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私が猟師になったワケ~副業としての有害鳥獣捕獲のススメ~

yamamoto_akiko

ライター:

私が猟師になったワケ~副業としての有害鳥獣捕獲のススメ~

「畑で野菜を作りながら、家で本業のITの仕事をしてのんびり暮らしたい」
そう思い立ち、鳥取県の中山間地に移住したのが2018年。それから5年がたった現在、私は「午前は猟師、午後は在宅ワーク」という2足のわらじで生計を立てています。野菜を作るつもりだったのに、いつの間にか猟師になり、年間130頭以上のイノシシとシカをひとりで捕獲するほどに。ここではそんな私の自己紹介も兼ねながら、なぜ猟師になったのかお話ししたいと思います。

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イノシシ肉がおいしかったので狩猟免許を取得

私は夫とふたり、東京のIT企業でサラリーマンをしていました。
仕事にはやりがいも感じていましたが、日々満員電車に揺られる生活の中で、自由な働きかたや自然豊かな環境を求めて地方移住をひそかに計画していました。
その矢先、鳥取の中山間地に住んでいた祖父が他界し、その家を引き継ぐことに。2018年に「孫ターン」という形で移住し、在宅でIT関連の仕事をしながら、祖父の残してくれた畑で野菜作りをするなど、田舎暮らしを始めました。

移住して数カ月たち初めて迎えた春、私に運命の出会いが訪れます。私は集落の集会で、地域のおじさんが捕ったイノシシ肉を食べ、その味に感動したのです。

私がいただいたのは塩コショウで焼いただけのイノシシ肉でしたが、衝撃的なおいしさでした!

「自分で捕ったらタダでイノシシ肉が食べられるかもしれない」
「この集落では今、猟師がいなくなって大変らしいから、人助けにもなるな」
イノシシ肉のおいしさに押された勢いと、集落の人たちの勧めもあり、狩猟免許を取るべく、少しずつ狩猟に関する情報を集め始めました。
当時は猟師を職業にしようとは全く思っておらず、ましてや「有害鳥獣捕獲活動」の存在自体も知りませんでした。

ちなみに、狩猟や猟師、ハンターという言葉の定義は人によって違うようです。この記事では動物を捕獲することを「狩猟」、それをなりわいとする職業を「猟師」、趣味目的で狩猟する人を「ハンター」と呼ぶことにします。また、「有害鳥獣捕獲」は狩猟免許を持っている人が許可を得て、農林水産業や生活環境に被害を与える鳥獣を捕獲することです。今の私の活動の中心は、この有害鳥獣捕獲です。

公民館職員は地元情報に精通している

ところでみなさんは地元の公民館に興味を持ったことはありますか? 恥ずかしながら、私は都市部に住んでいる時は全く興味を持っていませんでした。
実は、公民館は防災や地域振興といった自治にも大きく関わっている場合があります。
そのため、公民館の職員さんは顔が広く、地元のキーマンに関する情報などにも精通している可能性が高いです。

私の地元の公民館職員も地元の情報に精通した人でした。私が移住してきたうわさを聞き、電話をくれたのです。ちょうど、狩猟免許を取ろうと決意した頃のことでした。
「山本さんは移住して家でITの仕事をされていると聞いたのですが、公民館のホームぺージ作成の相談に乗っていただけないですか?」

この電話の後に公民館へ足を運んだのがきっかけで、公民館職員さんにさまざまな地元の人たちを紹介してもらえるようになりました。

「これはいい人を見つけた!」とばかりに、実は狩猟をしようと思っていることを相談してみました。
すると、地元のハンターを紹介してくれ、
「狩猟免許を取るなら、まず市役所に相談に行くとよい」
「自治体によっては補助金もある」
「銃を持つつもりなら手続きが複雑だから警察に詳しく聞いておけ」
といったアドバイスをもらいました。
今思えば「よくぞこのタイミングで教えてくれた!」と言いたくなるような助言ばかりを手に入れることができたのでした。

