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自家製のアボカドを食べたいなら接ぎ木苗から栽培! 絶対に実がなるアボカドの育て方

自家製のアボカドを食べたいなら接ぎ木苗から栽培! 絶対に実がなるアボカドの育て方

果樹の中で、最も栄養価が高いと言われるアボカド。日本のスーパーで販売されるそのほとんどがメキシコなどから来る輸入ものであり、冬がある日本では、アボカドの栽培が難しいと考えている人も少なくないかもしれない。しかし、アボカドは熱帯果樹の中では耐寒性の高い果樹であり、いくつかの品種ではマイナス6℃まで耐えられる品種も存在し、日本国内でも十分に果実が収穫できる。そこで今回は、アボカドの基本的な性質や栽培方法、そしてより生育がうまくいくためのポイントを紹介する。

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アボカド栽培「タネから始めるべきか、苗木から始めるべきか」問題

アボカドの花や木の様子を確認する人

アボカドを栽培する筆者

とある写真系SNSで「#アボカド」と検索したら、何と93万件がヒット。オシャレなアボカドレシピが続々と出てくる。日本のアボカド消費の拡大傾向を物語っているようだ。
アボカドを食べれば出るのが、大きなタネ。「このタネからアボカドが育てられるのでは」と思う人がいてもおかしくない。今度は某インターネット検索サービスで「アボカド 栽培」と検索したところ、タネからの育て方が上位に上がってきた。
この方法は、アボカドを観葉植物として育てるのが目的ならばOKだ。しかし「自分が育てたアボカドを食べたい」と思う人にとっては苦難の道のりとなることを約束しよう。
筆者は沖縄でアボカドなどの熱帯果樹を栽培する農家である。農家としては「食べるため」の栽培方法を皆さんにお伝えしたい。アボカドをタネから育てたら、実がなるまでに平均7年かかる。個体によっては10年以上かかることもある。桃栗三年柿八年どころではない。食べるためのアボカドを育てたいのなら、「タネではなく、苗から始める」のが良いだろう。

アボカドの「接ぎ木苗」を準備すべし

アボカドの栽培を本格的に始めたいと思う人は、まずは「接ぎ木苗」を用意することが必要である。接ぎ木苗のメリットは、開花結実が早く、植え付けの年や翌年には、花が咲き果実をならすことができることだ(ただし、木が小さいうちは摘花した方が良い)。タネから育てた「実生(みしょう)苗」のようにいつ花が咲くか分からない不安と戦ったりしなくてもよい。また接ぎ木苗は、実生苗と異なり、期待する性質が表れるため、好きな味の品種や、興味のあるものを育ててみたらよい。ただ、どんな品種を選んだらよいかと迷う人も多いと思う。西日本の沿岸部など、割と気候的に暖かい場所ではほとんどの品種は栽培することができるが、一方で、内陸部の冬の寒さが厳しい場所の場合、耐寒性の高い品種を選択した方が無難である。

知ってると実がつきやすい! アボカドの開花型について

アボカドの花

アボカドの花。一つの枝に小さい花がたくさん咲く

食べるためにアボカドを栽培するなら、2品種以上を栽培することをおすすめしたい。しかも植える品種の選び方には注意が必要だ。

アボカドの花には、A型とB型の2つのタイプが存在する。両性花として一つの花の中に雌しべと雄しべを持つが、開花時にそれぞれが機能するタイミングが異なる。アボカドは2日かけて開花と閉花を2度繰り返し、雄しべと雌しべの活動する時期をずらしているのである。
例えば、スーパーで販売されているハスという品種はA型で、1日目の午前に雌しべが活動し、2日目の午後に雄しべが活動する。一方ベーコンという品種はB型で、1日目の午後に雌しべが活動し、2日目の午前に雄しべが活動する。アボカドは、一つの花序にたくさんの小花を咲かせるため、午前中の場合、A型の1日目に咲いた花と、B型の2日目に咲いた花があれば、花粉の行き来が可能である。

アボカドのメスとオスステージ。雄しべと雌しべの機能が独立する

これは自分の花粉で受粉することを避け、多様性を拡大しようとする植物の生存戦略。なるべく遠縁の遺伝子を獲得することによって、多くの性質を持った子孫が生まれ、種として存続できるようにしているわけである。

ただ、1本の木でも開花数が多ければ、花の狂い咲きや受粉虫の花粉の保持などの影響で結実する例も認められている。しかし、これから栽培したいと考えている人は、AとBそれぞれの品種を栽培することが無難である。

