紙伝票による集出荷。職員の負担大きく
「現在、管内のイチゴ委員会とダイコン委員会の二つで試験運用を進めていますが、職員や組合員からの反応は上々です。これまで1日あたり100分ほど要していた荷受入力などの現場作業も5分ほどになると見込んでいます」。
JAハイナン総務企画部の水嶋さんがこう振り返るのは、株式会社kikitori(東京都文京区)が展開するJA出荷拠点向けクラウドシステム『nimaru(ニマル)JA』の導入に関してだ。同システムは出荷者からの出荷連絡や荷受、分荷や販売伝票の作成などがスマートフォンやタブレットで手軽に行えるサービス。JAの利用する電算システムや出荷先業者へのデータ連携も容易に行えるとあって、集出荷機能や生産者とのコミュニケーション機能などを含めて2023年1月現在、全国65のJAで導入実績がある。
農産物の流通拠点であるJAの多くでは、生産者が持ち寄った出荷伝票をもとに職員が検品作業やデータ入力を行うといった光景が今なお見られる。JAハイナンもしかりで、これらの作業をイチゴであれば約30人、ダイコンであれば約80人の生産者の対応にあたってきた。水嶋さんによると、外部事業向けの帳票作成も含め、これら一連の出荷作業にかかる時間は1日100分程度。ミスが生じやすい手作業も多いだけに、職員の業務負担が問題視されてきたという。
こうした現状を打開しようと、同JA内では昨年、業務改善プロジェクトが発足。水嶋さんは「集出荷の繁忙期には現場作業に掛かりっ切りでしたが、本来我々は組合員の所得向上に寄与する役割も担っていかなければなりません。今後はそうした仕事に、より時間を充てていかなければと思っていました」と、当時を回顧する。
LINEで登録、ハードル低く
『nimaruJA』の存在はプロジェクトメンバーからの提案で初めて知ったという水嶋さんと良知さんだったが、機能を見て「これなら使ってもらえる」と直感した。コミュニケーションアプリ『LINE』で利用登録ができ、生産者側が新たにアプリをダウンロードしたり、各種登録情報を入力したりする必要がなかったからだ。同JA流通販売部で主にイチゴの販売事業を担当している良知さんは「組合員にとってなじみのあるLINEで利用登録できる点が一番魅力に感じました。もともと、これまでFAXや電話で行ってきた組合員への連絡手段を別の方法へ切り替えたいと思っていたタイミングでしたし、組合員へ話をした際も肯定的な意見が多く挙がりました」と話す。
システムの導入・普及が頓挫するケースは少なくないが、その理由は実際に利用する生産者を巻き込めていないところが大きい。生産者がデジタル化に対応できず継続的な利用が敬遠される、要領を得ずアプリなどのインストールや利活用に難航するというのはよくある話だ。一方『nimaruJA』であればアプリのインストールや登録の際の入力作業は不要。簡単な説明のみで難なく利用できる。また、『nimaruJA』はLINEだけでなく、スマホを保有していない生産者向けに荷受現場でのタブレットを使った荷受登録や、従来の紙伝票をもとにした職員による代理入力も可能なため、JA内でもそれぞれの出荷部会のレベルに合わせて対応ができるという。
さらに、『nimaruJA』は組合員が使い慣れたLINEを窓口に利用が可能な一方で、やり取りされるデータや情報はLINE上には一切残らない仕組みとなっているため、高いセキュリティ水準が要求されるJAの基準を満たせる仕組みとなっている。また、JA側はLINEのインストールは必要なく、IDとパスワードを使って利用が可能である。
100人以上の生産者が試験利用。作業負担がほぼゼロに
同JAでは昨年12月、イチゴ、ダイコン両委員会の組合員にシステムの説明会を行い、試験的に運用を始めた。スムーズに普及が進めば、ゆくゆくは出荷量が最も多いレタスなど他の品目にも応用していくという。
「当初は一部組合員から登録が面倒という声もありましたが、使ってみると『連絡が便利になった』と好評でした。毎朝8時ごろから100分ほど要していた荷受入力作業などが、ほぼ解消されました」と良知さん。現在は『nimaruJA』によって節約した時間を使って、生産者と相場の動きや出荷のタイミングなどの建設的なコミュニケーションができているという。
FAXや電話からも脱却の兆し
『nimaruJA』導入のメリットは、農産物流通のみにとどまらない。これまでFAXがメインだった販売情報の伝達や総会の出欠連絡も全てスマートフォン上で簡単に行えるようになった。良知さんは「組合員にとっても、これまで家に帰ってからでないと確認できなかった情報が、タイムリーに届けられるようになりました。FAXで掛かっていた紙やインク代を抑えることにもつながっていると思います」と評価する。
また、生産者は自らが出荷した農産物の履歴をいつでも見返すことができるほか、これまで出荷翌日に知らされてきた出荷物の評価結果を、同システムによるタイムリーな情報伝達によって当日中に知ることもできるという。
人間にしかできない、付加価値をつける仕事に注力
『nimaruJA』を展開する株式会社kikitoriの上村聖季(うえむら・まさき)さんは「農産物という供給が不安定な商品の需給調整を行うとともに、そこへいかに付加価値をつけていくかを考えるなど、JAさんが担っている役割は非常に難易度が高いと思います。このシステムによって集計や入力作業などに費やしていた時間を、人間にしかできない販売先や生産者との戦略づくりや提案などに充ててほしい」と思いを打ち明ける。
水嶋さん、良知さんも同調し「我々JAは農産物をどれだけ高い単価にできるかが勝負。販売戦略を組み立てていく上で重要な情報を素早く組合員の方々に共有していきながら、農産物の価値や生産者の所得向上につながる仕事に注力していきたい」と力を込めた。
日々の業務や取引を効率化する同システムが、農産物流通におけるJAの介在価値をどのように高めていくのか、今後に注目したい。
▼『nimaruJA』の詳細はこちら
https://sam.nimaru.jp/