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卸会社への出荷連絡をシステム化 元大手商社マンが挑む中高時代からの夢

連載企画:農業経営のヒント

卸会社への出荷連絡をシステム化 元大手商社マンが挑む中高時代からの夢

農産物流通を外から見ている人の中には、市場を遅れていて非効率なものだと思っている人がいるかもしれない。実際はそうした見方の多くは誤解。しっかり役割を果たしているからこそ、いまも市場は農産物流通で中心的な位置を占めている。IT(情報技術)を活用し、そのさらなる機能強化に挑むkikitori(キキトリ、東京都文京区)の上村聖季(うえむら・まさあき)さんに取材した。

対話アプリ「LINE」を使って農産物流通を効率化

「中高生のころから、将来は農業関係の仕事をしようと思っていた」。上村さんはそう話す。農業に興味を持つようになったのは、プランターで植物を育てたことがきっかけだ。大学時代もその思いは変わらなかったという。

卒業後、いったん大手商社に就職した。特筆すべきは仕事とは関係なく、知人の紹介などでそのころから農家と接点を持つようにしていたことだ。そして当初の予定通り、3年で会社をやめて2015年にキキトリを設立した。
キキトリには現在、二つの事業の柱がある。

一つは、農産物流通の情報システム「nimaru(ニマル)」。農家がスマホの画面をタップし、出荷する野菜の大きさや量などを市場の卸会社に連絡する。野菜を入れるコンテナなども、ニマルの画面で発注することができる。

ニマル

ニマルの画面

卸会社への出荷連絡や資材の発注は、いまも電話やファクスを使っているケースが少なくない。作業が忙しいときに卸会社の担当者とうまく連絡がとれないと、農家にとって大きなストレスになる。ニマルはそれを解決した。

ニマルの特徴は、専用のアプリを使わなくても、対話アプリの「LINE(ライン)」を通してアクセスできるようにしたことにある。サービスを利用しようと思っても、年齢の高い農家の中にはアプリのダウンロードがハードルになる人もいる。LINEならその点、すでに多くの農家が使っている点に着目した。
試行錯誤を経てシステムを完成させ、サービスを本格的に始めたのが2020年5月。現在、約300人の農家と20の卸会社がニマルを使っている。

事業のもう一つの柱は、2017年から始めた実店舗の運営。青果店の「八彩(やさい)」や、カットフルーツなどを販売する「KAJITSU(かじつ)」を都内で合わせて4店運営している。自ら販売を手がけることで、青果物の規格や品質、流通について理解を深めることができる。その知識はシステム開発にも当然生きてくる。

八彩

青果店「八彩」(東京都文京区)

産直サイトにも挑戦してみた

市場流通にはどんな意義があるのか。そう上村さんにたずねると、「消費者があのクオリティーのものを安い値段で買うことができるのは、市場流通なくしてありえない」という答えが返ってきた。「地方の農産物をタイムリーに都市に届けることができる。世界的に見ても優れた仕組みだと思う」

上村さんは「本当に市場が非効率だったら、いま残ってはいない」とも強調する。ただ「仕組みそのものは優れていても、電話を使うなどアナログで時代遅れの面もあった」。それを解決するために開発したのがニマルだ。
一方、上村さんは市場とはまったく違う農産物流通に挑んでみた経験もある。産直サイトだ。
サイトの名称は「toriii(トリー)」。2016年にサービスを開始した。「農業に関係する仕事がしたい」という起業の目的を実現するため、まず浮かんだ構想の一つが生産者と消費者を直接つなぐ産直サイトの運営だった。

トリーの資料

産直サイト「トリー」の資料

サイトに登録する農家は、車で全国を回って増やしていった。ホテルは利用せず、車の中で1週間ぐらい寝泊まりしながら各地の農家を訪ね歩いた。そのころは会社を立ち上げたばかりで、売り上げがあまりなかったからだ。

電話で頼むのではなく、じかに会って回ったのはそのほうが登録に結びつくと考えたからだ。商社時代に休みを使って農家と交流した経験がこのとき生きた。生産者がどんな思いで農産物をつくっているかにじっくりと耳を傾け、それをサイトで丁寧に伝えることでサービスを充実させていった。

生産者は約100人にまで増えた。だがその過程で、上村さんは「このビジネスを大きく広げるのは難しいのではないか」と考えるようになった。他の産直サイトと同様、農産物の輸送には宅配を使っていた。送料を払うのは消費者。その負担が必ずしも軽いものではないことが、拡大に限界を感じた理由だ。

熟慮を重ねた結果、2020年の秋ごろにトリーのサイトを閉じた。上村さんは「サイトを利用して熱心に農産物を買ってくれる消費者がいたことはうれしかった。だがあのまま続けるべきではないと思った」と話す。

市場流通と産直サイトの二者択一ではない

最後に触れておくべきことがある。それは上村さんが産直サイトそのものを否定しているわけではないという点だ。「農産物流通は、市場と産直サイトのどちらかが正解ということではない」。上村さんはそう強調する。
その根拠は、農家にはさまざまなタイプがあるからだ。

ではどんな農家が産直サイトに向いているのか。
その答えとして挙げるのが、いろいろな種類の野菜を少しずつ育てているような生産者だ。

少量多品目の農家には、栽培上のこだわりや自分の思いなどを伝えたいと思っている人が少なくない。そのために必要なのは、消費者や飲食店などと直接つながることだ。トリーの登録農家の中には、産直サイトが登場する以前から宅配便で消費者に作物を送っていた農家もたくさんいた。

上村聖季さん

「農業に関わる仕事がやりたかった」と話す上村さん

一方、地方の広大な農地で少ない品目を栽培し、大量に出荷しているような農家は産直サイトには向いていない。彼らにとって重要なのは、作物をまとめて効率的に運ぶことだからだ。それこそが、市場が担ってきた役割だ。そして上村さんはニマルなどを通し、市場流通の発展を応援する道を選んだ。

筆者は10年余り農業取材を続けているが、何らかの形で農業に関わりたいと思う若者が以前と比べて随分増えたように思う。中高生のころから農業関連の仕事に将来就くことを考え始め、思いを貫いて起業した上村さんもその一人。産直サイトの運営にたずさわる人も農業に寄せる思いは共通だろう。

彼らの奮闘で農業はきっともっと元気になる。そう思いながら、日本の農業の応援団になった人たちの活躍にこれからも注目していきたいと思う。

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。
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