市役所職員のサポート

市役所総合支所の職員さんたち。鳥獣害が激しい地域ということもあって担当の職員が配置されており、対策制度も充実しています

紹介してもらった人の中で、最初に心強いサポーターになってくれたのは、市役所の鳥獣害対策担当の職員さんでした。この職員さんには

  • 地元猟師さんとのパイプ役
  • 有害鳥獣捕獲と狩猟の制度上の違いの説明
  • 免許取得まで市や県から得られる補助制度の案内
  • 地元地域で行われている有害鳥獣捕獲の仕組みの説明

など、さまざまな面で助けてもらいました。

最初に公民館に相談したこと、その後、アドバイスに従って市役所に向かったことは今でも猟師になるのに最適なルートだったと思っています。

現在、猟師として活動するうえでも市役所職員さんのサポートは欠かせません。行政の立場と現場の立場でお互い助け合いながら有害鳥獣対策をしているという感覚です。

獣害の深刻さを知る

祖父が残した耕運機を運転し、野菜作りにとりかかった移住1年目

移住1年目後半。長い手続きと審査を終え、無事狩猟免許と銃所持許可を取得した私は、野菜作りにいそしんでいました。
というのも、当時の私は「狩猟活動はあくまで趣味のひとつ」と考えていたからです。自分の腕ではたまにしか捕れないイノシシよりも、世話に確実に応えてくれるかわいい農作物たちに興味を奪われていました。

やつらは突然やってくる

私は祖父の所有していた合計20アール程度の農地で、日々農作業をしていました。特に山林に近い農地のうちのひとつ、7アール程の畑にはいろんな種類のカボチャを植えて大切に育てており、7月下旬の収穫時期を目前にして、ワクワクしていました。
「我ながら良いカボチャができたな。そろそろ収穫して直売所に売ろうかな」
そんなことを思いながら、その晩は床についた記憶があります。

しかしながら、その思いはかなうことはありませんでした。
その夜、イノシシの一家がやってきて、私のかわいいカボチャたちを全て食べ荒らしてしまったのです。

「今までイノシシの気配なんてなかったのに……」
獣害対策にトタンと防獣ネットを張り巡らしていたのですが、設置方法と点検が甘かったのでしょう。ちょっとしたほころびから侵入され、畑をめちゃくちゃにされていました。

被害に遭った畑。防獣ネットを張り巡らしていますが、この方法では完全に畑を守ることはできないことを身をもって体験しました

被害に遭った後の喪失感

カボチャ畑の被害は甚大でした。収穫予定だったカボチャはもちろんのこと、これから成長を見込んでいた青い小さな実までかじられ、ツルはひきちぎられていて、今期の収穫はほとんど見込めないのは明らかでした。

獣害対策をしていても一瞬のスキを狙ってイノシシは入ってくること。
そしてたった一晩で農作物を荒らすだけではなく、のり面なども破壊して去っていくこと。
それらを身をもって知ったのでした。

農業は病気や害虫などと闘いながら作物を育てるだけでも大変です。
それなのに、こまめに防護柵の点検や草刈りなどをしないと鳥獣害から作物を守れない現実を知り、気が遠くなりました。

獣害は人の生活も破壊する

それと同時に味わったのが、喪失感。手をかけて大切に育てた農作物が一瞬で奪われた気持ちは言葉で表しきれないものでした。
さらに、カボチャ畑以外の畑でも甚大な被害に次々に遭い、精神は徐々に擦り減っていきました。

シカが1.5メートルの柵を乗り越え、ダイコンを食い散らかしたことも。葉も根も食べられています

専業農家だったら丸ごと赤字にもなる大惨事です。「仕方ない、来年もがんばろう」なんて思えるはずがありません。

さらに、生活の被害を受けるのは農業をなりわいとしている人だけではありません。
毎日外に出て畑仕事をすることを生きがいとしていた高齢者が、獣害で農作物をやられたことがきっかけで畑仕事をやめてしまう……。
生きがいのひとつが奪われるだけではなく、家に引きこもりがちになることで足腰が弱くなってしまい施設生活になっていく高齢者の姿を目の当たりにすることもありました。

