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人口減少時代に産地を維持するJAの戦略 収量と価格の向上、機械化を次々実現

山口 亮子

ライター:

人口減少時代に産地を維持するJAの戦略 収量と価格の向上、機械化を次々実現

農家の高齢化と減少が進む中、いかに産地を維持していくか。これは全国に共通した悩みだ。特に人手のかかる野菜や花きといった園芸作物で、労働力不足が深刻化している。お手本になりそうなのが、愛媛県のJAうま(本店・四国中央市)がサトイモの生産を維持すべく取ってきた戦略だ。品種改良による収量の向上、機械化による省力化、ブランド力アップによる販売価格の上昇など、続けざまに対策を打ってきた。

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収益性の高いサトイモを輪作に組み込む

愛媛といえばミカン。そんなイメージが強いだけに、中国四国地方で第1位の栽培面積を誇るサトイモの大産地であることはあまり知られていない。

「新規就農希望者が集まるフェアで『愛媛から来ました』と言うと、段々畑にミカンが植えられているところで農業できるのかなと思う人が多いみたいですね。でも、この辺はそうじゃないので」

JAうまの営農指導販売課長である石井成幸(いしい・なるゆき)さん(冒頭写真)はこう話す。管内でもかんきつは生産されているが、販売額のおよそ3割弱である4億円(2022年)を稼ぎ出す主力の農産物は、サトイモ。2022年産で355戸が約85ヘクタールで栽培していて、愛媛県のサトイモをけん引する主力産地なのである。

管内では「日本三大局地風」の一つである「やまじ風」という強風が吹く。そのため、風に強いサトイモが昔から作られてきた。収益性が高く収穫期間が長いサトイモを、水田の輪作に組み入れた栽培体系が確立されている。ところが、そんな産地を複数の危機が襲った。

主力品種の品質低下で新品種を開発、普及

まずはじめの危機は、主力品種の「女早生(おんなわせ)」に収量と品質のばらつきが生じてしまったことだ。1943年ごろに同県に導入されたとみられるこの品種は、収穫したイモを種イモとして次期作に使う自家増殖が繰り返され、収量と品位が下がってしまった。加えて、長い形のイモが多く、丸いイモが秀品として評価される市場では、味が良いにもかかわらず販売価格が伸び悩むという課題もあった。

そこで、丸くて秀品率が高く、収量の高い品種の育成に愛媛県が着手する。開発した品種「愛媛農試V2号」は、女早生よりも3割多収で、丸い形状により秀品率が高まった。色が白く、舌触りが滑らかで、強い粘りを持つ。品種の優秀さを農家に認められ、2006年の導入からわずか4年で、女早生から新品種に全面的に入れ替わった。品位の低下を防ぐため、同JAでは優良な種イモを増殖し、毎年農家に配布している。

この品種をJA全農えひめ(松山市)が「伊予美人」という名前で商標登録し、ブランドの浸透に努めてきた。

伊予美人。丸い形のイモが多く、秀品率が高くなる

機械化で面積拡大を可能に

もうひとつの危機は、「昔からの産地だけに、農家の高齢化が進んでいる」(石井さん)こと。

JAうまが事業の対象とする四国中央市は、製紙業をはじめ工業が盛んだ。そうした就職先が多い分、後継者不足に早くから悩まされてきた。

そこで、2007年にJAうまが確立した「サトイモの機械化一貫体系」の技術を普及・定着させることにより、規模拡大を可能にしたのだ。

それまでの栽培方法だと、水田の耕起、畝立て、定植の後、暑いさなかの夏に追肥と、株際に土を寄せる培土を何度も繰り返す必要があった。重労働が伴うだけに、1戸で栽培できるのは18アールが限度だったという。

そこで始めたのが「全期マルチ栽培法」。生育期間を通じて畝をマルチで覆い、追肥と培土を不要にした。最初に、管理機で畝立てと施肥、マルチ張りを同時に行い、移植機で植えつける。収穫も機械で行う。

「収穫まで追肥が不要な被覆肥料を、肥料メーカーと連携して独自に開発したんです。この機械化一貫体系によって、1戸当たりの面積が拡大しました。平均的なのは20~30アールですが、2、3ヘクタール栽培する農家もいます」(石井さん)

畝立てと施肥、マルチ張りを同時にこなせる管理機(株式会社JAファームうまの倉庫で)

イモを植えつける移植機

JAの子会社で作業請け負う手厚いサポート体制

10アール当たりの作業時間は、従来に比べ4割減った。農家からは「作業が楽になった」「面積拡大が容易」といった声が寄せられている。

一方、機械化すると、設備投資が経営上負担になるという側面もある。
「その対策として、JAの子会社で農業法人の『JAファームうま』で、畝立てから移植までの作業を請け負っています。たとえば新規就農で機械を買うほどの投資ができないのであれば、そういうサービスを利用する方法があります」(石井さん)

なお、JAファームうまは作業を受託するだけでなく、サトイモやコメを生産している。自らが地域農業の担い手となりつつ、新たな担い手を育てる役割も持つ。新規就農を希望する研修生を受け入れていて、2022年に研修を終えた1人が管内でサトイモ生産を始めたばかりだ。

トラクターで掘取機をけん引して収穫する

選果の負担を大幅に軽減

農家の負担が大きかった選果作業については、管内の選果場が古くなり更新の時期を迎えたタイミングで、JA全農えひめと近隣の3JAと共に「愛媛さといも広域選果場」を整備した。

650戸の生産者が出荷する、サトイモの広域選果場。全農県本部と4JAが連携し、新たな需要を切り開く

管内にあった古い選果場では、品質によって「秀」と「優」に分け、さらにサイズ別に分ける作業しか請け負っていなかった。掘り取ったイモは、茎の直下にある大きな親イモの周りに子イモ、さらに孫イモなどがくっつき合っている。それらを分離して根を取る「粗かぎ作業」は、農家が自前で行っていた。

今では親イモだけ取り除いて広域選果場に持っていけば、粗かぎの作業費を支払うことでイモを分離する煩雑な作業を任せることができる。

4JAの収穫物が集約されることで「量が確保できるようになって、市場との交渉がしやすくなったのはメリット」と石井さん。一方で、古くからの産地として、JAうまと農家が苦労と努力を重ね築いてきた、市場や消費者との信頼関係を失うことのないよう、新たに管外で栽培を始めた産地の栽培技術や品質の向上を図る必要性を感じている。

「地域ごとの品質の差を埋めていかないと『伊予美人』というブランド名が通っていかない。協力して品質の統一を図らないといけないと思っています」

愛媛というとどうしてもミカンに目が行きがちだが、機械化されて手堅く稼げるサトイモこそ実は伸びしろが大きい。取材を通してこう感じた。

JAうま

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