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【TOP対談】市場価格の1.4倍の売上も! 農業×デジタルの可能性

【TOP対談】市場価格の1.4倍の売上も! 農業×デジタルの可能性

農業の根底にある課題の一つ、人材不足。現状を変えるには、社会全体が農家の課題を「自分事」として捉える意識改革が必要だ。ノウタス株式会社の髙橋明久(たかはし・あきひさ)さんは、自身が携わっていた、異業種からの金融事業参入へのアプローチをヒントに多様なサービスを展開。髙橋さんが進める、企業が農業に関わるきっかけ作りとは。マイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が対談した。

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【プロフィール】
■髙橋明久さんプロフィール

ノウタスプロフィール画像 ノウタス株式会社代表取締役
商社勤務を経た後、NTTデータにて金融インフラ事業に携わり、コンサルファームで異業種の金融事業参入などを支援。家族の農園支援を通じて、農業と生活を近づけるアグリテイメント事業と企業の農業参入を支援するFaaS事業を構想し、ノウタスを創業。

■横山拓哉プロフィール

マイナビ農業プロフィール画像 株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで、数多くの企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より「マイナビ農業」を運営する地域活性CSV事業部長就任。「農業をもっと近く、もっと楽しく」を身上に、農業振興に寄与すべく奔走している。

話題の異業種参入企業

横山:ノウタスさんは最近、ニュースで拝見することも多いですよね。

髙橋:最近では、ジャニーズ事務所の村上信五さんに当社の非常勤社員として参画いただいたこともあり、いろいろなメディアで取り上げていただきました。うれしい限りですね。

横山:そのニュースからは「なぜ?」と思う方もいると思いますが、村上さんの参画にはどのような経緯があったのですか。

髙橋:きっかけは、村上さんの経済ラジオ番組に私がゲストとして呼ばれたことでした。そこで当社の取り組みを話すと「実際に見てみたい」ということで、放送後に長野にあるブドウ農園に行ったんです。村上さんはグループでのメンバーカラーが“紫”なんですね。それでブドウも紫ですから、村上さんが「ブドウをテーマに何か自分も農業へ貢献できるのでは」ということで始まりました。

本文①

横山:なるほど。髙橋さんご自身も異業種からの参入ですよね。髙橋さんは、なぜ農業に取り組み始めたのですか?

髙橋:私は元々商社にいて、その後はいろいろと業種を変えました。ただ一貫して金融業界で、コンサルファームでは「会社の強みを、いかに金融事業につなげていくか」といった異業種からの金融事業参入についてコンサルティングしていましたね。一方で、妻の実家が山梨県の農家で「継いでくれないか」と相談もされていたんです。けれど私は農業経験もなかった。ただ、コロナ禍を機にリモートワークで自分の仕事をしつつ、農業を手伝ったんです。そこで「こういう関わり方ならできる」と思ったことがきっかけですね。そうやって人や企業が、農業に関われるきっかけを作ることが農業の課題解決につながると思いましたし、私がやってきた異業種からの金融事業参入というアプローチも応用して、異業種からの農業参入につなげられるのではとノウタスを立ち上げました。

農業に、世の中にあるものを足すだけ

横山:農業界はいろんな課題がある業界だと感じています。その中で、どういった課題をどのように解決していこうと考えていらっしゃいますか。

髙橋:「課題=いろいろとやる余地」があるので、チャンスでしかないと思っています。先ほど、コロナ禍にリモートワークをしながら農業を手伝ったという話をしましたが、他にも、友達とZOOMを使った農業イベントをやってみたんですね。
まずZOOMで農家さんと消費者のご家庭をつなぎ、農園を画面に映して、農家さんと話しながら、ご家庭からブドウを選んでもらいます。そして翌朝にそのブドウがご家庭に届くというサービスです。他にもいくつかのサービスを行って、農家さんのファンを生んだり、農家さんから「助かった」と言ってもらえたりしました。
いずれも難しい技術を使ったわけではありません。農業に、世の中にあるものを足しただけ。でもそれが課題解決につながりました。私たちは、そういう世の中にあるものを足して、課題解決につなげようと思っています。

zoomイベントの様子。消費者が指定したぶどうを農家が収穫する。

横山:特に解決したいと考えている課題があれば教えていただけますか。

髙橋:よく「生産性をDXで解消」や「食べて農家を応援」といった話がありますが、それだけでは解決できない課題に“人手不足”があると思っています。なので農業者側というより「農業は自分に関係ない」と思っている人や企業の意識を変えることが大事だと考えています。「農業の課題」とは「食の課題」ですし、「食の課題」は全ての人にとっての課題。そういう意識を持って、いろいろな人が農業に関わっていけるものを作りたいですね。