余談だが、アボカドの花は必ず先に「雌しべ」が機能するメスステージの状態で開花する。このような性質を雌性先熟というが、魚類でもベラ科やハタ科などはメスからオスに性転換する種もおり、アボカドも魚っぽいなと感じることもある。

アボカドの植え付け

かんきつ類の栽培経験のある人は、かんきつの植え付けを参考にするとハズレはないだろう。アボカドはミカンが育つ場所では問題なく育つと言われている。
アボカドの苗木を植え付ける際、気をつけるべきポイントはいくつかあるが、重要なところは以下のとおりである。

植え付けの時期

春の暖かい時期に植え付けるとよい。目安は日中の温度が20℃程度になる頃。沖縄であれば3月あたりから植え付けが可能だが、本土であれば4月から5月ごろが良いだろう。遅霜の心配のある地域では、植え付け時期に十分注意する必要がある。また、植え付け前には1カ月程度野外に苗木を出し、植え付け場所の環境に慣らしておくことも有効である。

植え付けの場所

◆排水性の良い場所を選ぶ

周りに防風林があり、緩やかな傾斜がある場所が良い

アボカドの植え付けは、全体的に緩やかな傾斜があるところが最適

雨水が滞留するような場所では、植え付け前に十分な排水管理が必要である。
緩やかな傾斜のある場所などは適地と言えるが、平地の場合は、高畝にして植え付けるとよい。

◆直射日光が強すぎる場所を避ける
意外かもしれないが、アボカドの苗木は強い直射日光に弱い。筆者らは、直射日光が半日隠れる場所に植え付けたり、もしくは雑木の横に植えることが多い。その後、アボカドが2メートル近くに大きくなると、その雑木を切り倒す。影が薄い場所では、遮光ネットで覆う人も多い。春に植え付け後、数カ月で夏の強い日差しが原因で枯らしてしまうケースも多いので注意してほしい。

◆一度植え付けたら動かさない覚悟で場所を選ぶ
アボカドは根がとにかく繊細で、根鉢なども壊さずに定植することが推奨される。そのため、一度植えた場所からの移植も強く嫌う。一度植えたら滅多なことでは移植しない覚悟が重要である。

風対策を忘れずに

アボカドが幼木の時の風対策

アボカドが幼木の時の風対策

風で根が動くと、先述のとおり根が弱いため枯れてしまうことがある。植え付けの際は、主幹を支える支柱や、行灯(あんどん)などの囲いをして風をよけることが重要だ。沖縄では、台風などで木がちょっと傾き、根が動いただけで枯れた木をいくつか確認している。

土づくり

筆者らは山地に植え付けているため、植え付け時に資材投入をすることが少ないが、必要であれば完熟の牛ふん堆肥を苗1本あたり周辺に3リットル程度入れている。

アボカドの摘花

アボカドは生育速度が非常に速いと言われることがあり、若干恐れられているところもあるが、筆者の経験上、タネからの実生苗に比べ接ぎ木苗の成長はある程度緩やかである。
接ぎ木苗の場合、植え付けた年に花が咲くことが多い。この花はすぐに摘み取ってほしい。これを放置すると樹勢低下を起こし、枝葉の伸長が全く進まなくなることがある。そのため、植え付けした年は摘花に努め、樹高2~3メートル程度を目指してまずは木を大きくする必要がある。

アボカドの仕立て方

アボカドの仕立て方は品種によって異なる。アボカドの樹形には大きく分けて3つのタイプ(直立型、開張型、その中間型)が存在し、品種や栽培場所の環境に合わせて仕立てていく必要がある。

直立型の仕立て方

ベーコン種などのクリスマスツリーのような樹形になる直立型の品種では、主幹の摘心位置によって、ある程度樹形を作りやすい。これ以上大きくしたくないと考える位置で、主幹を止めれば、高さが決まる。これは栽培者の身長や、栽培空間などに応じて決めてほしい。花や実がつけば、樹冠(上部の枝葉が茂った部分)の広がりはほぼないため、あとは急な徒長枝などを気にして管理すれば問題ない。

開張型の仕立て方

フェルテ種などのような横に広がっていく開張型の品種は、むやみに枝を落とすとその後細かい枝葉が増え、混み合う原因になる。ある程度は自然樹形に委ねたほうがよいだろう。

中間型の仕立て方

その中間型のハスやピンカートンなどは、個体の樹勢の強さを観察して、徒長した枝の間引き剪定をするなど、かんきつの「開心自然形仕立て(※)」のような形を目指すことを勧める。
※ 3本前後の主枝を斜め上に伸ばしていく仕立て方。

