海藻由来のベーコン。その味は?
米アマゾン・ドット・コム傘下の大手食品スーパー、ホールフーズ・マーケットが発表した2023年の食のトレンド予測で、昆布が「ホットな新しい食品」として紹介されている。また、SNSのピンタレストが恒例で発表する年間トレンド予測「Pinterest Predicts」では、「ビタミン豊富な海藻」が取り上げられた。
米調査会社グローバル・マーケット・インサイトによると、商業用海藻の市場規模は2020年の400億ドルから、2027年には950億ドルまでに拡大する見込みだという。
アメリカでは黒い食材が敬遠されがちで、ノリやワカメなどの海藻類は日本料理店などでしか目にしない珍味だった。しかしここ数年、健康志向の高いアメリカの消費者から熱視線を浴びている。料理への取り入れ方が日本とはひと味違っている点も興味深い。
![ベジバーガー](https://agri.mynavi.jp/wp-content/uploads/2023/02/85c0a893c292dca0a14af8ae156c4a71.jpg)
サンフランシスコで評判の海藻ベーコンを使ったビーガンベーコンチーズバーガー
米西部カリフォルニア州サンフランシスコのダウンタウンで人気のハンバーガー店。ここでは肉を一切使わないベーコンチーズバーガーが評判だ。大豆ミートを使ったパテは店の手作り。チーズ、そしてベーコンもベジタリアン仕様だ。
ベーコンは地元サンフランシスコを拠点とするスタートアップのウマロ社が開発したもので、主原料はダルスという赤い海藻だ。ダルスは主に北欧で古くから食べられてきた栄養価の高い海藻で、焼くと香ばしさとうまみが際立ちまるでベーコンのような味わいになるという。
パプリカで赤く着色されたこのベーコンは、見た目も既存の豚肉ベーコンにそっくり。ダルス自体が高たんぱく食材であるところに、ひよこ豆を加えて植物性たんぱくをさらに含有させた。
食感はカリカリ、サクサクとして確かにベーコンに似ている。かめばかむほどうまみがにじみ出て、適度な塩気とともに料理全体へ深みを与えてくれる。目をつぶると豚肉ベーコンと間違えるほど……とまではいかないが、別物としておいしい。さまざまな料理に応用できそうだ。
2027年までに市場規模倍増へ。3つの理由とは
理由1. 高い栄養価&うまみ
海藻が注目される理由は三つある。一つは、前段で触れた高い栄養価と味の良さだ。マグネシウムやカルシウム、ヨウ素などのミネラルと食物繊維が豊富で、うまみ成分のアミノ酸を多く含む。塩の代わりに料理の味付け役を担えるので、減塩を促す健康食材としても注目されている。
理由2. サステイナブルな食品であること
二つ目の理由は、サステイナブル(持続可能)な食品であることだ。
海藻は海底に生息し、成長に必要なのは日光と海水のみ。穀物などと異なり耕地を確保したり、水や肥料を補給したりする必要がない。特に昆布は成長のスピードが速く、世界の食糧不足を解決する救世主になり得るとされる。
また、昆布は光合成の効率が良く、二酸化炭素吸収量は杉の5倍にもなるという。地球温暖化の緩和に貢献できるという点は、人権や社会、環境に配慮した製品を買う「エシカル消費」が進むアメリカでは重要な要素だ。
理由3. プラントベース(植物由来)食品であること
第三の理由は、アメリカで人気の高いプラントベース(植物由来)食品の原材料になることだ。前述のベーコンをはじめ、海藻を原料とした植物性のツナやジャーキーも存在する。
生活習慣病予防やアニマルウェルフェア(動物福祉)への関心の高まりから、プラントベース食品は大きなトレンドになっている。
インドの調査会社フューチャー・マーケット・インサイトによると、プラントベースの食品市場は2023年の113億ドルから、2033年には359億ドルに拡大すると予測されている。
生産者は需要増を見込み、増産態勢に入っている。米北東部のニューイングランド地方では昆布農家の協同組合が発足、通年での安定供給を目指す。
米農務省の国立食糧農業研究所(NIFA)もまた、アジア各国に遅れをとる海藻養殖技術を引き上げようと、米最北東部・メーン州でダルスとノリの養殖技術を研究する企業を支援している。特に農村部の沿岸地域で養殖を普及させることで、漁師や魚介の養殖業者に多様な水産物を扱う機会を与え、女性の農業従事者を増やすことも期待している。
筆者の周りでも「ケルプ(Kelp=昆布)ピクルス」などの加工品や海藻味のヘルシーなスナック菓子、干した海藻を陳列する店が増えてきた。パッケージにはNoriやWakameなどと日本語がローマ字表記されている。かつてはSeaweed(海藻)として一緒くたに表記されていたが、種類の明記から関心の高まりがうかがえる。“海藻先進国”である日本が、消費大国アメリカに食文化を輸出する好機が到来しているのではないか。
その他の2023年食のトレンド
毎年当たると言われるホールフーズ・マーケットのトレンド予測。トップ10に挙げられた他の食材もかいつまんで見てみよう。
1. ヤポン茶
ヤポンとはアメリカ南東部に自生するヒイラギの一種で、先住民がその葉を焙煎して抽出し、浄化作用のある飲み物として重宝してきた。
カフェインを含みながらも味わいはまろやかで、アンチエイジングに重要とされる抗酸化作用を持つ。コーヒーの代替となるローカル飲料として流行が予想される。
2. 代替パスタ
小麦の供給不足が世界的な問題になっている中、小麦を使わないグルテンフリーのパスタの人気が加速しそうだ。特に農産物を使ったパスタが注目されている。カリフラワー、ひよこ豆、キャッサバ、ソウメンカボチャ、緑のバナナといった野菜や果物を使用し、手軽にそれらの栄養素を取れることも売りだ。
3. パルプ(搾りかす)の活用
アメリカのカフェでは必ずと言ってよいほど、オーツミルクやアーモンドミルク、豆乳が牛乳以外の選択肢として用意されている。スーパーでも牛乳と同価格帯で動物性の乳製品を含まないこれらのプラントベースミルク(代替乳)が売られている。米調査会社モーニング・コンサルト社によると、アメリカの消費者の3人に1人が週1回以上プラントベースミルクを飲んでいるという。
一方で、プラントベースミルクを生産する際に発生する搾りかすが大量に廃棄されていることが問題視されている。そこで搾りかすを利用したおからパウダーなど製菓用の粉や、市販の菓子の流行が予想されている。
4. デーツ
紀元前数千年から食用とされていたというデーツ(ナツメヤシの実)。鉄分、カルシウム、カリウム、リンなどが豊富で、貧血や便秘、骨粗しょう症などの予防に効果が期待される。日本でもよく見るドライフルーツだけでなく、アメリカではデーツ由来のシロップやペーストといった甘味料のほか、デーツで作ったケチャップやバーベキューソースなどの調味料も店頭に並んでいる。
5. アボカドオイル
アボカドオイルは悪玉コレステロールの増加を抑えるオレイン酸を含む植物油として既に一定の需要があるが、近年はマヨネーズやポテトチップスなどにも使われ、トランス脂肪酸を多く含むキャノーラ油などに代わって定着すると予想されている。
上記で触れたトレンド発表はいずれも、毎年「当たる」との呼び声が高いものだそうだ。日本の市場でも伸びしろがありそうな食材は見つかっただろうか。
参考:
Whole Foods Market Forecasts Top 10 Food Trends for 2023