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「普通においしいトマトを育てる」ことの奥深さ。広くアンテナを張り、着実な歩みを続ける若手農家の心意気

「普通においしいトマトを育てる」ことの奥深さ。広くアンテナを張り、着実な歩みを続ける若手農家の心意気

栃木県小山市「とまとのしのはら」の篠原貴大(しのはら・たかひろ)さんは、トマト農家の3代目。
19カ月に渡る海外農業研修を終え、帰国後は20代半ばにして栃木県4Hクラブ(農業青年クラブ)の会長を務めた経験を持つ。かつて農林水産大臣賞を受賞した父とともに着実にトマトを作りながら、常に外へのアンテナを張って攻めの姿勢を失わない、若手農家の挑戦とは。篠原さんに話を聞いた。

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就農までの経緯と現在

ミニトマトが整然と並ぶハウス

ミニトマトが整然と並ぶハウス

「とまとのしのはら」はトマトの畑が64アール、稲作が4ヘクタールの規模だ。父と篠原さん、他に総勢6名のパート従業員とともに作業をしている。大玉トマトをJAに卸すほか、ミニトマトは道の駅や「産直アウル」でも販売している。
過去にはトマトに起こりがちな青枯病に悩まされたこともあるが、発生しやすくなる夏場に土壌消毒を行い、畑を順番に休ませるなど工夫を続けながら栽培している。

篠原さんは普通科の高校を卒業し、地元の農業大学校で学んだ。海外農業研修を経て帰国し、ゆめファーム全農でトマト生産を経験した後に実家のトマト農家で就農し、今年で5年目になる。
父から農業を継ぐように言われたことはなく、また篠原さんには兄がいたこともあり、子供の頃から自分が農家になるという意識はそれほどなかった。しかし今では農業の奥深さにすっかり魅了され、生涯をかけて農業を追究したい、と明言する。

アメリカで過ごした海外農業研修が大きな糧に

ワシントン州での研修中

ワシントン州での研修中、現地の友人(右)との1枚

篠原さんは農業大学校を卒業した20歳の時に公益社団法人「国際農業者交流協会(JAEC)」を通じて海外農業研修(アグトレ)に参加した。
海外農業研修は、農業の先進国である六つの国(アメリカ、デンマーク、ドイツ、スイス、オランダ、オーストラリア)のいずれかに長期滞在し、農業に関する知識と技術を学ぶ制度だ。
期間は19カ月間と長い。篠原さんは、アメリカに滞在。初めの2カ月はワシントン州の大学で、寮生活をしながら50人の同期とともに学んだ。英語と農業に関する知識を学んだ後、それぞれの専攻に合わせた農場に配属される。最後の2カ月は、再び同期全員が集まってカリフォルニア州の大学で総仕上げを行った。当時20歳から29歳の同期たちとすぐに仲良くなり、研修中の心の支えになったのはもちろん、今なお全国のメンバーとの交流が続いている。

篠原さんは配属先のハワイでトマトやナス、葉物野菜を作り、技術や知識を身に着けていった。座学でのテキストでは、農業の専門用語をまとめた単語帳が用意されており、現場でもとても役に立ったという。

ファーマーズマーケットでの写真

ファーマーズマーケットで売り場に立つ篠原さん

毎週土曜に開催されるファーマーズマーケットにも興味を持った篠原さんは、農作業だけでなく販売も経験したい、とボスにお願いして売り場に立たせてもらったこともある。
滞在中には今なお目標とする先輩農家との出会いなどもあり、有意義な時間を過ごした。19カ月の研修期間中に、日本へ帰りたいと思ったことは一度もなかったという。
帰国後は農業大学校で帰国報告を行い、後輩たちにも研修の魅力を語った。現在も、農業海外研修に興味を持っている後輩には参加を勧めている。

帰国後すぐに4Hクラブに参加、そして栃木県の会長へ

4Hクラブの全国大会

4Hクラブの全国大会、第61回全国青年農業者会議にて撮影

4Hクラブ(農業青年クラブ)に所属すると良い、と聞いたのはハワイでの研修中だった。研修を通じて情報収集の大切さや仲間とのつながりの価値を実感していた篠原さんは、帰国してすぐに地元の4Hクラブを訪ねた。

入会した次の年度に役員になり、翌年には栃木県の副会長、3年目で会長を務めた。4Hクラブの活動を通じて多くの仲間や先輩に出会い、さらに会長になったことで、つながりは全国へと広がった。地元で農業をしているだけではなかなか生まれない出会いも多く、また会長という責任の大きい立場を経験したことで、多角的に考えたり適切な立ち居振る舞いや言葉を選んだりするトレーニングになった、と篠原さんは振り返る。

4Hクラブの活動は農家同士の交流だけでなく、地域との関わりも深い。農業高校との交流会や農業祭りへの出展、地域の子供たちを対象とした花植え体験などを行ってきた。活動を続ける中で、農業を通じた地域への貢献という意識も自然と強まっていく。

農業を通じてどう生きるか。これからの展望

収穫したミニトマト

収穫したミニトマト。新鮮で力強い

「とまとのしのはら」のコンセプト【普通においしいトマトを育てる】は、篠原さんが両親と話す中で自然に生まれた。奇をてらったり流行を追ったりするのではなく、食べる人に寄り添い、老若男女に愛され、飽きないトマトを作りたいという思いが込められている。

篠原さんのトマト作りにおける指針として、2018年のトマトグランプリで農林水産大臣賞を受賞した父の存在がある。父より若いうちに受賞したい、というのが一つの目標だ。

今後さらに品種や作型、ハウスの高さなどを工夫して9月・10月の単価の高い時期の出荷を増やしたいという思いもある。秋に出荷するためには、日射の強い時期でも確実に花をつけさせる技術や知識が必要だ。気象の変化により、これまでに蓄積した技術やノウハウが通用しないこともある。自らの生産技術を磨き、常に情報をアップデートし続けていきたいと篠原さんは語る。

また、長期的な視点でライフステージが変化していく可能性も見据え、適切に休みを取れる体制も作っていきたいと考えている。そのためには省力化、効率化もさらに進めたい。農業をしながら、自分の人生を生きる。幸せな人生を生きる。根底にはそんなビジョンがある。

後輩たちへのアドバイス

ハウス内のミニトマトとともに

ハウス内のミニトマトとともに

取材の最後に、これから農業に取り組みたい人、農業を始めてまもない人へのアドバイスを求めてみた。

篠原さん「農業は多種多様で、トマトやコメのほか、園芸や果樹、畜産など、ジャンルによって全く別の世界があります。これから新しく始める場合は、複数のジャンルを見て、現場のリアルな声を聞いて自分に合うものを見つけるのもいいと思います。4Hクラブのようなコミュニティに所属するのも有意義だし、海外研修にも興味があればぜひ挑戦してみてほしいです。自分もまだまだですが、農業は本当に奥が深く、そして楽しいものです。」

取材を通して、経歴や自分の思いをクリアに語ってくれる篠原さんは、とても視座の高い人だと感じた。農林水産大臣賞の受賞歴を持つ父から学ぶことを着実に自分のものにしていくだけでなく、海外研修や4Hクラブの活動を通じて情報を収集し、先輩や仲間とつながる。後輩や地域の子供たちとも交流する。守りに入らず外を、そして先を見据えていく姿は、これから農業を始めたいと考える人にとって一つの指針となるだろう。

「とまとのしのはら」
@tomato_no_shinohara
https://www.instagram.com/tomato_no_shinohara/

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