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利益を出したくば、種をまく前に売り先を決めろ! 農業で必要な逆算思考

利益を出したくば、種をまく前に売り先を決めろ! 農業で必要な逆算思考

畑に肥料や堆肥(たいひ)をまいて、種や苗を買って植える。農業ではこうした作業の前に、必ず決めなければいけないことがあります。それが、タイトルにある「種をまく前に売り先を決める」ことです。そこで今回は、なぜ先に売り先を決める必要があるのかを解説するとともに、私が実践している逆算志向についてお伝えします。
農業に興味がある方、農業を始めようとしている方はぜひ読んでください。

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種をまく前に売り方や出荷先を決める理由


・どの販路に
・どういう荷姿で売るか

ほとんどの農家は、まずこの二つを決めてから、種や肥料を買って畑を準備しています。観光農園でもJA出荷の農家でも、6次産業化している農業法人でも、この考え方は一緒です。
「うまく収穫できるか分からないよ!」、「収穫できると確信してからではだめなの?」と思う方がいるかもしれませんが、栽培し始めてから販売戦略を立てるのでは遅いのです。その理由を解説します。

①同じ作物でも栽培方法が違ってくる

一つ目は、最終的な売り方や販路によって、同じ作物でも栽培方法が全く変わってくるからです。例えば、スーパーに売るキャベツを栽培している農家と業務用に使われるキャベツを栽培している農家では、主に三つの点で違いが生まれます。

・品種や作型
・株間や畝幅
・肥料の量や回数、タイミング

一般のキャベツ栽培から加工キャベツ栽培に変えたある農家は、「同じキャベツでも別の作物なのかというくらい、栽培方法や考え方が違う」と言っていました。

具体的には、スーパーで売られるキャベツは、数日で調理し切れるような、冷蔵庫に入る程度の大きさのものに需要が集まります。重さで言うと、1玉1キロ程度が一般的ではないでしょうか。

一方、業務用では、1玉が大きく重量のある「歩留まりがいい」キャベツが求められます。こんなに大きなキャベツはスーパーで見たことがないというくらいの、1玉3キロを超えるようなキャベツでも引き取ってもらえることもあるのです。

大きなキャベツを栽培するのは工夫が必要で、スーパーで売られるキャベツの栽培方法と同じでは、業務用に適した歩留まりのいいキャベツを生産することは難しいのです。

同じ作物の農家でも、売り先によって異なる戦略

あるミニトマト農家は、直売所メインで売ることを目的に、他の農家とは違う甘みの強い品種を栽培しているそうです。

ミニトマトは品種によって味が大きく異なるので、他の農家と違う品種を栽培することで差別化を図っているとのこと。その品種は病害虫リスクが高く栽培が難しいそうですが、売り先を絞ったことでお客様が求めているものを提供できているいい例ですね。

売り先をどこにするのかで、同じ作物でも求められる荷姿や品種、栽培方法が違うことが、種をまく前に販売戦略を立てなければいけない理由の一つです。

②収穫直前になって売り先を探すのは難しい

二つ目の理由は、収穫直前になって売り先を探したのでは、収穫物の全てを売り切るような売り先を見つけるのが難しいからです。

「まずは栽培してみよう! うまく収穫できるめどが立ったら、販路を探せばいいか」と思われるかもしれません。しかし多くの野菜は生鮮食品なので、工業製品などと違って保存ができないことを念頭に置かなければいけません。

野菜の場合は収穫適期も短く畑に放っておけないので、収穫間近になってから販売先を探していては遅いのです。腐ってしまったら商品価値はゼロですからね!

ブロッコリーの収穫適期は約3日といわれている

いざ収穫間近になって、収穫したものを全て売り切れるような売り先を焦って探すと、業者との交渉時に足元を見られることもあり得ます。

規格外野菜を売る時にも、同じことがいえます。
「栽培に失敗して、規格外が大量に出てしまった。だから引き取ってもらえる所を探さなければ!」と、大量にできてしまった規格外野菜を慌てて業務用の工場に持って行っても引き取ってくれないこともあります。

なぜなら、業務用工場もスケジュールやキャパシティーが埋まっているからです。業務用工場の立場からしても、予定外の農家から直前に野菜を持ち込まれても、加工し切れる設備や時間がなければ困ってしまいますよね。

就農して数年は、売り先の規格から外れた規格外を大量に出してしまわないか不安になるのは分かります。それによって栽培前に販売先と契約することに二の足を踏むかもしれません。しかし、うまく収穫できるように栽培することは、農家として当たり前の仕事です。
農業でしっかり利益を出すためには、やはり売り先を決めてから栽培を始める必要があります。

ちなみに、規格外野菜の売り先については、農家は別の対策をしています。
「せっかく手間暇かけて育てたのに、規格外というだけで売り先がないなんてあんまりだ!」と思われた方は、こちらの記事に詳しく書いていますので、併せて読んでみてください。

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ナス男の栽培戦略、売り先から逆算して考える

ちなみに私はナス一本の専業農家で、収穫したナス全量をJAに出荷しています。「JAの規格に合うナスを、とにかく多く作ることに専念する」というスタイルです。

以前は複数の作物を作ってJA以外の業者や直売所にも出荷していましたが、今はナス一本のスタイルに落ち着いています。

JA出荷は、栽培に専念できるというメリットがある

このJAへの出荷100%という売り先から逆算した栽培のメリットは、主に以下の通りです。

・出荷調整も栽培方法も均一にできるので、作業効率がいい
・営業や価格交渉などをせずに済み、栽培に専念できる

私と同じように、多くの農家がJA出荷を選択していますが、このようなメリットを理解してのこと。無意識でも、売り先から逆算して栽培しているといえます。

①何を作って
②どこにどのような荷姿で売るか

これらに正解はなく、農家によって異なるでしょう。
しかし、売り先から逆算して栽培を考えないと、利益を出し続けることはできません。
これから農業を始める方は、ぜひ種をまく前に売り先を探すことを意識してみてください。

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