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花が舞うフォトウエディングでふるさとを幸せの島に。若手農家が異業種に挑戦するワケ

花が舞うフォトウエディングでふるさとを幸せの島に。若手農家が異業種に挑戦するワケ

結婚式は、挙式する二人にとっては人生のハイライトとなる大切なセレモニーだ。その結婚式を挙げた場所は、きっと最高の思い出の場所になるに違いない。
そんな思いを持って、とある農家の若者が「フォトウエディング事業」を始めた。畑違いの異業種参入だが、勝算があってのことだったのだろうか。さらに、農業との関連についても聞いた。

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写真を撮りに来るカップルが教えてくれた島の魅力

熊本県の戸馳島でアボカドを栽培する若手農家、中川裕史(なかがわ・ゆうし)さん。日本で流通するアボカドのほとんどは外国産だが、そのうち国産アボカドのシェアを1%にしたいと頑張る若者として、以前マイナビ農業でも紹介した。

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中川さんが代表を務める「トバセラボ」は、農業はもちろんのこと、戸馳島に関わるさまざまな地域おこし事業を展開している。そのうち2021年4月から始めたのが「トバセフォトウエディング」というフォトウエディング事業。フォトウエディングとは、婚礼衣装を着て写真を撮影し、結婚の記念にするサービスだ。挙式はしないのが一般的で、コロナ禍で結婚式の中止を余儀なくされたカップルのニーズを受けて、需要が高まった。

もともとトバセラボの事業として島のPRを考えていた中川さんは、コロナの中、どうやったら島の外から人を呼べるかと、仲間と話し合いをしていたという。「その中で、『そういえば、島の若宮海水浴場でよく婚礼衣装を着て写真を撮っているのを見るな』という話になって。戸馳島はそういう幸せな思い出の場所として選ばれる所なんだ、と打ち出していこうということになったんです」(中川さん)

戸馳島の若宮海水浴場

戸馳島は九州本土と橋でつながっており、都市部である熊本市内から車で1時間ほどの場所。300メートルの美しい砂浜が広がる「若宮海水浴場」は南国の雰囲気もある。「古き良き田舎の魅力」もあって、最近ではオシャレな雑貨店や飲食店も増えてきた。
そんな島の雰囲気がカップルにも人気で、結婚式当日ではなく別日に婚礼衣装を着て撮影する「前撮り・後撮り」のサービスをしている島外の業者も多いという。

つまり、戸馳島での結婚にまつわる写真のサービスは、他の事業者も参入しているレッドオーシャンともいえる状況だった。そこに参入するのに不安はなかったのだろうか。
「実は僕、2020年の2月に結婚式を挙げたんです。本当は大好きな戸馳島で挙式したかったんですが、仕組みがなくて、前撮りしかできなかった。それで、島で『誓い合う』ところまでできるフォトウエディングサービスが作れないかと思ったんです」
戸馳島の自然の中で「誓い合う」セレモニーを行い、その姿を写真に収める。中川さんはそんなサービスを始めることにした。

25歳の若者が始めた事業、力強い助っ人を得て発足

集まった仲間は全員当時25歳の男性。中川さんと、フォトグラファーの橋本大(はしもと・だい)さん、ヘアスタイリストの椿田圭史(つばきだ・けいし)さん、PR担当の楠橋明生(くすはし・あきお)さん、そしてトバセラボの企画を行ってきた下田恭平(しもだ・きょうへい)さんだ。「野郎同士でああだこうだ話し合って、あちこちから資料を取り寄せたり、知り合いに聞いたりして価格帯を調べたりしましたね」

写真左から、下田さん、中川さん、楠橋さん、椿田さん

島のために思い立ったらすぐに行動する若者たちの姿は、さらに力強い協力者を呼び寄せた。ウエディングプランナーの平田民子(ひらた・たみこ)さんだ。「平田さんは式場以外の場所での結婚式を企画するのが得意な、すごいウエディングプランナーさんなんです。おかげでお客さんの満足度の高いサービスを作ることができました」(中川さん)

サービス当日までの流れはこうだ。
ホームページに希望者からの申し込みが入ったら、まずはウエディングプランナーの平田さんと、どんな写真を撮りたいか、どんなふうに誓い合いたいかを相談してもらう。その後プランに従って、提携先のレンタル衣装店で衣装を選んでもらい、カメラマンの橋本さんやヘアメイクを担当する椿田さん、撮影後に食事をするレストランのスケジュールを押さえる。同時にブーケや飾り付けに使う花の手配も行う。屋外の撮影になるので、天候のことも考えて3日ほど予定を押さえておき、天候を見て実施。中川さんの仕事は全スケジュールの調整、当日の立ち合いと運転手だそうだ。
「店舗もないし、カメラマンも衣装も花も、案件ごとに提携先に発注する形です。初期投資も維持費もほぼ必要ない。リスクの少ない事業でもあります」と、中川さんは経営者としての顔ものぞかせた。「目的が島のPRなので、サービスを利用した人がSNSとかで『戸馳島でフォトウエディングをしてよかった』と発信してくれれば、それも僕にとってはプラスです」

