離農・規模拡大による人手不足「地域内だけでは限界を迎えていました」
北海道の東北部、オホーツク海に面している小清水(こしみず)町。主要作物はじゃがいも、小麦、てんさい。他にもアスパラやカボチャ、ニンジンなどを生産しています。農家戸数の減少(平成15年376戸→同29年311戸)、経営規模の拡大(平成15年25.0ha→同29年30.9ha)が急速に進んでいるのは日本の他地域と同様。農業人口も当然、減少しています。「後継者のいない農家さんが高齢となり営農を中止するケースが多いのです。その農地を地域の担い手で受け継いだ結果ですね」(JAこしみず 部長 渡部徳智さん)。
約4500人いる住民の7割が何らかの形で農業に関係していることに加え、近隣に大きな街がないことから「繁忙期に派遣やアルバイトで短期的に労働力を確保することができません。家族労働だけでは営農に支障をきたしてきているというのが実情です」(JAこしみず 係長 千葉伸吾さん)。このままでは町の農業が成り立たなくなると思い、定住してくれる働き手の必要性を感じました。しかし小清水町は露地栽培が中心のため冬は仕事がありません。報酬を払えなくては定住してもらうこともできないと考えたJA。そこで出たのが、「農繁期が小清水と異なる地域から人を呼ぶことはできないだろうか?」という案でした。
農繁期が異なる北海道と愛媛を行き来
双方の地域と働き手にメリットが
「気候が同じ北海道だと忙しい時期が重なるはず。ならば南だろうとシンプルに考えました(笑)」。様々な地域の課題解決に取り組んでいるシンクタンク、北海道総合研究調査会(HIT)に紹介されたのが愛媛県のJAにしうわです。「以前から、JAにしうわが人員確保の面で様々な取り組みをしていることは知っていました。視察のためすぐに愛媛に飛びました」(渡部さん)
4~5月の播種、8~10月の収穫時期が多忙な畑作の小清水。11~3月に収穫を行う柑橘栽培の西宇和。「多忙な時期に合わせてお互いの人員を行き来させるという提案を快く受け入れてくれました」と当時を振り返ります。平成29年に両地域は連携協定を締結。人材の往来を開始するまで準備期間はわずか1年というスピードで新たな試みが始まりました。「互いに多忙な時期に労働力を確保できるという地域農家のメリット。年間を通じて安定した収入を得られる働く側のメリット。開始当初から上手く運用でき、コロナの問題もあって急速とは言えませんが、徐々に行き来する人数も増えています。取り組みとしては大成功ですね」。
さらなる労働力確保のため、北海道総合研究調査会(HIT)が紹介してくれたのが大阪の「泉州アグリ」。「就業が困難な方の社会復帰支援も行っている農業生産法人です。自然に囲まれて、体を動かし、たくさん食べて、よく眠るというサイクルが人に好影響をもたらすこともあると知りました」。昨春に小清水町で農作業を実施したスタッフの1名が、小清水の地域おこし協力隊に就任しました。地域の枠を越えた連携は着実に成果を上げています。
成果はそれだけに留まりません。「小清水の農家後継者が西宇和へ行くことがあるのですが、畑作とは違った作業、経営の在り方を学ぶことで見識が広がっています。意識の高い農家さんから、働き手への接し方、物作りへのマインドなども学んでいるそうです」。地域にいるだけではなかなか得ることができない経験が、町の農業の発展へつながることも十分に考えられそうです。
公社を設立して業務を拡大
より働きやすい環境へ整備が進む
「もちろん、ここに至るまで様々な課題がありました。その一つが働き手の所属の問題です」。当初はJAの所属としていましたが、農業の実労働だけではなく、作物の生産・加工や販売まで行うのは限界があるということで令和2年に農業振興公社を町とJA、小清水に関わりの深い企業2社で設立。令和4年に小清水高校の跡地に建てられたアグリハートセンターを拠点に、町内農家と西宇和の作業支援だけでなく商品開発や栽培業務などを学べる場となっているのです。
「仕事の幅を増やすことで、より通年で働く職員を雇用しやすいようにしたのです」。生産・販売を手掛けるスイーツ「小清水とろり(スイートポテト)」は次々と新味を発表、西宇和の日向夏を使った連携商品も登場するなど、他地域との連携も生かしています。
またセンターには宿泊所も完備。他地域から小清水に働きに来る人の拠点となっています。「個人が両地域で部屋を借りるのは費用の負担が大きいですからね」。新たな試みの成功は担い手が安心して両地域で働くための環境、条件整備があってこそと言えるでしょう。
全国の農業が抱える人手不足問題
「地域連携はその糸口になります」
令和4年度には農林水産省の「農業労働力確保支援事業」を活用し、新たな連携先として東京や北海道、長崎の4機関を追加しました。
「小清水は今後も、連携できる地域や団体を探し、より働きやすい環境作りを進めていきたいと考えています」と渡部さん。「過疎が進んでいる地域で農業を頑張っている方は多くいらっしゃいます。ですが、人手不足はもはや狭い地域の中だけで解決できる問題ではないと思います」。農繁期が重ならない地域同士がタッグを組めば、限られた人材を有効活用できることを、小清水と西宇和は証明しています。
「全国の人手不足に悩む地域が一堂に会して、お互いの実情を相談し合える。そんなお見合いみたいな機会があったら良いなと本気で思いますね」。
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株式会社 小清水農業振興公社
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