていたのだと実感しました」
その時の営業担当が大江 弘夢(おおえ・ひろむ)さんです。古関さんと話すことで農機具メーカーとしての使命を感じたと当時を振り返ります。
「当社の除草機で、古関さんの悩みに応えたいと強く思いました。また、フットワークの軽さと素早いレスポンスは当社の強み。企画から開発、製造、販売までを一貫体制で行う当社にとって、ユーザーの声こそが最も大切な開発要素になります」
こうして出会った「新政酒造」と「美善」。鵜養の圃場で『あめんぼ号』はどんな働きを見せたのでしょう。
こだわりは「スパイラルローラー」と「転車」。条間・株間のあらゆる雑草処理に対応
『あめんぼ号』の最も大きな特徴に「軽さ」があります。泥が深い田んぼでも必要以上に車体が沈まず、ハンドルも取られにくいためオペレーターはストレスなく操作をすることができます。また、一般的な除草機は車速と除草器具の回転が連動するのに対し、『あめんぼ号』は完全無動力。イネを傷つけず、田んぼの条件に合わせて微調整ができるのもポイントです。
「軽量化もさることながら、開発をするうえで重視したのが条間除草をする特殊加工の『スパイラルローラー』と株間除草をする 『転車』 です。これらのパーツを千鳥配置することで雑草の株元をしっかり攻めることができます。これらはユーザー様の声によって実現しました。その恩返しの意味でもアフターフォローやメンテナンスの迅速な対応を心がけています」と、話すのは美善・開発担当の村上 将也(むらかみ・まさや)さん。田植機用アタッチメントとして使用する『あめんぼ号』は、使用していない田植機の再利用にも適しています。無農薬栽培はもちろん、慣行栽培においても除草剤が効果を発揮しない時などに同機を併用することで追加の薬剤費用を抑えることが可能です。
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『あめんぼ号』が繋いだ、地域農業との絆
除草剤を使用せずに除草ができる除草機は、無農薬栽培や減農薬に最適な除草方法ですが、除草部分がイネを潰したり、タイヤが走ることでイネに泥が被ることがあります。特に泥が深い田んぼが多い鵜養においては、除草機を走らせると8条のうち、1条分のイネはなくなってしまうのが通説でした。イネを傷つけず、効果的に除草をする『あめんぼ号』の働きぶりは、地元の生産者にとっても大きな喜びをもたらしました。
「鵜養で初めて『あめんぼ号』による除草を行った際、古関さんが『イネもオペレーターもストレスを感じない除草機だね』と言ってくださいました。この言葉を今も鮮明に覚えています」と、大江さん。
「鵜養のみなさんと共に3年前から無農薬栽培を行っています。除草剤を使わなくても美しい田んぼを守ってきたことで地域の方々に認めてもらうことができました。『あめんぼ号』が鵜養の米づくりと新政をつないでくれたと感じています」と、古関さんもその実力を高く評価します。
すべてを鵜養で完結させる酒造りを
鵜養地区では現在、25町歩で無農薬栽培が行われ、全て新政酒造の酒造りに使用されます。そのうち、7.5町歩は自社栽培田として新政酒造で手掛けています。品種は今ではほとんど作られていない「愛亀(あいかめ)」。100年前に秋田の地で初めて人工交配に成功した米なのだとか。
「鵜養で長く田んぼを守ってこられた方に昔の米づくりをお聞きした際に『愛亀』を教えていただきました。この品種を復活させ、米づくりも酒造りも鵜養で完結させたい思いがあります」
と、話すのは新政酒造原料部の加藤 誠士(かとう・せいじ)さんです。
ゆくゆくは鵜養に酒蔵をつくることを目標に掲げる同社。無農薬酒米のみならず、地域の歴史、伝統、文化を継承するプロジェクトは美善が追求し続ける“ものづくり”のマインドにも通じると同社代表取締役・備前 仁(びぜん・ひとし)さんは話します。
「『あめんぼ号』はまだ完成していません。ユーザー様に寄り添い、進化を止めないことがわたしたちの理念です。新政酒造様のプロジェクトに伴走する思いで今後も尽力していく方針です」
「新政酒造」×「美善」の出会いは鵜養の美しい田園風景を守り、さらなる美酒を育んでいくことでしょう。
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■問合せ先■
株式会社美善
〒998-0832山形県酒田市両羽町9-20
TEL:0234-23-7135
FAX:0234-24-4638