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希少な高濃度フルーツトマトを作る農家が、激動の時代を生き抜くために選択した経営戦略

希少な高濃度フルーツトマトを作る農家が、激動の時代を生き抜くために選択した経営戦略

日本有数のミニトマト生産激戦区、熊本県玉名市。200軒以上あるミニトマト栽培農家の中でもわずか7軒しか手掛けていない「高濃度フルーツミニトマト」を生産するレッドアップは、九州で初めてGFP(※)に入会し、海外輸出に挑戦を始めて国内外に多くのファンを抱えている。

※Global Farmers / Fishermen / Foresters / Food Manufacturers Projectの略称であり、農林水産省が推進する日本の農林水産物・食品輸出プロジェクト

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あえて、手間のかかるフルーツトマトを作る理由

全国屈指のミニトマトの生産量を誇る熊本県玉名市。この地で1947年からトマト栽培を行っている農家の3代目を引き継いだ林田昇(はやしだ・のぼる)さん、裕美(ひろみ)さん夫婦は、2015年に法人化して株式会社レッドアップを設立した。

主力商品は、市内に200軒以上あるミニトマト生産者の中でもわずか7軒しか手掛けていないという「高濃度フルーツトマト」だ。

高濃度フルーツトマトの品種は主に、「ソムリエミニトマトダイア」「ソムリエミニトマトプラチナ」の2品種。通常のミニトマトよりもたくさんの花をつける特徴があり、一苗につき約100〜500以上の花を、20に絞っていく摘果作業が特に労力を要するという。

かつてはたくさんの農家が作っていたが、時間と手間がかかる割に収量が少ないことから、生産をやめてしまった農家も多いのだそう。

ソムリエミニトマトプラチナの花

それでも同社が高濃度ミニトマトを作り続けている理由は何か。裕美さんに尋ねたところ、即「味!」という答えがかえってきた。
「とにかくこのトマトが大好きで、自分が食べたいものを作りたかった」と裕美さん。

お話を伺っている最中も「本当に大好き!」とパクパクとミニトマトをつまんで、昇さんから「食べ過ぎ!」と突っ込まれるシーンも。

自分が本当にいいと思っているものをお客様に届けたいのだと話してくれた。

筆者も食べさせてもらったが、皮が薄く、ただ単に甘いだけでなく程よい酸味もあり何も付けずにそのまま食べてもおいしい。裕美さんがついついつまんでしまう気持ちがわかるような気がした。

高濃度フルーツトマトは「飽きのこない味わい」とリピートするユーザーも多く、通信販売などをメインに贈答用としても喜ばれているそうだ。

生きるか死ぬかの“スパルタ栽培”で育てる

こうしたおいしさを生み出している秘密は、自身で“スパルタ栽培”と呼称するほど生きるか死ぬかをかけた独自の栽培方法にある。

ハウスの土はコンクリートのように硬い

本来のミニトマト栽培は柔らかい土で畝を作り、そこに穴を掘って植えていくが、レッドアップの“スパルタ栽培”では真逆の環境。土は平らな状態で、まるでコンクリートのように硬く押し固められており、とてもスコップなどでは掘ることが出来ない。ここにドリルで穴を開けて苗を植えていくのだそうだ。

本来は柔らかい土の中で自由に根を伸ばし、水分を吸収していくのだが、当然硬い土の中ではなかなか根が伸ばせない。そんな環境下でも、トマトの苗は水を求めて硬い地面を打ち砕きながら必死で根を張り巡らせる。

やっと生き残ったトマト達が大きく育つ頃には、根は毛細血管のように強く伸び、より多くの水や栄養を取り込むことが出来るようになるのだという。こうした“スパルタ”な環境で強く育てられたトマトは酸味と糖度のバランスがよく、収量も安定するのだという。

