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アボカド自給率“1%”を飛び越えろ! 国産アボカド栽培挑戦へ土壌づくりと仲間づくり

アボカド自給率“1%”を飛び越えろ! 国産アボカド栽培挑戦へ土壌づくりと仲間づくり

近頃、健康や美容に良いとして人気になり、店頭で輸入物をよく見かけるようになったアボカド。2000年前後から次第に輸入量が増え、2019年は7万7287トン輸入されている 。
一方、アボカドの日本国内での生産量は、2019年のデータでわずか12.8トン、作付面積は23ヘクタールしかない。 国内で流通しているアボカドのうち、国産はわずか0.015%。
これをせめて「1%」にしようと、国内で800トンのアボカド生産を目指し活動を始めた若者がいる。熊本県の農家、中川裕史(なかがわ・ゆうし)さんだ。

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熊本の小さな島から飛び立ち、アメリカでアボカドに出会う

中川さんの屋号は、Tobase Labo(トバセラボ)。「トバセ」という響きからは、勢いよく飛び立つイメージが思い浮かぶ。実際、中川さん自身は20歳の頃、アメリカに飛び立った。そこで、運命の作物「アボカド」と出会うことになる。

そんな中川さんが生まれ育ったのは、熊本県の八代海に浮かぶ戸馳島(とばせじま)。そう、「トバセ」は島の名前なのだ。

戸馳島のミカン畑の風景

戸馳島は本土と300メートルほどの橋でつながっており、熊本市内から車で60分ほど。島にある若宮海水浴場は熊本市から最も近い海水浴場で、夏にはたくさんの人が訪れる。
洋ランで知られる島でもあり、贈答用の胡蝶蘭(こちょうらん)などのハウス栽培が盛んだ。気候的にはかんきつ栽培に向いていて、県内有数のかんきつ産地でもある。しかし、気候的には農業に有利な島でも農家の高齢化と離農は避けられず、年々耕作放棄地は増える一方だ。

中川さんは1996年2月生まれ。実家は洋ラン農家だが、「小さいころは生活も苦しかったし、親も農業を継げと言わなかった」(中川さん)ことから、高校卒業後は理学療法士を目指して専門学校に進学した。しかし勉強してみると「理学療法士は自分じゃなくてもできる仕事だ」と感じるように。自分にしかできないことを追い求めた結果、実家の農業に関心が向いた。「このままあと3年も学校に通うのはお金がもったいない」と1年で学校をやめ、父の洋ラン栽培を手伝い始め、まる1年洋ラン栽培に携わった。

中川裕史さん

その後、2016年の春から1年半、JAEC(国際農業者交流協会)の農業研修プログラムでアメリカに留学。立ち寄ったハワイのマーケットで出会ったのが「アボカド」だった。「日本では主に『ハス』という品種しか流通していないが、世界には1000を超える品種があると知りました。味も日本で食べるよりおいしくて、これはいけると直感しました」と中川さんは言う。その後、留学先の大学でアボカド栽培の現状を学んだり、自分で調べたりもした。
「アメリカや南米ではアボカドを育てるために遠くから水を取ってくることなどを知って、これは(環境破壊の問題が)大変だなと。当時ちょうどトランプ元大統領が選挙運動をしていて、アメリカとメキシコの国境もどうなるかわからない状況で、流通も不安定になるかも知れず、これは日本で作る価値のある作物だとも思いました」(中川さん)

アボカド栽培を方向づけた、師匠との出会い

2017年の10月に日本に帰り、早速アボカドを栽培することにした。
必ず栽培できるという確信はなかったが「ハウスなら栽培可能だろう」とは思っていたという。自分なりに海外の文献も含めていろいろと栽培方法を模索していたところ、隣県の鹿児島県指宿市に、アボカドに関する著作も多い米本仁巳(よねもと・よしみ)さんの農園があることを知り、早速見学を申し込んだ。その後何度も足を運ぶが、やはり見ただけではわからないことが多すぎた。
「米本さんに教えてもらえなければアボカド栽培は無理だと思って、4度目の訪問でやっと『教えてください』と頼んだところ、熱意が伝わったのか指導してもらえることになりました」(中川さん)

その傍ら、起業の準備も進めた。圃場(ほじょう)は、戸馳島の離農した農家からハウス付きで借り、資金は日本政策金融公庫の青年等就農資金で1000万円の融資を受けた。
そして、米本さんや指宿市のナーセリーから質の良い接ぎ木苗300本を購入できることになり、中川さんのアボカド栽培の準備は整った。2018年6月、Tobase Laboの始まりだ。
実験室という意味の「Labo」を付けたのは、「いろんな品種を試しながら実験しているイメージから」だそう。実際、中川さんが栽培した品種は50品種に上る。