獣害について考えるようになる

このように実際にイノシシの被害に遭ったことがきっかけで、私は農林水産業への獣害や中山間地問題に興味を持ち始めました。
どうしたら獣害を防げるのか?
全国ではどのような取り組みがあるのか?
獣害についてさまざまなことを書籍やネットなどで調べ、セミナーや研修に積極的に参加しました。

そして、私が住む地域ではイノシシやシカの生息密度が全国的にも高く、捕獲をして生息密度を低くしながら防護柵で農地を守らないと根本的な解決にならないことを知りました。
また、シカによる樹皮剥ぎなど林業や生態系への影響が著しく、土砂災害の引き金にもなりかねないということも学びました。

シカの樹皮剥ぎの様子。何年もかけて育てた木が枯死してしまい、林業にとっては大打撃となります

猟師として有害鳥獣捕獲の道へ

獣害の深刻さを身をもって知り、さらに全国的にも狩猟人口が減っているというニュースもチラホラ聞くようになった私は、「在宅ワーカーの私であれば副業として猟師ができるのではないか?」と考えるようになりました。
そこで、通年で有害鳥獣捕獲をするための許可を自治体に申請し取得したのですが、一人前の猟師になるまでには長い道のりがありました。

小柄な女性でも猟師になれるか?

まず気がかりだったのが身長155センチで体重も42キロという自身の体形です。
中学生にも体格で勝てるか怪しい私でも、狩猟ができるのだろうか……?

フタを開けてみると、私の心配は杞憂(きゆう)でした。
実際の現場では多くの高齢猟師が、知恵と工夫を駆使して腕力で劣る部分をカバーしていました。
私も狩猟の経験を重ねることで、道具の扱いや回収まで考えた獲物のしとめ方が身につき、「体力が劣る者でもいくらでもやりようがあるのが狩猟だ」という考えに変わっていきました。

大きなイノシシでも、ウィンチやラダーといった道具を上手に使えばひとりで運搬することも可能

収入面での壁

次に考えたのは、猟師で生活ができるかです。
現代の猟師の多くは、有害鳥獣捕獲の報奨金などで収入を得ていますが、どれくらい捕獲できれば生計が立てられるようになるのか考えました。

私の地域では成獣のシカ1頭で1万8000円、成獣のイノシシ1頭で1万円の報奨金が出ます。
単純に年間に100頭(シカ80頭、イノシシ20頭)を捕獲したとして、年間164万円の収入。
そこから、日々のガソリン代、わなや銃の弾といった道具の購入費、毎年の登録料や訓練にかかる費用、軽トラの維持費用などを差し引くと……。
残念ながら、年間100頭の捕獲では本業として生活できるレベルではありません。

狩猟歴1年目で年間30頭弱しか捕獲できない自分が年間100頭捕獲できるかどうかも怪しい。さらに報奨金の支払いは年に4回で月々安定してもらえるわけではない。

こういった理由から、本業ではなく副業でやってみようと考え、計画を立てることにしました。

地元猟師のサポートで腕を磨く

では、どうやって捕獲技術を習得し、技術を磨いていったのか。
いろいろと調べていくうちに、狩猟はそれぞれの土地によって最適なやり方やコツも変わるものだと気づいた私は、地元で長年経験を積んだ猟師に学ぶことにしました。