戸馳島は「フラワーアイランド」

さて、ここでやっと農業に関するものが登場する。ウエディングに欠かせない農産物、「花」だ。

戸馳島で栽培されている洋ラン

実は戸馳島は、もともと花の栽培が盛んで、「フラワーアイランド」とも呼ばれている。フォトウエディングに使用する花のほとんどは戸馳島で栽培されたものだ。
結婚式では、花を使うシーンは多い。新婦が持つブーケ、新郎の胸を飾るブートニア(コサージュ)、会場の飾り付けなどだ。例えば、「誓い合う」ことにこだわるトバセフォトウエディングでは、「ダーズンフラワーセレモニー」という儀式を行うこともある。参列者から12本の花を集めて花束にするという演出だ。その時に使うのも、もちろん戸馳島産の花だ。

ブーケのアレンジなども、島の農家が行う。とある農家の女性がアレンジメントのライセンスを持っており、その女性が作る色付けしたカスミソウなどを使ったアレンジなども人気だ。
また、参列者が花をまいて二人を祝福する「フラワーシャワー」では、島の主力品目である洋ランを使う。
中川さんの実家は洋ラン農家で、自身も数年間洋ラン栽培に携わった経験があった。
「洋ランはすごく品質が問われます。1本の枝に10輪ほどの花が付きますが、1つでも花が落ちてしまうともう出荷できなくて、きれいに咲いた花も無駄になってしまう」と言う。そこで、花を摘んでフラワーシャワーに使うことを考えついた。

こうした花を使った演出は、島の農家の収益にプラスになると共に、新たな花のPRにもなっているという。
「みんな安くでやってくれようとするんですが、僕は皆さんにちゃんと花の仕事を継続してほしいと思っているので、ちゃんと収益の出る額をお支払いしています」(中川さん)

戸馳島を幸せな島にしたい

この事業を始めたことのメリットについて中川さんに聞くと、「人生の一番幸せな瞬間に立ち会わせてもらえて、キュンキュンします」と嬉しそうに答えてくれた。さらに、その先のことも考えているという。
「結婚式を挙げた場所は2人にとって特別な場所なので、毎年の記念日に来てもらえるといいなと。将来2人に子供ができたら、連れてきて遊ぶとか。戸馳島を幸せな思い出の島にしたいんですよね」
もちろん、サービスは若い男女だけを対象にしたものではなく、再婚の人、同性同士で結婚する人、結婚した当時に式ができなかった人など、いろいろな人のニーズに応えていきたいと語った。

さらに、中川さんのトバセラボの地域おこしはこれだけで終わらない。島でのマルシェイベント「とばせマルシェ」を主催するようになり、2022年の12月に初回を開催。アートや音楽を楽しめるアートフェス「to base(ツーベース)」も同日に行った。

とばせマルシェの様子

この活動は、人を呼ぶことはもちろんのこと、地域の人に喜んでもらいたいと思って企画したものだと中川さんは言う。「地域おこしをしようと一生懸命やっていると、場所を利用したいと自治体に行った時にも話をすぐに聞いてもらえるようになりました」。今後もマルシェは定期的に開催する予定だ。

そして、地元のためにと思って活動した結果、中川さんの農業にも良い影響があった。「今、空いている農地があると、僕に声をかけてもらえるようになっています。こいつは自分のためだけじゃなくて、いろんなことを周りに還元するヤツだと島の人に思ってもらえているんだと思います」(中川さん)

カッコいい農家になるために、いろんなことに挑戦を

中川さん

中川さんはウエディングに関しては全くの門外漢だった。それでも挑戦する気持ちになったのはなぜなのだろうか。今、いろいろな人たちから「こんなことしたいんだけど」と相談を受ける度に「何か思い立ったら調べてみて、ミニマムから始めてみれば」とアドバイスしているという。それは、農家が前向きな気持ちで輝くためだという。「僕は、やっている人が輝いていなければ農業自体がカッコよく見えないと思うんですよ。だからいろいろなことに挑戦してみてほしいと思います。これからは、農家が農業だけしているという時代でもないと思うんで」

さまざまなことに挑戦して自分自身が輝き、周りの人を幸せにする。そういう若い農家が日本の農業全体も明るくするのかもしれない。

【画像提供】TOBASE Photo Wedding

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