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作物は販売しない! 農業という情報を価値に変える生き方

作物は販売しない! 農業という情報を価値に変える生き方

全国の農場を渡り歩いているフリーランス農家のコバマツです。今回訪れたのは沖縄県糸満市にある「糸満フルーツ園けんちゃん」。無農薬で数多くの種類のトロピカルフルーツや野菜を作っているというだけではなく、チャンネル登録者数1.5万人の農業系YouTubeチャンネルを運営、さらにオンラインサロンも開設しています。しかも、できた農産物はほぼ販売しないという異色の農家。コバマツがこれまで出会ったどの農家とも違う新しい農業の形について、いろいろと聞いてきました。

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好きな作物を好きなように育てる! 大学院中退、農業の道へ

1月の日本は全国的に寒く、地域によっては雪も降る時期。コバマツはぽかぽかと暖かい沖縄に来て、農作業をしたりしながら、ユニークな農家を探しています。

バナナの木

南国らしくバナナの木が立ち並ぶ

今回訪れたのは、沖縄県南部の糸満市。友人から「無農薬でトロピカルフルーツを作っていて、YouTubeで農業の番組を配信している面白い農家がいるから、ぜひ会ってみてほしい」と紹介がありやってきました。

■糸満フルーツ園けんちゃんの「けんゆー」こと、上原賢祐(うえはら・けんゆう)さんプロフィール

1992年生まれ。沖縄県宜野湾市出身。山口大学大学院の博士後期課程を中退。2019年11月より、沖縄県糸満市でトロピカルフルーツや野菜を無農薬で100種類以上栽培している。YouTubeの「けんゆーの無農薬栽培チャンネル!」は登録者数約1万5300人(2022年2月時点)。オンラインサロンでは栽培に関する情報発信や、熱帯果樹好きの人が集まるオンラインコミュニティー「アボカドパーティー」を運営している。
けんゆーさんとコバマツ対談の様子

アボカド畑で早速インタビュー!

コバマツ

けんゆーさん、もともと大学院では工学系を専攻していたそうですね。しかも博士課程を中退したとか! どうしてそこまでして農業に参入しようと思ったのでしょうか?
大学の時から、組織に入って働くのではなく、個人で何か仕事を生み出せないかと考えていました。もともとは、農業にそれほど関心はなかったんですけど、大学院在学中に帰省したとき、父が作った作物を食べて、農産物のおいしさが改めて身に染みて。
「そうだ、農業は個人事業主で組織にとらわれないでできる仕事だ。実家に帰って農業をしよう」と思い、大学院を休学して、実家に帰って農業をし始めました。

けんゆーさん

コバマツ

実家がもともと農家だったんですか?

父が兼業農家でした。「糸満フルーツ園けんちゃん」は、15年ほど前に父親が趣味で始めたんです。ちなみに農園名の「けんちゃん」は僕の父の名前、賢俊(けんしゅん)と僕の名前の賢祐から取って付けています。

けんゆーさん

コバマツ

じゃあ、けんゆーさんはお父さんの畑で就農したんですね!

そういうことになるんですかね? 僕、一般的な就農ステップは踏んでいないんです。
営農計画を書いて、農業委員会に行ってということはしていなくて。自分の好きなように好きな作物を育てています(笑)。

けんゆーさん

コバマツ

え! どうしてですか? 手続きした方が、農業の助成金を活用できたり、サポートも受けられるのに!

そうですね。市の営農センターなどに行って就農について聞いたら、いろいろと手続きがめんどくさそうだったので、やめちゃいました。しかも、無農薬はだめとか、いろいろ言われるんですもん。

けんゆーさん

コバマツ

確かに行政はいろいろ突っ込んできますよね……。そこがハードルなんですけど、そのハードルをすっ飛ばしちゃう人、初めて出会ったかも!

無農薬でトロピカルフルーツを栽培するワケ

コバマツ

いろいろな種類のトロピカルフルーツや野菜を育てていますよね! しかも無農薬で!
アボカド

アボカドだけでも15種類以上育てている

アテモヤ

森のアイスクリームと言われているアテモヤ

スターフルーツ

こちらはスターフルーツ

そうですね、100種類以上作っています。

けんゆーさん


コバマツ

めっちゃ多い! 暑い沖縄、しかも無農薬で果樹ってめちゃ大変そうですけど、どうして無農薬栽培にこだわるのでしょうか?

僕自身が、あまりまめな性格ではなくて、農薬を散布する記録をつけたりあれもこれもするのが苦手で。自分が栽培を続けられる方法を考えたら、なるべく手をかけずに自然な状態で栽培できる、無農薬栽培だったんです。もちろん、どうやったら無農薬で栽培ができるか、についてはめちゃくちゃ勉強しますよ。農薬を散布することに労力をかけるより、どうやったらそれらを使わないで栽培できるかに集中した方が続けられると思って、無農薬で栽培しています。

けんゆーさん


コバマツ

環境のためとか、人の健康のためにっていう人にはよく出会いますけど、自分が農業を続けられる栽培方法を突き詰めたら無農薬栽培だったって初めて聞いた!

