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農業未経験から無農薬無肥料の自然栽培を確立するまで。カギは、土に適した作物を適期に育てる“適地適作”

農業未経験から無農薬無肥料の自然栽培を確立するまで。カギは、土に適した作物を適期に育てる“適地適作”

熊本県菊池市でインゲンなどを中心に、数十種類の作物を自然栽培する「なないろ農園」。軸にしている考えは、土地に適した作物を適切な時期に育てる「適地適作」。自然本来の力を発揮するための“生物性”を重視した土壌づくりに注力し、無肥料無農薬で栽培を行っている。

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「適地適作」を軸にした自然栽培

美しい水が豊富で、コメなどを中心にさまざまな農作物が育てられる菊池市。
農業大国と呼ばれる熊本県の中でも、有数の農業地帯となっている。

そんな菊池市で、無農薬無肥料の自然栽培を行うなないろ農園では、ハウスなども含め約70アールほどの畑でエンドウマメやインゲン、葉野菜など数十種類の野菜を育てている。

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ひと言に「自然栽培」といっても、その定義は人それぞれだ。化学肥料や農薬の不使用はもちろんであるが、なないろ農園代表の亀川 直之(かめかわ・なおゆき)さんにとっては「適地適作」という考えが軸になっている。

亀川さんいわく「適地適作」とは、その土地に適した作物を、適切な時期に育てるという考え方だ。暖房などを使い育成環境を操作することをせず、夏には夏の気候に合った作物を育てるといったように、四季に合わせて育てる作り方を基本にしている。

栽培期間を長めにとったりと多少の調節をすることはあっても、基本的には植物本来の力や生命力を最大限に発揮するような環境下で育てているそうだ。

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自然栽培のインゲン

生態系を意識した土づくり

「適地適作」を実現するため、特に重要視するのが土づくりだ。
化学肥料を一切使わずに安定した収量を確保するためには、微生物の活動が活発な「生物性の高い豊かな土壌」を作り上げることが重要だという。

ただし、土づくりには長い年月が伴う。この日取材に訪れたインゲンの畑には、およそ2年の時間を費やしたと、亀川さんは話してくれた。

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畑の端に残してあるライ麦

なないろ農園が実践する土づくりの方法はこうだ。

まず、ライ麦を畑一面に植える。
ライ麦は地中深くまで根を伸ばし地表近くの根は極細な根をたくさん付けるため、
根圏微生物という植物の根に集まる特徴を持つ微生物がより多く集まることから、土壌微生物が活動しやすい環境を作ってくれる。

微生物や植物と共生する菌などが増えると、生態系や食物連鎖が機能し、植物にとって大切な栄養素が豊富に供給される土壌環境になっていくのだという。

ライ麦が枯れた後は、ロータリーを使ってすき込みを行う。
そうして苗床を作るように豊かな土壌を育て上げ、改めてその環境に適した作物を植えていく。そうすることで根がより強く育ち、病害虫に負けない立派な作物が出来上がると亀川さんは話す。

「植物と微生物の間で取りなされる人智を超えた共生関係をより豊かにしていくことが、植物本来の力を最大限に引き出せるカギとなっています」

本来、植物は化学肥料などを与えずとも山や森で豊かに強く育っている。
理にかなったことをしていれば、虫や病気に負けることなく自然環境に適した強い苗となっていくと亀川さんは話してくれた。

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脱サラ就農。スタートから自然栽培を目指し続けた。

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亀川さん

亀川さんは元々、関東でサラリーマンとして働いており、農業とは全く無縁の生活だったという。農業に関心を持ったのは、近くで開催された自然栽培の農業ツアーに参加したことがきっかけ。その後に経験した東日本大震災で世の中が混乱する様を目の当たりにし、このままずっとサラリーマンをしていてもいいのだろうか? という思いが頭をめぐったのだという。

2012年頃に脱サラし、熊本で移住就農。熊本には縁もゆかりもなく訪れたことすらなかったが、豊かな美しい水のある環境に引かれて移り住むことを決めたのだそう。

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これから育っていく“オクラ”

就農当初から無農薬、無肥料の自然栽培を志していたという亀川さん。
さまざまな作物を植えては育て、その畑の環境に適した作物を選定していったと振り返る。

農業経営を軌道に乗せていくため、流通や単価なども加味しながら、作付けする作物を見極めていくことも自然栽培には重要だと亀川さんは考えているそうだ。

農業の知識や経験などが何も無かったからこそ、「農薬を使わなければ虫に負けてしまう、
肥料を使わなければうまく育たない」といった固定観念を持たず、自分の目指す栽培方法を確立できたのだろうと話してくれた。

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現在はインゲンなどを中心に、いくつかの野菜を自家採種して育てているのだという。
いずれは全て自家採種できれば理想的だと話してくれた。

過酷な自然界では、弱きものは淘汰(とうた)され、土にかえっていく。
しかし、自然の厳しさを耐え抜く力は、決して人から与えられるものだけではない。
微生物と共生し、生態系の中で培われるこうした強さは、植物本来の持つ力であり豊かさなのだろう。

人の都合で環境を作るのではなく、自然に合わせ、植物が共生していくための環境を作っていく。なないろ農園の自然栽培は、まさに“自然と共に”作り上げる農業の在り方だと感じた。

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