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化学肥料高騰で注目される汚泥肥料、現状と課題

山口 亮子

ライター:

化学肥料高騰で注目される汚泥肥料、現状と課題

化学肥料の高騰は、収束の兆しが見えない。化学肥料は原料を輸入に頼っており、その価格は国際相場に左右される。高騰を受けて、国内の未利用資源を活用する方向に、行政も農家も動いてきた。とくに注目を集めているのが、下水処理場から出る汚泥を使った「汚泥肥料」だ。

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肥料高騰 ウクライナ侵攻がダメ押しに

化学肥料の価格は、2021年夏からほとんど“全面高”と言っていい状況にある。背景には、世界的な穀物価格の値上がりを受けた需要の増加、内需を優先する中国による実質的な禁輸措置などがある。

さらに、2022年2月に始まったウクライナ侵攻が火に油を注いだ。経済制裁と天然ガスの値上がりで、塩化カリウムと窒素肥料の国際価格が高騰したからだ。日本は塩化カリウムのおよそ4分の1を、制裁の対象となったロシアとベラルーシから輸入してきた。

化学肥料原料の輸入相手国、輸入量

出典:農林水産省「肥料をめぐる情勢(令和4年4月)」

今はカナダからの輸入に切り替えているものの、多くの輸入国が同様の対応をし、価格を押し上げてしまった。日本の肥料消費量は世界の0.5%(2019年)に過ぎないので、どうしても国際市況に振り回されてしまう。

原料価格

2021(令和3)年から化学肥料の原料価格が上昇している。農林水産省「肥料をめぐる情勢(令和4年4月)」より

なぜ今、汚泥肥料なのか?

2008年以来の高騰として騒がれている今回の波がいずれ収まるにしても、化学肥料の値上がり基調は避けがたい流れだ。資源は有限であり、世界的に人口増加と農業の近代化が進む以上、肥料の需要は増え続ける。そうなると、化学肥料を節約し、ほかの肥料や堆肥(たいひ)に置き換える対策が必要になる。

近年は家畜ふんなどを原料とする堆肥の活用が増えているものの、使いこなすのが難しいという欠点がある。効くのに時間がかかり、季節や天候などに効果が左右されてしまうからだ。
それだけに、国内の未利用資源を使い、かつ化学肥料並みに早く高い効果を出すとして、「汚泥肥料」が注目を浴びている。し尿処理で生じる下水汚泥を乾燥させたり発酵させたりしたもので、肥料の三要素(窒素、リン酸、カリウム)のうち、窒素とリン酸を豊富に含む。

汚泥肥料

下水汚泥(右)を乾燥させたもの(左)と、肥料として使いやすいようにペレット化したもの(中央)

全国の下水処理場の半数が手掛ける肥料化

国土交通省によると、全国に約2000ある下水処理場のうち、およそ半数が汚泥の肥料化を手掛けている。それでも、量で見ると、汚泥のうち肥料として利用されるのは14%に過ぎない。最多の50%は、焼却して建設資材にされる。リサイクルされず、焼却後に埋設処分される割合も25%と高い。

下水汚泥が豊富に含むリン酸は、将来の枯渇が心配され、かつ中国というハイリスクな国からの輸入に頼るものだ。14億もの人口を擁する中国は内需を優先しており、2008年の高騰時にもやはり、実質的な輸出規制を敷いていた。

にもかかわらず、国内にある大量のリン酸資源が農業利用されず焼却されている。なんとも惜しい話である。

無償や低価格の販売多く、事業の採算性に課題

なぜ汚泥肥料の製造量が増えにくいのだろうか? 理由は主に四つある。

まず一つ目は、製造の採算が合いにくいことだ。多くの自治体は、汚泥肥料を無償あるいは微々たる額で販売していて、利益を出すに至っていないとみられる。それだけに、手間のかかる肥料化ではなく、焼却といったより安価な処分方法を選ぶことになる。

二つ目は、使用する農業側の需要を踏まえない製造が行われがちなこと。下水処理場は、自治体の国交省系の部署が管轄する。そのため、農水省系の部署と連携できておらず、農業にうまく取り入れてもらえないことが、ままある。最悪の結果として、特定の農地に大量の汚泥肥料を投入するという、不法投棄と変わらない使われ方をされることもある。

重金属の除去もネック

三つ目は、重金属の問題だ。家庭からの下水しか流入しなければ問題はないのだが、工場といった事業所の下水が混じると、基準値以上の重金属が含まれてしまう危険性がある。肥料として使うには、その値を管理することが欠かせない。

「肥料の品質の確保等に関する法律」は、重金属の許容値を下回るように肥料を製造しなければならないと定めている。汚泥肥料として無償または有償で配る場合、製造する事業者は、同法に基づいて重金属の基準を守ったうえで肥料を登録する。そのため、重金属をいかに取り除くかの研究がなされている。

国交省下水道企画課は、各地の下水処理場が「重金属についてモニタリングし、基準値以下のものを流通させているはず」とする。そうではあるが、「個々の状況までは把握していない」。

肥料として使える乾燥汚泥は、建設資材の原料にもなる。それだけに、譲渡の仕方によっては、法の網目から漏れる可能性も、ないではない。

汚泥肥料の質と安全性を担保するためにも、肥料を無償譲渡するのではなく、質の高いものをそれなりの価格で販売し、利益を得られる事業に変えていく必要がある。

イメージ改善しつつ、増産できるか

四つ目は、汚泥肥料という名称からくるイメージの悪さだ。たとえば、食品残渣(ざんさ)に由来する肥料や堆肥を使えば、環境に配慮した取り組みとして消費者にアピールしやすい。汚泥肥料の活用も、同様に環境への配慮をうたえるはずなのだが、汚泥という言葉が強烈なだけに、使っていることを強調しづらい。

せっかく使っても、付加価値に変えにくいのが泣き所である。消費者の意識を変えていく必要がある。

国交省下水道企画課は「国内資源の有効活用の観点からも、汚泥の処分をいかに肥料としての利用に引き寄せていくかが課題」として、肥料化を一層促していく考えだ。

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