需要期のロット確保へ
「需要期のロットを確保して、産地として確立したい」。新会社を設立する理由について、吉田さんはこう説明する。
吉田さんは、施設と露地を合わせて92アールで菊を栽培する(株)文ちゃん園芸の代表を務めている。文ちゃん園芸では、スプレイ菊と小菊の割合が販売金額ベースで2対1くらいである。
一方、文ちゃん園芸を発展的に解消して設立する新会社では、その割合を逆転させて2対3にする計画だ。同法人に取締役として参加する佐藤洋介さんと佐藤志朗さんの農地も加えることで、2023年度の菊の総栽培面積は3ヘクタールにまで広げる。
小菊の生産を拡大するのは、盆と彼岸という需要期の供給が足りていないから。出荷量を増やすことで、小菊の産地としての評価を得るつもりだ。
「コメに代わる品目を探す中、野菜は機械化されていて大規模化できるし、回転数も多い。だから、雪の影響で半年しか農業ができない秋田県が太平洋側の産地と競い合える見込みは薄い。それよりは、小菊のように需要期が決まっている品目のほうがいいと思った」
機械化の前提となる電照による開花調整
ここにきて小菊の生産を拡大することに踏み切ったのには、機械化一貫体系が確立されたことも大きく影響している。
露地栽培が基本の小菊を作るうえで、これまで課題だったのは、省力化と低コスト化だった。機械化されておらず、労働集約的である。しかも、作業が盆と彼岸に集中する。加えて、生育や開花が気象に左右されやすいため、需要期に安定して出荷することが難しい。以上の理由から作業が遅れ、品質の低下を招いてしまう。
こうした課題を解消するため、県農業試験場は、まずは電照によって開花調整できる品種を選抜した。吉田さんはその実証圃を提供している。
開花がそろえば、機械で一斉に作業ができる。慣行栽培では定植前までに、耕起→施肥→耕起→畝立て場所の印付け→畝立て→マルチ張りといった順番で作業をしている。おまけに畝立て場所の印付けは、通常なら2~3人の人手をかけてこなすので、時間と手間がかかっている。
この最初の耕起以外の作業をすべて一度にこなすため、県農業試験場が実証したのが自動直進機能付きの畝内部分施用機だ。自動直進機能付きのトラクターを使って、畝立てと同時に畝中央部に施肥する機械である。
収穫機の導入で作業時間は41%減
これまで収穫は鎌を使った手作業だった。そこで同試験場が収穫機の実証試験をしたところ、作業時間は41%減らせた。この収穫機には、収穫と同時にフラワーネットを回収する機能も付いているので、収穫後に必須だった「片付け」も不要になる。
ただ、一斉に収穫すると、調製の作業が込み合うという課題が生じる。それを避けるため、県農業試験場は「切り花調製ロボット」や冷蔵保管によって省力化や出荷時期を分散化させる方法も試した。
このうち「切り花調製ロボット」は、花を一本ずつ機器の上に乗せていくだけで、出荷の規格に応じて茎と下葉を切断。さらに、重量別に分けて10本ずつを結束する。結束した花束は収納部に輸送されるので、箱詰めの作業が楽になる。
吉田さんは一連の技術を導入し、その効果を確かめたことから、新会社を設立し、規模拡大を図ることにした。小菊を露地栽培する3ヘクタールの農地は一カ所に固まっている。その付近に調製と予冷をする施設も整える。
従来はJAの集荷施設に運んでいたが、「それだと手間も時間もかかる」。一方、調製施設を整えて自分たちでロットをまとめられるようになれば、需要期には市場の車が取りに来てくれるので、「自分たちとしては楽になる」という。
予冷の機能を持たせることについては、「相場がいいときになるべく出荷するには必要不可欠」と語る。
周囲の農家から調製の作業受託も
この施設では、周囲の農家が作った菊も集荷して、調製の作業を受託するつもりだ。男鹿市では、稲と菊を作っている農家が少なくない。ただ、菊の終盤が稲刈りの時期に重なることから、作るのを止める農家が出ている。「うちで調製を代行すれば、農家は収穫するだけで済むので、菊を作り続けてもらえるはず。うちにとっても仕事が増えるのでありがたい」と吉田さん。
当面は年間92万本を出荷する計画。今後は栽培面積を拡大して、300万本を目指す。秋田県では基盤整備事業が進んでおり、事業採択の条件として高収益作物を作ることがある。吉田さんは「稲作農家は園芸に手を出したがらない。だったら僕たちが代わりにやりますと提案して、小菊を作れる場所を広げていきたいですね」と話している。