  • 銃の扱い方
  • 射撃の基本
  • わなを設置する場所の選定方法
  • わなの選定方法
  • わなにかかった鳥獣の止めさし(※)の方法

など、多くの猟師からさまざまなことを教えてもらい、助けてもらいました。

※ わなで捕獲された野生鳥獣にとどめを刺すこと。

最も信頼している地元猟師たち。私の先生でもあり仲間でもあります

しかし、全てを優しく手取り足取りで教えてもらえるわけでもないのが狩猟の世界。
なにせ口下手で照れ屋の男だらけの業界だし、猟師からしたらある意味ボランティアで将来の商売敵を育てているわけなので、お客様扱いはしてもらえません。

自分でできることは挑戦してみる。書籍やネットで調べられることは事前に調べる。それでもわからなければ質問する、自身では無理だと判断したことは頼る……。
このようにして自分のスキルや知恵を磨きつつ、必要な道具をそろえ、徐々にみなさんからの信頼も獲得していきました。

「こいつは何かあった時に自分を助けてくれる」
「こいつなら自分が引退したあとを任せてもいい」と思ってもらえるようになる。
そこまでは無理でも、「こいつにはやる気はあるから、いつかはいい猟師になれる」と思ってもらえれば、年の差や性別なんて関係なく仲間の一員として扱ってもらえるのが猟師の世界の良いところでもあります。

地域住民からの信頼

有害鳥獣捕獲の活動には、地域住民からの信頼も必要です。

住民は害獣を駆除してほしいという気持ちは強いですが、信頼できない見ず知らずの人間に自分達の地域で銃を持ってうろついてほしいとまでは思わないからです。

住民とは積極的に会話をするように心がけています。会話を通じて地元からの信頼だけではなく、捕獲に有益な情報も得られて一石二鳥!

私の集落では「総事(そうごと)」という共同作業が月1回ペースであります。水路の掃除をしたり、草刈りをしたり、公民館や集落が管理している施設をメンテナンスしたりといった内容です。
移住後、私はこの総事に可能な限り参加していました。集落の生活を支える重要な共同作業だからです。

今思えばこれが良かったのだと思います。参加することで住民として認められ、みなさんとの距離も縮まり、コミュニケーションも円滑になったと感じました。
住民とわなの設置場所を相談したり被害情報を共有したりと、徐々に私の有害鳥獣捕獲の活動範囲が広がっていきました。

猟師のやりがい

もちろん、私がこの仕事を続けられているのは、山に出向き、日々変化する自然を肌で感じながら動物と知恵比べをする「狩猟」という行為が好きだからだと思います。今では年間130頭以上のイノシシとシカをひとりで捕獲できるようになりました。
おいしいイノシシ肉も、思う存分食べられます。

しかしそれ以上に、有害鳥獣捕獲活動中に「捕獲してくれてありがとう」と地域や農家の人に喜んでもらえるのが何よりのやりがいとなっています。

箱わなでシカを捕獲したときの写真。多くの近隣住民が応援に来てくれました

また、農園などを回っている際に正しい防護柵の設置方法を伝えるなど、現場からトータルで獣害対策を行えることも魅力のひとつです。

最近では「いつもありがとうね。よかったらこれ持って帰って」と、みなさんから農作物やおやつなどをいただくのもひそかな私の楽しみだったりします。

「冬支度に」と言って、トラックいっぱいの野菜をくれました

地域からの信頼も得られ、すぐに地域に溶け込むことができたのも移住者の私にとってありがたかったですし、SNSなどに発信した私の有害鳥獣捕獲活動がきっかけで狩猟免許を取得したという声もたくさんいただくようになりました。

以上が「私が猟師になったワケ」です。きっかけはバカみたいな理由でしたが、多くの地元の人に助けられ、またその人たちが今どれだけ困っているかを知ることで、今では一応は一人前の猟師になれたのかなと思っています。

この記事を読んで、狩猟に興味を持った人がいたら、ぜひ勇気を出して一歩を踏み出してみてください。ひとりでは何から始めればいいのかがわからなくても相談できるところはたくさんあります。
危険が伴う仕事ですが、やりがいは感じられるはずです!

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