今まで通りは通用しない。農家としての生存戦略

希少な品種を手掛けているとはいえ、トマト業界はライバルが多い。昇さんは「今まで通りのことをしていても通用しない時代になってきている」と、生存戦略を模索してきた。

肥料やハウスなどの設備を含め、さまざまなものが値上がりしていく中で、既存の販路や出荷の仕方に頼り切りでは、成長が頭打ちになってしまう。「ただ作って出荷するという、従来の農家の在り方を変えていかなければ」と考えた林田夫妻が目を付けたのが、海外輸出だった。

とはいえ、海外での経験もなければ海外へ売り出すノウハウもない。そのため、2018年ごろからさまざまな相談会や勉強会に足しげく通い、そこで生まれたコミュニティを通して手探りで海外輸出に着手し始めたそうだ。

それぞれの得意分野を持つメンバーでチームを組み、2021年には農林水産省が推進する、日本の農林水産物・食品輸出のプロジェクトGFP(Global Farmers/Fishermen/Foresters/Food Manufacturers Project)へ加入し、海外輸出を始めた。九州でGFPに入会したのはレッドアップが最初だったという。

香港ドルで売られるレッドアップのトマトたち

林田夫妻は、輸出を始めて海外の市場は日本の基準とは全く異なっていることを知ったのだそう。
日本では規格外扱いのものも、海外の市場では十分に戦えるほどの価値を見いだしてもらえることが分かったのだという。

国産のブランド力を感じた林田夫妻は、九州の農家から野菜を集め、ホンコンのデパートで九州フェアを開催。このほか、海外ニーズを参考に、規格外品を使ったケチャップやチリソースなどの商品開発にも乗り出した。

こうした取り組みが評価され、2022年には農林水産省が選定する、GFPアンバサダー(優良事業者)を受賞。他の受賞者は大企業ばかりの中、自分たちが選ばれたことに驚いたという。

未知の領域での販路展開に、さまざまな失敗や苦労も重なり、厳しい声をかけられることもあったのだという。しかし、今では遠くドバイまでレッドアップのミニトマトが届くほどに成長した。失敗を恐れず、がむしゃらに挑戦し続けたおかげだと裕美さんは話してくれた。

「会社に入れば、こうしなさいああしなさいと指南があるかもしれないが、農業は誰も教えてくれない。何もしないなら何も起きないから、自分で経験して失敗して学んでいくしかない。農業ほど楽しいものはないですよ!」(裕美さん)

ミニトマトと同様、自身にもスパルタで向き合う挑戦の日々が、輝かしい栄誉と今後の希望につながっているように思えた。

世界に玉名ブランドを届ける

今後の展望について尋ねると、昇さんは「自分たちだけが上がっても仕方がない、周りとともにみんなで上がっていきたい」と話してくれた。

海外輸出のノウハウを生かし、サポートの活動を強化していきたいのだという。より多くの農家さんの野菜を輸出するために選果場・加工場の立ち上げを既に開始しているそうだ。

日本の高品質の野菜を知ってもらい、国内外に多くのファンを作っていきたいと力を込める。

「頭をよぎっても、一歩踏み出すことが難しい。だけれどその一歩を踏み出さないと何も生まれない。まずは自分たちが成功例として、ああなりたい! って思ってもらえるような存在になれればいいなと思ってます。そしたらみんな一緒にやってくれるでしょ?(笑)」と昇さん。

裕美さんも「自分ができないことは得意な人と一緒に、自分ができることを担ってチームでやっていくことが大切だと思っています。海外でファンを増やしていくことは、地域貢献にもなると考えていて、まずは玉名や熊本が盛り上がって、行く行くは日本が盛り上がってくれたら嬉しいです」と話してくれた。

レッドアップの皆さん

生産は昇さん、その他全般は裕美さんといったようにご夫婦間でもそれぞれが得意なことでチームとして動いているのだそう。

1人ではなかなか踏み出せなくても、誰かと一緒なら勇気が出るかもしれない。その心強い「誰か」をレッドアップが担おうとしているようだ。

スパルタ精神で挑戦するその姿に今後も注目していきたい。

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