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データ分析を農業経営に活用! PDCAサイクル農業とは!?

鮫島 理央

ライター:

データ分析を農業経営に活用! PDCAサイクル農業とは!?

PDCAとは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)のサイクルを繰り返し行うことで、業務改善を図る管理手法のことだ。ビジネスにおいてはよく見る言葉だが、農業の現場ではあまり聞かれない。PDCAサイクルを農業で活用するためには、何が必要なのか、そしてどのようなメリットがあるのか。実際に農業経営でPDCAサイクルを実践している合同会社穴ファームOKI代表の沖貴雄(おき・たかお)さんに話を聞いた。

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PDCA農業を始めたきっかけ

日頃の農業経営にPDCAサイクルを活用しているのは、沖貴雄さん(31)。広島県山県(やまがた)郡安芸太田町で合同会社穴ファームOKIを営む農業経営者だ。沖さんは、兼業農家の家に生まれ、幼い頃から祖父の畑仕事を手伝うなど農業に親しみを持って育った。高校を卒業した後は広島県立農業技術大学校に進学。一時は農協への就職も考えたが、最終的には、職業として農業をすることを決めた。7年前に就農し現在は7人のパートとともに、ハウス18棟(46アール)、露地2.2ヘクタールの面積で、ホウレンソウやトウモロコシ、白菜やキャベツ、レタスなどさまざまな種類の野菜を栽培している。

風景

自然豊かな安芸太田町で農業を営んでいる

沖さんが農業にPDCAを取り入れたきっかけは、就農前、認定就農者になるため営農計画を作った頃にさかのぼる。出来上がった営農計画書を見た広島県の農業普及指導員からは、「計画を立てて終わりではなく、計画値と実施した結果の数値を分析し経営に役立てることが大切」とアドバイスされた。これが沖さんがPDCA農業を始めるきっかけとなった。

日頃からできる小さなPDCAを実践する

就農後、沖さんは毎年試行錯誤をしながら記録を残し、分析を重ねて行った。はじめはエクセルや記録アプリなどを使っていたが、今は「アグリノート」という営農支援アプリを用いて日々の業務を記録しているという。では実際に沖さんは、どのような情報を記録し、そのデータから何を読み取っているのだろうか。

「1年目は全体的な収量や売上額など、財務的なことをデータに残し分析していました。2年目からは圃場(ほじょう)ごとの収穫量や収益性をエクセルで記録し、一年を通して収益の山と谷がどこにあるのかを分析しました。3年目からは圃場ごとの分析に加え、作物や品種ごとにも記録を始めました。さらに、グラフ化してより視覚的にデータ分析しています」(沖さん)

アグリノートには「農作業に関わるすべての情報を記録している」という沖さん。資材、労働時間、人員、品種、圃場などの作業データをすべて入力しているのだ。データは分析し活用しなければ宝の持ち腐れになってしまうが、沖さんは蓄積してきた情報を土壌改良やパートの雇用計画など、農業経営の根本に関わる業務に生かしているという。

しかし、土壌改良や雇用計画など大掛かりなものだけが、PDCA活用の対象ではない。沖さんは「日頃から達成できる小さなPDCAを行うことが一番大事」だと言い、次のように語った。

「例えば人件費を削減しようとした時に、年間の数字で見ると金額が大きすぎて、どこから経費を下げればよいのかわからず難しく感じていました。そこで1日単位で数字を見たところ、ホウレンソウの調整作業を10分短縮すれば、3パーセントの人件費削減につながることがわかったんです」

体感的にもわかりやすい小さな単位の目標を設定し、無理なくPDCAを回すことで、結果的に大きな数字目標を達成する。これが沖さんの言うPDCAサイクルだ。「もし売り上げ1000万円を1500万円にしようとした場合、いきなり500万円という大きな数字を達成するのは難しい。ですが、小さい目標値を決めて、確実に実行していく方法であれば、達成しやすいと思いませんか?」

ほうれん草

穴ファームOKIの主力作物であるホウレンソウ

とうもろこし

日の出前から収穫するこだわりのトウモロコシも主力商品だ

売り上げが減少した時こそ、PDCAを活用

普段からPDCA農業を実践している沖さんに、売り上げが減少した時のPDCA活用方法を聞いた。

病害虫が原因!? 要因分析にPDCAを活用!!

いつも通り栽培し、同じ販路で販売しているはずなのに、売り上げが減少していた……。ありえない話ではないだろう。

「売り上げというのは、収量×単価で決まります。売り上げが減るということは、収量と単価の数字が低下しているということ。単価は需要によって変動しますが、収量は自分で管理できる。だから、収量を落とさないためにPDCAを活用するんです」(沖さん)

沖さんは病害虫のデータも詳細に記録に残し、次の作付けに活用している。例えばアブラムシやヨトウムシといった害虫がどの圃場にいつ頃出始め、どのくらい被害が出たのかなど詳しく記録している。

出荷量(収穫量)前年比720540

2021年度と2022年度の出荷量(収穫量)の比較。出荷量の増減から、ホウレンソウの出来具合(草丈・大小など)や病害虫の被害などの影響を考察する

沖さんも、実は3年前、売り上げが減り収益が低下した。アプリに記録していたデータを1つずつ分析してみると、主力であるホウレンソウの収量と単価が下がっていることがわかった。沖さんは悪化している収量に着目し、収量が落ちた時期、何が生じていたのか、どこの圃場なのか、それぞれのデータを数値化しグラフ化した。これらのデータを分析した結果、べと病やヨトウムシの食害による被害が要因ではないかと判断した。

沖さんはこの経験を生かし、翌年の作付けではべと病が出始める前に予防剤を先にまいたり、防除薬剤を散布したりすることで対策をした。その結果、べと病や害虫の発生自体を予防し、被害をほぼ抑えることができた。まさに、Check(評価)とAction(改善)だ。
前年の経験から病害虫の発生を予想して対策することは一般的に行われているが、単なる経験則ではなく、過去のデータを根拠とすることで、より効率的な対策を行うことができる。

改定ほうれん草防除暦720540

沖さんが考案した防除暦。沖さんの圃場に合った防除の仕方だ

肥料が原因!? 土壌もPDCAで管理!!

収量維持には土壌の管理も不可欠だ。連作により土壌力が低下すれば、収量も減少する。土壌管理の側面からデータ分析したところ、バーク堆肥を入れていた土壌が乾燥傾向にあるのではないかと考えられた。そこで土壌診断をしてみると、腐食値がそれほど低くなかったので、腐植よりも保水を重視してバーク堆肥から緑肥に変更。土の保水力が高まり、収量が上がった。沖さんは「収量が落ちた理由を考え、それぞれの圃場に合った対策をデータから読み取ることが大切」と語った。

緑肥

緑肥として使うソルゴー

栽培のために収集してきたデータを、農場経営に活用

経営規模を拡大したいと考えている農業経営者は多いだろう。沖さんも将来的に農地の規模を広げ、正社員を雇用したいと考えている。だがデータにこだわる沖さんだからこそ、規模拡大の難しさもよく理解している。

「社員を雇用するにあたっては、固定費がいくら必要になるのか。固定費を上回るだけの収益を出すには、面積をどれだけ拡大する必要があるのか。考えるべき点はいくつもあります。そんな時、栽培のために収集してきたさまざまなデータを、こうした経営判断に活用することもできます」
見切り発車で先行投資して経営を圧迫しないよう、客観的に考察しながら規模を拡大する。経営には勢いも必要だが、PDCAは、経営者としての的確な判断を助けてくれる一助になりそうだ。

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