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【スペシャル対談】JAは農業界の希望となるか~役割と価値を考える~

【スペシャル対談】JAは農業界の希望となるか~役割と価値を考える~

“日本の農業界における総合商社”ともいわれる農協(農業協同組合)、通称JA。営農支援から出荷までを担い、肥料や資材の販売なども行う、農家にとって身近な存在だ。時代が変化する中で、農協は今後どのような役割を担っていくのか。ジャーナリストの窪田新之助(くぼた・しんのすけ)さんとマイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が対談した。

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■窪田新之助さんプロフィール

窪田氏プロフィール ジャーナリスト
日本農業新聞にて8年間の記者生活の後、独立。農業経営、農協、農政など幅広く取材を行っている。近著は『人口減少時代の農業と食』(共著/筑摩書房)。ほかに『農協の闇』(講談社)、『誰が農業を殺すのか』(共著/新潮社)など。

■横山拓哉プロフィール

横山プロフィール 株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。2007年マイナビ入社。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで、数多くの企画・サービスの立ち上げを経験。
2023年4月より「マイナビ農業」を運営する地域活性CSV事業部にて「農業をもっと近く、もっと楽しく」を身上に、農業振興に寄与すべく奔走している。

農協が減少している背景


横山:窪田さんは、著書「農協の闇(くらやみ)」での鋭い書き口が印象的ですが、農協とは、どのような存在だといえるでしょうか。

窪田:本質的な定義は農家の互助組織ということになると思います。「ゆりかごから墓場まで」という言葉もありますけれども「農業界における万事屋」といった役割ですね。

横山:日本の総合商社は七つといわれますが、それらに匹敵するくらいの役割を農協は担っていますよね。ただ、そんな農協も2007年には800を超えていましたが、2022年には551にまで減りました。この背景についてご存じのところを教えてもらえますか。

窪田:農協はもともと農業関係の事業(経済事業)を本質的な事業とする組織です。けれども実際は経済事業が成り立たなくなっていて、北海道を除く都府県の農協の9割が経済事業は赤字です。それを補填(ほてん)してきたのが金融事業でした。これは民間でいう銀行業務に当たる信用事業と、保険業務に当たる共済事業です。これがここにきて、低金利と組合員離れにより、苦しくなっているという実態があります。そこでやむなく合併による合理化を図る農協が増えているんですね。

横山:市町村が約1700ある中で551だと市町村換算でも3分の1に満たない数ですもんね。今後「47都道府県47農協」みたいなことも、あり得るのかもしれないですね。

本文①

強みを発揮し飛躍する農協も

横山:統廃合が繰り返され農協の数が減っているからこそ、より一層、一つ一つの農協が持つ価値は大きくなっていると思います。窪田さんが感じる、農協が価値を発揮している例を教えてもらえますか。

窪田:農協の価値は、やはり経済事業だと思います。その前提で、単位農協の取り組みを紹介しますね。農業界の方はご存じのとおり、静岡の三ヶ日町農業協同組合(JAみっかび)は青島ミカン(三ヶ日みかん)の大産地です。ここは、営農指導に力を入れ、かつ販売面でも先駆的な取り組みをしています。まず基盤整備を重視し、80年代から機械化できる基盤を作っています。販売については「東洋一の選果場」と呼ばれるほど立派な選果場を作りました。選果場は内部にあるセンサー機器も非常に立派です。(重要なのは)そこでミカンの品質を明確に把握する機能を持っていることと、もう一つ大事なのが個々の農家が作ったミカンと品質がひも付けられるようになっているんですね。

横山:見える化したということですか。

窪田:はい。それによって、品質評価をして営農指導につなげています。農協が生産におけるPDCAを回せる仕組みを作っている点で非常に先駆的です。それゆえに、三ヶ日みかんは長く、良い単価で取引されていますね。また、三ヶ日町農協の面白さは大学と連携して、ミカンの機能性を見いだす研究をしてきたことにあります。そこでミカンのβ-クリプトキサンチンという成分が抗酸化作用を持つことを見いだし、三ヶ日みかんは農産物としては日本で初めて機能性表示食品として受理されました。単に「おいしい」だけでなく、付加価値として「健康にも良い」とうたうことに初めて成功した農協だといえると思います。

横山:生産の効率化をはじめ、品質管理のためにPDCAを回し、さらに営農指導をするだけでなく、できたものの価値を上げる活動までしている好事例ということですね。

窪田:まとめるのが、うまいですね(笑)

2024年問題と農協の役割


横山:次は、全国的に見たときに、農協が担う役割について教えていただけますか。

窪田:経済事業を担う農協の全国組織として、皆さんご存じの全国農業協同組合連合会(JA全農)があります。ここが今、力を入れている事業の一つが物流事業です。この背景には2024年問題があります。2024年4月1日から、物流事業者に残業規制がかかってきます(年間960時間まで)。農業界も物流事業者に頼っているため、遠隔の産地から消費地へ農産物が届かなくなる可能性があります。もちろん輸送手段は多岐にわたるため、今後も輸送可能ですが、鮮度を維持したまま運ぶことが難しくなります。これは一つの農協では対応が難しく、そこで全農の役割が期待されます。全農は今、大きな集荷拠点を設けて大消費地に届けるという試みを始めています。

横山:全国でどのように力を合わせて、鮮度がいいものを届けるか。これは数多くの拠点を持つ農協だからこそできることかもしれませんね。さらに「もっとこうしたら良くなるのでは」ということはありますか。

本文②

窪田:物流から、もう少し大きな視野でいうと、「サプライチェーンをどう作り直していくのか」が農協に求められている非常に大きな課題だと考えています。全国的な人口減少の流れの中で、物流だけじゃなくて生産から消費に至るまでのサプライチェーンの改革について、ダイナミックな取り組みが見られないのが寂しいですね。人口が減る中で、例えば農協は今後、出荷施設の利用料収入も減ると考えられます。そこで単位農協で用意していた出荷施設は今後、県レベルや、もっと言うと県を超えて連携をしないといけなくなるのではないでしょうか。県を越えて、同じ野菜を作っていることは十分あり得ると思いますから。ただ現状は縦割りというか、組織の枠にとらわれた取り組みがなされていますから、そこは枠を超えた産地づくりが必要になると思います。ぜひ農協に思い切って、やってほしいなと期待します。

横山:農協単位や県単位ではなく、大きな課題に対してどのように一丸となっていけるか。これは非常に大切なポイントですよね。ぜひ窪田さんには今後も引き続き情報発信をしていただきたいですし、マイナビ農業ももっと農業界に役立つような情報発信をしていきたいと思います。窪田さん、今日はありがとうございました。

窪田:こちらこそ、ありがとうございました。

(編集協力:三坂輝)

近著『人口減少時代の農業と食』

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