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田舎NGだった都会女性が農村に結婚相談所を開業【前編】結婚・移住で変わった価値観

田舎NGだった都会女性が農村に結婚相談所を開業【前編】結婚・移住で変わった価値観

田舎暮らしや農業に憧れを持つ都会人は多い。実際に結婚を機に地方へ移住し、農業を始める人も少なくない。一方で、一人で作業することの多い農業において、出会いの少なさは独身農家の悩みの種である。今回は、農家の男性と結婚し、都会から地方に移住した阿部有希(あべ・ゆき)さんを取材した。移住先で結婚相談所を開所し、地域で結婚に悩む人へのアドバイスなどを行っている阿部さんに、自身の経験・思い、地方や農家の結婚事情について話を聞いた。

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■阿部有希さんプロフィール

プロフィール 山形県天童市出身。2016年、最上町地域おこし協力隊として仙台市より夫・娘と移住。2019年に阿部有希結婚相談所を開所。結婚したい人や未婚の子を持つ親の相談、現代版仲人の育成講座や結婚支援者向けの講座、学生向けのコミュニケーション授業などを行っている。

NG条件だった「農家の長男」と結婚

阿部さんは山形県天童市の出身。天童市は東北地方の中でも生活するのに利便性の高い地方都市で、阿部さんはその新興住宅地で育った。その後、東北最大都市・仙台市で社会人生活を送り、36歳の時に、当時住宅関連の商社に勤めていた現在の夫と結婚。子どもが生まれたのを機に、夫の実家がある山形県最上町赤倉温泉に移住した。

令和2年3月の内閣府レポートによると、東京圏に住む人(20~59歳)の約半数が地方での暮らしに関心があると報告されている。阿部さんもそうした流れの中での移住かと思いきや、実はそうではない。

「田舎暮らしには全く興味がありませんでした。私自身も婚活をしていて、当時結婚相手に求める条件として、『長男はイヤ』『農家はイヤ』『(義父母との)同居はイヤ』『軽トラックはイヤ』『(地元の)天童市よりも北はイヤ』など、50個以上の条件を出していました。結婚相談所からも『あなたに合う人はいません』と言われていたくらいに、結婚ができない人ナンバーワンだったんです(笑)」。

そんな阿部さんだが、実際にはそれら「イヤイヤ条件」にいくつも当てはまる農家の長男と結婚することとなる。

農業をやりたい夫と起業したい妻

それだけ拒否し続けてきた田舎暮らしを選んだのには、大きく二つの理由がある。
一つは、子どもが生まれ、子育てをする環境として都会よりも田舎がいいと思ったこと。もう一つは、いずれ起業したいという思いが、夫の地元・最上町で実現できそうだったことだ。

阿部さんは、結婚相談所を開業していた友人のアドバイスや、婚活支援を行政課題としていた最上町職員の悩みなど、仙台在住時からさまざまな話を聞く機会があり、最上町での起業のめどをあらかじめ立てることができた。そこで、総務省の移住支援事業である地域おこし協力隊の制度を活用し、町の職員として結婚相談業務を行いつつ、自らも独立の準備を進めることを決めたのである。

いつかは地元で農業をやりたいと考えていた夫・彰彦(あきひこ)さんが、30歳という節目を迎えたタイミングだったことも理由として大きかった。

彰彦さんの実家は兼業農家であったが、彰彦さん自身は専業農家になることを選んだ。
現在は、町の勧めで始めたアスパラ(20アール)とサトイモ(30アール)をメインに栽培している。2022年には地域で産地化を進めるサツマイモの生産も始めた。

サツマイモを植える彰彦さん

「産直ゆけむり」のメンバーとサツマイモを植える彰彦さん(写真手前)(画像提供:阿部有希)

移住後は感動の連続だった

現在は夫の両親、夫、娘と、3世代5人での同居をしている阿部さん。こちらもNG条件だった「天童市より北」に位置する最上町だが、実際に移り住んでみて阿部さんはどう感じたのか。

「毎日温泉(赤倉温泉)に入れるのにはびっくりしました。それから、春の桜、夏の緑、秋の紅葉、冬の雪と、四季の移り変わりがこれだけはっきり見られる所があることも、こちらに来て初めて知りました。すごく癒されています」

最上小国川ダムから見た紅葉

最上小国川ダムから眺めた紅葉の風景(画像提供:阿部有希)

「近くの畑でとってきた野菜を、すぐに調理できるところも気に入りました。ここに住む方々にとっては当たり前のことなのでしょうけど、私にとっては驚きです。ただ、ヘビとか生き物が苦手なので、冬以外はおびえて暮らしています」(阿部さん)。

地域の人たちも優しく迎えてくれた。阿部家のある赤倉地区は小さな集落であり、夫の親族が多く、娘も地域の宝として大事に扱ってもらえた。

「地域に育ててもらったというのでしょうか。娘が私の分からない方言を覚えてくることもよくありますね」と、阿部さんは楽しそうに「田舎暮らし」の良さを説明する。

最上小国川と赤倉温泉街

小国川と赤倉温泉街(画像提供:赤倉温泉観光協会)

軽トラでサツマイモを売り歩きたい

地域おこし協力隊として3年の任期を終えた阿部さんは、最上町内で結婚相談所を開業し、地域の維持・活性化に取り組んでいる。自らも移住者として農家に入った阿部さんは、今後について次のような夢を語った。

「最近夫が作り始めたサツマイモで、一緒においも屋さんをやりたいと思っています。焼き芋を売り歩くために軽トラックを買ってほしいと、夫に話しているんです」

結婚するまではNG項目の一つとして挙げていた「軽トラック」のはずだが、今ではむしろ「軽トラでの移動販売が楽しそう!」と語るまでになった。

「譲れない」と固執していた条件も、いざ蓋(ふた)を開けてみれば大した問題ではないのかもしれない。

販売会に参加

仙台市の販売会に産直ゆけむりのメンバーとして参加(画像提供:阿部有希)

「私は夫の農業を一切手伝っていませんし、これからも手伝う予定はありません。ですが、私が仕事でやるイベントなどで使う野菜を夫に作ってもらおうと頼んでいます。せっかくなら、自分の家で作った野菜を使いたいですからね」(阿部さん)

結婚をして農家に入ったからといって、必ずしも家業の手伝いをすることはない。自分のキャリアや経験を別の形で生かし、結果として家業にもプラスになるやり方もあるということだ。

結婚・移住で考え方が大きく変わった阿部さん。一方で、譲れない部分も守りながら田舎暮らしを楽しんでいる。多様な生き方が大切にされる昨今、阿部さんの選択が示唆するところは大きい。

後編では、阿部有希結婚相談所で相談を受けてきた阿部さんに、地方・農家の結婚事情や、これからの婚活などについて解説していただく。

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