いくらおいしい食べ物を作っていても、自分の心身の負担になったらそれって不健康じゃないですか。自分が楽しく続けられる農業の形を考えて実践していきたいと思っています。

けんゆーさん

情報が価値になる農業

チャンネル登録者数1.5万人の農業系YouTuber

コバマツ

けんゆーさん、知る人ぞ知る農業系YouTuberの一人ですよね! 配信内容はどんなものなんでしょうか?

自分の畑で栽培しているトロピカルフルーツの栽培方法や、熱帯地域ならではの作物の作り方について紹介しています!

けんゆーさん

YouTubeチャンネルトップ画面

けんゆーの無農薬栽培チャンネル。登録者数1.5万人。再生回数は多い動画で42万回。動画は毎日アップしている

YouTubeで栽培方法紹介

自分の農場で実践している栽培方法について紹介

YouTubeチャンネル室内で説明している様子

データに基づいて栽培についての解説もする

コバマツ

どうしてYouTubeを始めたんですか?

熱帯果樹や野菜を育てる人たちを増やしたい! そう思って始めました。熱帯果樹は、日本の中でも栽培できる地域が限られていて栽培技術の研究もまだまだ進んでいないんです。
自分の畑で実践していることや、他の国の栽培方法を発信することで、自分で作物を作る人が生まれたり、生産者にとっては新しい栽培方法を発見することができたりするんじゃないかなって思っています。

けんゆーさん

コバマツ

本だとわざわざ調べる人はいなそうだけど、YouTubeという誰でも無料で検索できる場で栽培方法が配信されていたら調べて実践しやすいですよね。動画だったら、「自分もできるかも」とか、「自分の畑でも取り入れてみよう」って思うかも!

熱帯植物の栽培にこだわりを持つ人が集まるオンラインサロン

コバマツ

会員制の交流の場として、オンラインサロンも開設していますよね! サロンではどんなことができるんでしょうか?
こちらもアボカドなどの熱帯果樹を育てる仲間ともっと一緒に農業を楽しみたいと思い、作りました。入会特典としては、
・毎週金曜日に僕からメルマガが届く
・非公開LINEトークルーム「アボカドパーティー」に招待される
・オンライン、オフラインの定期交流会に参加できる
・糸満フルーツ園けんちゃんで野菜作りができる
など、会員価格によってできる内容が違うんですけど、ざっくり言うとそんな内容です。

けんゆーさん

けんゆーさんオンラインサロン

こちらがけんゆーさんが運営するオンラインサロン

オンラインサロンメンバー特典

価格によって特典はさまざま。現在60人くらいの参加者がいる

コバマツ

なんだか面白そう! 私も参加しちゃいました! どんな人たちが参加しているんですか?

沖縄県内・県外半々くらいで、果樹や野菜栽培に興味がある人が参加していますね。

けんゆーさん

zoom 交流会

サロンメンバーと定期的に開催しているZoom交流会の様子

作物を売るために栽培しているわけじゃない

コバマツ

ずっと気になっていたんですが、できた作物はどこに販売しているんですか? YouTubeの視聴者やオンラインサロンの人たちに販売しているのでしょうか?

いえ、じつは、ほとんど農産物は販売していないんです(笑)

けんゆーさん

コバマツ

え、作った作物はどうしているんですか?

サロンの人たちにあげたり、ほんの一部、買いたいと要望があった人に販売しているだけなんです。販売するために作物を育てているわけではなくて、栽培方法を研究したり実践したりするために農場をやっているようなもので、収入はYouTubeの広告やオンラインサロンの参加費でまかなっています。

けんゆーさん

コバマツ

作物を売るために育てているのではなく、情報を発信するために農業をしているんですね! 農業を完全にコンテンツにしている!

自分を発信することができる場を持つことは、今後重要になっていくと考えています。そうすることで、自分のクレジット、つまり信用を蓄積していくことにつながって、いろいろな挑戦がしやすくなっていくと考えています。

けんゆーさん

コバマツ

SNSも普及してきて、これからはますます個人が発信力を持てる時代になっていくと言われていますからね。

今後は、農業をもっと専門的に学んで、日本では研究があまり進んでいない熱帯果樹の栽培についてもっと発信していきたいですね。発信したことに対して集まってくれた仲間たちにとってもプラスになるような企画をしていきたいと思っています。

けんゆーさん

今回けんゆーさんと会い、一番衝撃的だったのは農産物を販売するために農業をしているわけではないということです。農業=作物を生産して販売する。そう思い込んでいましたが、栽培技術を発信するために農業をしている生産者には初めて出会いました。視野を広げれば、農業は食べ物を流通させること以外にも、できることはまだまだたくさんあるのかもしれない。そんな風に思いました。

けんゆーさんとコバマツのツーショット

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