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ヒットメーカーに聞く!バズる野菜の共通点

ヒットメーカーに聞く!バズる野菜の共通点

オイシックス(現オイシックス・ラ・大地)の名物バイヤーとして、数々のヒット野菜を生み出してきた「愛の野菜伝道師」小堀夏佳(こぼり・なつか)さん。「ピーチかぶ」「トロなす」「かぼっコリー」などの名付け親であることから、キャッチーなネーミングセンスこそプロデュースの肝かと思いきや、実は小堀さんには一味違う着眼点がありました。小堀さんが農家に問う数々の質問の真意とは? バズる野菜のヒントを探るべく、小堀さんの農家訪問に同行してみました!

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質問が止まらない!超パワフルな農家訪問

1月某日、東京都あきる野市。小堀さんは、「ゆっくり農縁」の石川敏之(いしかわ・としゆき)さんを訪ねていました。ゆっくり農縁は「半農半X」スタイルが特徴。活動の半分は自給のために年間100種以上の野菜を育てながら、もう半分は近所の弁当店の配達や養蜂家を手伝ったり、映画の自主上映会を行ったりしています。
その生き方が注目され、テレビ朝日の番組「人生の楽園」でも取り上げられました。

ゆっくり農縁の石川敏之さん

ゆっくり農縁に到着すると、小堀さんは挨拶もそこそこに、すぐさま畑へ。
「これはのらぼう菜ですね! ダイコンみたいに大きくなるんだ?! 食べてみていいですか?」
「どうぞ」と石川さんが促すと、野菜の傍に腰を下ろし、葉をちぎってぱくり!
のらぼう菜を味わいながら、種取りの方法やどこの種を使っているかなど細かく質問します。
次に温海(あつみ)カブに目をやると、山形県が採種地であることや、使っている種苗メーカーを早々と言い当て、別の地域で見た温海カブの形と全く違うことに興味津々。
「同じ品種なのに、こんなに小さくて球体に育つこともあるんだ!」とまじまじとカブを眺めます。そんな小堀さんの会話から、野菜へ愛情と興味、そして豊富な知見が垣間見られました。

畑での怒涛の質問が終わると、「じゃ、皆でご飯を食べにいきましょう!」
どうやら農家さんと一緒にご飯を食べるまでが、小堀さん流の農家訪問のようです。
昼食の話題は、石川さんのバックグラウンドについて。
なぜあきる野市で農業をしているのか、人生で大切にしていること、どんな時間の過ごし方をしているのか、生活における農業の位置づけ……掘れば掘るほどディープな話題になり、野菜の話とはどんどんかけ離れていきます。気づけばランチタイムの閉店まで話し込んでいました。

野菜を売るための必須条件

農家訪問を終えてから、小堀さんに質問の意図を聞いてみました。
「バックグラウンドを聞くのは、農家さんが目指している生き方を知りたいから。野菜をたくさん作って売りたいという農家さんもいるし、石川さんのように農業以外ですごく大切にしている価値観がある方もいる。そこを見間違えるとミスマッチになるので、農家さんに合った売り方を考えたいんです」
また、当然ながら畑を見ることも大事だといいます。畑の姿は農家の性格を雄弁に語ってくれるそう。

「私はバイヤーではなく、野菜に農家の生き方を乗せて発信する“愛の野菜伝道師”なんだ!と思ってやっています。フリーランスになってからは、会社の販路も特別な権限もない身で、売りたい野菜を市場で扱ってもらう苦労を感じました。だからこそ、誰にどう売るかを、より考えるようになりました」

全国各地を訪問する小堀さん

消費者は、年代によって嗜好(しこう)が変わり、適切な販路も異なります。小堀さんは、これらに経験と知識、そして一消費者としての視点も掛け合わせていきます。
「例えば加工品を売りたいという場合、農産物の特徴を理解したうえで、味や風味、食感を生かした結果この加工品にしたんだ、という必然性が大事なんです。たまに、こうした過程を飛ばしてとりあえず作ってしまい、『全然売れないから売れるようにしてもらえませんか?』と相談いただくこともあるのですが……作る前に相談して!(笑)」

加えて小堀さんは、作って売るまでの“ストーリー”も大事にしたいと話します。味や価格だけでなく、ストーリーや生産者の人柄に引かれて購入するお客様も少なからず存在するからです。

バズる野菜はこうして出来る!