実証実験も好評な各種サービス

横山:ノウタスでは、ワーケーションのサービスや、作物を食べた方が後から価格をつけるサービスなど、さまざまにリリースしていますね。手応えなどはいかがでしょう。

髙橋:去年実証実験をした2例を話しますね。一つは観光農園で、その予約や現地までの案内などをデジタルに置き換えるもの。農家さんが消費者とのコミュニケーションを取れるように、それ以外の部分をサポートするツールです。農家さんからも好評で、長野県須坂市や愛媛県西条市など、自治体や金融機関からもお声がけいただいています。正直お声がけをいただいていることに驚いていますし、本当にありがたいです。

横山:DXによってコミュニケーション強化ができるのですね。

ノウタスモールで購入する様子

髙橋:はい。そしてもう一つがノウタスモールです。「あと値決め」(※)といって、消費者が価格決定権を持つというか、最低限の費用を最低価格として設定して、あとは買った後で自由に値段を決められるサービスです。
(※)株式会社ネットプロテクションズが委託運営するポストプライシングサービス

横山:安く買われてしまうことなどはないのでしょうか。

髙橋:私もそれを心配していましたが、意外と良い結果でした。人気の高いシャインマスカットと、もう一つは巨峰。巨峰は市場価格が年々下がって、シャインマスカットの半分にもなっています。ただ手間は半分ではなく、むしろ巨峰のほうが手間がかかる。これに危機感を持っている農家さんもいらっしゃいます。そこで巨峰も売ったのですが、蓋(ふた)を開けてみれば、シャインマスカットよりも巨峰のほうが値段が高かった。「シャインマスカットもおいしいけれど、巨峰ならではのコクもおいしいね」と。さらに、両方の合計額は市場価格の1.4倍となって、農家さんからも「頑張った分を正当に評価してもらえた」と喜んでいただけました。今年はさらに拡大しようと、村上信五さんが参画するプロジェクトもこの仕組みを使って今夏からぶどうを販売予定です。

横山:購入した方も、食べて納得した価格をつけられて、さらに農家さんへの応援の思いも込めて買えるという、一味違うサービスになっていますね。

髙橋:そうですね。今年はあまり皆さんが食べたことがないと思われる、クイーンルージュ®やバイオレットキングといった品種も出そうと思っています。

評判の良かった巨峰

農家がやりたいことを突き詰められる環境に

横山:髙橋さんが、今後成長していくと感じる農業経営スタイルはありますか。

髙橋:私はそもそも勉強させてもらっている立場で、「これがいい」とはとても言えません。しかも農業は広くて、一言で表すのは難しいです。ただ、共通して言えるのは、やりたいことを突き詰めている農家さんは強いなと思います。突き詰めたうえで、それ以外のことは思い切って人やデジタルツールに任せるなどして、やりたいことにフォーカスできる環境を作っている農家さんは私からは魅力的に見えますね。

横山:生き方、といったところにも関わってくるかもしれないですね。

髙橋:そうですね。長野に、ブドウを何十種類も育てて交配させて、オリジナルの品種を作っている農家さんがいらっしゃいます。オリジナルの品種を作って、名づけるというのはロマンがありますよね。
その方は、「栽培に集中して、きちんと満足のいく品質のものを、目の届くところに届けたい」と仰っていました。ですから、デジタル化によって規模拡大を進めることだけが農家さんの正解ではないんですよね。そういった農家さんの生き方、在り方の多様性を認めて、とがった農家さんがそれぞれ共存して成り立っている世の中が素敵だと思います。私たちも、そういう農業が成り立つ世界を作っていきたいと思っています。

横山:そのために御社がやろうとしていることを聞かせてください。

髙橋:ノウタスは、今まで農業に関わっていなかった人やものを、農業に“足す”という思想でやっている会社です。その実現のために、BtoCとBtoBの取り組みをしています。1年目のスタートアップができることには限界があると思いますが、例えば私たちのサービスを企業に使ってもらって、農業に関わる企業が増え、結果的に社会全体が農業に関わってもらうようにしたいです。「専業農家を100万人増やす」ことはなかなか難しいと思いますが「農業に10%関わる人を1000万人増やす」ことはできるのではないかと。そういう仕組みを作るインフラになっていこうという思いで事業をしています。

横山:マイナビ農業も「農業をもっと近くしていく」ことを目指しています。おっしゃっていただいたように、まだまだやれる余地はありますね。ぜひ今後も協力しながら一緒にやっていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

髙橋:よろしくお願いします。

本文③

(編集協力:三坂輝)

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