栽培環境に応じた柔軟な仕立て方が重要

木の仕立て方に関しては、これといった正解もないことが事実である。アボカドはその他の果樹と比べて、葉っぱの枚数が多く必要な果樹でもあるため、あえて木を4~5メートルとある程度大きくして、高枝切りばさみなどで収穫をするということもなされる。
一方で、ハウス栽培などで高さが制限されている場所では、50センチ程度で主幹を止めて出てきた主枝を誘引したりと、あえて小さく仕立てるということもなされる。ただこの場合、一度果実が安定的に収穫でき始めると樹冠も大きくなりにくい印象を受ける。

アボカドの摘果

アボカドの摘果作業

アボカド、ピンカートンの幼果

アボカドは果実が自然落果しやすいという性質を持つ。そのため、積極的な摘果の必要性はない。ただしピンカートンなどの品種で、果実がたくさんつきすぎて樹勢が弱ってきていると判断できる場合や、葉の枚数が少なく葉果比が大体80:1から大きく外れる場合は摘果をしてもよい。大体、一つの枝に1〜2個程度の果実をつけることを目安にする。
ただし、果実肥大とともに生理的に落果することが多いため、果実が親指よりも大きくなってきたあたりで徐々に摘果していく。摘果の際は、果実の形が悪いものや、アザミウマやカメムシなどの害虫の被害にあっているもの、もしくは葉にぶつかり傷がついているものなどから摘んでいく。

積極的な芽かきは必要ない

アボカドの混み合った枝を間引く人

アボカドの混み合ったところを整枝する筆者の父

アボカドは積極的な芽かきは必要ないが、樹勢が強すぎて果実の生理落果がとてもひどい場合は芽かきなどをしてもよい。芽かきをしすぎると、翌年に花が咲かなくなる場合もあるため、混み合った場合のみ、基部から数本かき取ることをおすすめする。

アボカドの袋がけと害虫の被害

アボカドの袋がけの様子

アボカドの袋がけの様子。沖縄では5月に入ると始める

アボカドは果実が親指ほどのサイズになったら袋がけをした方が良い。それ以前に袋がけを行うと、果実が生理落果して袋の片付けなどの手間が生じ、費用対効果が悪いと考える。袋がけを怠ると、このくらいのサイズからカメムシの被害やアザミウマの被害が出てくることがある。南方系の暖かい場所で生息するカメムシとしては、ミナミトゲヘリカメムシやホソヘリカメムシなどをよく見るが、それ以北だとアオカメムシなどの被害が目立つ。

ミナミトゲヘリカメムシ

アボカドに吸汁加害するミナミトゲヘリカメムシ

どちらもやられると、果肉の中に小石が入ったかのごとく硬い芯が残る。歯が折れたと思う人もいるほど、とても食べにくくなる。また、袋がけをすると害虫被害だけでなく、葉によって生じる擦り傷も防げる。筆者はマンゴー専用の袋を使っているが、本土ではブドウやその他の袋などを使うとよい。ただし袋の中の視認性が悪いため、キッチン用の流しに活用する細かい目のネットなども活用してもよいかと思われる。

アボカドの収穫

アボカドの収穫時期は、品種によって異なる。一般的には12月付近に集中するものが多いと感じるが、沖縄県のカビラ系統の品種は8~9月とかなり早い。グアテマラ系と呼ばれる品種のいくつかは樹上期間が長く、開花した年の翌年の5月や6月まで木に残るものもある。ただし、露地で栽培する場合は、雨風の影響で落果することが多いので注意が必要だ。

とはいえ果実のタネも捨てずに植えてほしい

アボカドの果実を早く収穫したい人には、タネから育てるのではなく接ぎ木苗をおすすめするのだが、一方でタネも捨てずに植えていると、それが将来、大きく貢献することもある。確かにアボカドをタネから栽培すると花が咲くのは遅い。また、花が咲き、果実ができたとしても、形質が変わってしまって味質が劣る場合も多い。
ただ一方で、日本でのアボカドの栽培自体、まだ歴史がとても浅く、タネからの実生苗による優良個体が現れる可能性も高い。また木が1メートル程度になると「接ぎ木」の台木として十分活用できる。現在は、各地で多くの人がアボカドの栽培を初めており、接ぎ木用の穂木が手に入りやすい環境になっていると感じる。筆者は、全国各地のアボカド栽培者が集うオンライングループを運営しており、そこでは、接ぎ木などに使う穂木や接ぎ木のやり方などの情報の交換などを活発に行っている。接ぎ木自体も難しくないため、その機会を生かすためにも、タネも植えてほしい。

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