小堀さんが手掛け、ヒットした商品は数多く、「ピーチかぶ」や「トロなす」は特に知名度の高い野菜です。実はこれらも誕生秘話を聞くとまた違う一面が見えてきました。

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ピーチかぶの生産者さんと小堀さん

ヒットまで約4年がかかった「トロなす」

「トロなす」とは、小堀さんが「鹿児島白ナス」に付けたネーミングです。
鹿児島白ナスは緑色の見た目をしているので、白ナスとして販売すると消費者に誤解を生みそうですが、生産者はどうしても「鹿児島白ナス」という名前にこだわって売りたいという希望がありました。
1年目は生産者の気持ちを汲んで「鹿児島白ナス」として販売しました。案の定、お客様から「白ナスを注文したのに緑色のナスが届いた」とクレームが殺到。
そこで2年目は「緑ナス」として売ることに。クレームはなくなりましたが、紫色のナスが主流の当時は消費者にウケず、売れ行きは芳しくありませんでした。
そして取り扱いがなくなるかどうかの瀬戸際に立たされた3年目。改めて生産者と「この子(野菜)の良さは何だろう?」と話し、いろいろな調理方法を試してみることに。すると、素揚げするとトロっとねっとりして一番おいしく食べられることに気づきました。
そこから、この食感をネーミングに。自宅で調理する際は手間がかからないように「フライパンに油を多めにひいて焼くだけ。トロトロ食感の『トロなす』です」と紹介しました。こうしてようやくヒットにつながったのは、担当してから4年程経った頃でした。

関係者皆にとって良い結果になった「新しい七草」

小堀さんと産地で一緒につくりあげた「新しい七草」

小堀さんが最近大ヒットを実感し、体が震えたとも話す「新しい七草」。
七草といえば、1月7日におかゆに入れて食べ、邪気を払ったり、年末年始にごちそうを食べすぎた胃を休ませたりする「七草がゆ」で知られています。
しかし、七草には根ものと葉ものがあり、収穫時期がそれぞれ違います。そのため生産者は1月7日に向けて収穫時期が揃うよう栽培計画を立てなければならず、それでもずれてしまうものは、小売店が保存をして7種を揃えて販売します。
ゴギョウやホトケノザといった、野菜ではなく野草の品種もあって栽培が難しいことや、繁忙期が年末年始になることから人手の確保も大変なため、栽培する生産者は年々減少しています。

小堀さんと産地は頭をひねり、家庭でも馴染みのある別の品目で七草を作ることにしました。大事にしたのは、植物の種目を本来の七草と同じ系統にすること。例えば、ナズナはアブラナ科のため、アブラナ科の植物の中から、栽培効率や品質、そして味のバランスを考えて選び抜きました。

構想から3年、パッケージデザインも新春カラーに一新して小堀さんと産地で一緒につくりあげた「新しい七草」が誕生。おかゆだけでなくサラダとしても食べられるようになったことで需要が高まり、期間内に完売。農家にとっては新しい商機になりました。
小堀さんは「大ヒットする案件は、『自分がもうけたい』や『誰か一人のために』ではなく、三方よしの皆にとって良いものができた時に生まれる」と話します。

野菜のブランディングとは

今回の農家訪問の同行中、小堀さんは何度か「私はバイヤーじゃなくて、“愛の野菜伝道師”なんです」と強調しました。この言葉に、小堀さんがヒットメーカーである所以を感じます。
野菜を売ろうとなった時、土地の風土や育ってきた人々、織りなしてきた文化に思いをはせながら「この子(野菜)をどう売り出せるか、どう残していけるか」を生産者と一緒に突き詰めること。売るための方法だけでなく、皆がハッピーになれる方法を模索すること――。
数々の野菜をヒットさせてきた小堀さんですが、特徴的な名前を考えたり、メディアに取り上げられたりすることは、施策のうちのほんの一部。実際の活動はとても地道なものにも感じられます。

最後に小堀さんは「これからは、まだ日の目を浴びてないご当地野菜に注目しています。ご当地野菜には個性があり、ストーリーがある。歴史、風土、味、かたち等、まさに“野菜は土地の伝道師”。どういう風に売り出したら良いかを模索しどんどん紹介していきたい」と力強く話しました。これからどんな野菜たちが小堀さんの手で輝いていくのか、楽しみです。

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ご当地野菜の生産者

<取材協力>
ゆっくり農縁

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