ハウス内では鉢でアボカドを栽培している

洋ラン栽培の経験が、アボカド栽培でも生きた

アボカドは接ぎ木苗から栽培するが、それでも安定して実をつけるようになるまで何年もかかる品目だ。しかも中川さんはアボカド栽培未経験。初年度に購入した苗木300本のうち、半分残ればよいほうと思われていた。しかし、実際に枯れたのはわずか3本だったという。

戸馳島の洋ラン栽培の様子

「洋ラン栽培の経験のおかげ」と中川さんは言う。洋ランは少しでも傷があると価格が下がってしまうため、その作業は極めて繊細だ。中川さんは小さいころから父の洋ラン栽培をそばで見てきており、就農してからはその手伝いもしていたため、管理を丁寧に行う癖がついていたのだ。「もっとちゃんとやればよかったと後悔したくないので、とにかくやれるだけのことはやりました」と言う中川さんの性格も功を奏したようだ。
そして2020年の夏、やっと戸馳島でアボカド栽培ができるとの確信を得て初出荷、収穫した100個は完売した。
さらに2021年、クラウドファンディングで生産拡大のための資金、約170万円を集めた。
Tobase Laboでは現在、500本のアボカドを1ヘクタールの圃場で栽培している。10アールがハウスで、90アールが露地だ。

収益を支える「リリコイバター」との出会い

アボカドは栽培を始めてすぐに収益化できない作物だ。実が安定してつくようになるまでの、収益を生む仕組みづくりが経営的に非常に重要になる。

実は、中川さんがアメリカ留学中に出会ったのは、アボカドだけではなかった。
ハワイを訪れたときパンケーキに添えられていた「リリコイバター」を食べて、衝撃が走ったという。リリコイはハワイの言葉でパッションフルーツを指す。リリコイバターはパッションフルーツの果汁を煮詰めてバターを加えたもの。この味が忘れられず、中川さんは日本に戻ってからいくつか取り寄せて食べてみたが、あのハワイで経験した味とは違った。「これは自分で作るしかない」とパッションフルーツの栽培を考え始めた。

パッションフルーツ栽培に踏み切ったもう一つの理由は、アボカド栽培の師匠である米本さんの勧めもあったからだ。米本さんはアボカドだけでなく熱帯果樹全般に詳しい。パッションフルーツなら、つる性の植物なのでアボカドのハウスのデッドスペースを使って栽培できるうえに、初年度から収穫できて収益につながる。
中川さんは、収穫したパッションフルーツをリリコイバターという加工品にすることでさらに付加価値を高め、利益率を向上させた。今では、地元だけでなく六本木や芦屋の高級食材を扱う店で販売されている。

リリコイバター

このほか、イチゴも地元の知り合いに指導を受けて栽培。さらにバニラビーンズは、洋ランと同じラン科の作物であることから、戸馳島と親和性が高いと栽培を開始した。

アボカド自給率1%を共に目指す仲間を増やしたい

Tobase Laboのアボカドの価格は1個当たり1500円。今はこの値段でも、主に関東から注文が入るという。しかし、中川さんが目指すのは高く売ることではない。
「日本人はこんなにおいしいものにこだわるのに、なぜかアボカドは質にこだわらない。アボカドというだけで、おしゃれで健康的なものだと思っているんです。国産が1%になればこの状況を変えられるのでは」と中川さんは言う。
国産1%を実現するには、年間800トンの生産が必要だ。中川さんはこれをTobase Laboだけで実現しようとは思っていない。共に国産1%を目指す仲間を増やすための活動を始めているのだ。
「アボカド栽培を始めるための土壌を作るのが重要。僕の技術をいくらでも教えるし、収益化できる作物との組み合わせなど経営を楽にするためのアドバイスもして、仲間を増やしていきたいんです。そうやって、戸馳島に就農する人も増えれば」。中川さんはその先の地域おこしまで視野に入れている。

今、日本で作られている作物の多くは海外を原産地とするものだ。ここ数十年で食卓に上るようになり、今ではポピュラーになったカタカナの名前の野菜もたくさんある。その背景にはきっと、その品目の市場を作ろうと懸命に努力した農家や研究者がいたに違いない。
Tobase Laboも同様に、日本でアボカド栽培を広げ国産の市場を作ろうと、試行錯誤を続けている。その先に、日常的に誰もがおいしい国産アボカドが食べられる未来が広がっているのだろう。

【画像提供】Tobase Labo

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