マイナビ農業TOP > 農業ニュース > 相談相手はポケットの中? 対話型人工知能「チャットGPT」活用したLINE botの実力

相談相手はポケットの中? 対話型人工知能「チャットGPT」活用したLINE botの実力

相談相手はポケットの中? 対話型人工知能「チャットGPT」活用したLINE botの実力

病害とおぼしき症状が確認されたとき、作物の生育が思わしくなかったとき、天候不順などの予期せぬ事象に見舞われたとき―。自然が相手の農業では、日々悩みや疑問が尽きない。経験の浅い若手農業者や、経営にまで広く携わるビジネスパーソンであればなおのことだろう。福島県郡山市で枝豆やニンジンなどを手掛ける「まどか菜園」の鈴木清美(すずき・きよみ)さんが農業経営や栽培に関する悩みを打ち明ける相手は、スマートフォンアプリ「LINE(ライン)」のトークルームの中にいる。日々生まれる疑問をどう解消しているのか、話を聞いた。

twitter twitter twitter

なめこ農家を分社化。計約80ヘクタールのほ場で野菜を栽培


郡山市東部の田村町で40年以上に渡って菌床栽培を手掛けてきた鈴木農園。独自に種菌改良して作り上げた主力の「ジャンボなめこ」は県内外に熱烈なファンを抱えており、大型なめこのパイニア的存在として知られている。

2013年には「郡山ブランド野菜」を中心とした枝豆やニンジン、カブなどを手掛ける農業法人「まどか菜園」を分社化する形で立ち上げた。代表には鈴木農園の創業者である鈴木清(すずき・きよし)さんの長男・清美さんが就いた。なめこの廃菌床を堆肥化し循環型農業で野菜を育てる同社は年々栽培面積を広げ、その規模は枝豆で48ヘクタール、ニンジンで15ヘクタール、カブで12ヘクタールにも及ぶ。

「なめこを栽培した後に残るおがくずを有効利用するために、以前から堆肥(たいひ)化したおがくずを使って野菜を作っていたんです。地域の担い手が減っていく中、野菜作り単体でもしっかり採算を取れるようにするため分社化し、事業が成り立つよう試行錯誤して取り組んでいます」。震災を挟み、2012年に本格的に就農した清美さんは、菜園の歴史をこう振り返る。

設立当時20ヘクタールほどだった畑は、今では計80ヘクタールを超え、60人の従業員を抱える県内でも有数規模の農業法人となった。
成長曲線をたどる同社だが、清美さんは就農した当初からある課題感を抱いてきたという。予期せぬ事象に見舞われた際の「対応力」だ。

「例えば、野菜作りでは天候不順一つとっても、成育不良や発芽不良などいろんなことが起きるんです。面積が20ヘクタールもない設立当時は、天候不順があったとしても大きなダメージが表面化することは少なく、何よりそこに目を向けている余裕もなかった。徐々にスタッフが増え、作付面積が拡大してきた近年では一度の天候不順でも受けるダメージがまったく違ってきます。今後のためにも、色々なケースに備えて対応力をつけておかないといけないと感じていました。そうでなければ、これからさらに規模を広げたとしても、ただ労力がかかってしまうだけになってしまいます」

直近では、播種(はしゅ)した3ヘクタールの畑のうち3分の1で発芽不良が起きるなど不測の事態を経験した。こうしたトラブルが起きるたびに、清美さんはインターネットで情報を検索したり、取引のある資材店にアドバイスをもらったりしながら対応に当たってきた。
「インターネットでは、以前よりは栽培技術体系がオープンになってきてはいますが、あくまで手にできる情報は限定的。アドバイザー役の資材屋さんも、相談に対してリアルタイムで対応できるわけではないので、すぐに原因や対策を知りたい時でも連絡取れない場合がありました」

そんな折、知人のつてで知ったのが、農業の悩みをAIが回答してくれる悩み相談サービス『IPPUKU(いっぷく)』だ。

チャットGPT活用し、農家の疑問に即レス

『IPPUKU』は、企業のDX推進などを請け負う郡山市の企業が開発したサービスで、対話型人工知能「チャットGPT」のAPIを活用している。通話チャットアプリのLINEでのトークルーム上で農業に関する質問を投げかけると、数分後にはメッセージで回答がなされるという仕組みだ。

清美さんは畑で病気とおぼしき症状がみられた際、目視で確認した症状をチャットにつづり、生理的な現象か否か、病害であればどのような対処法があるのかなどを質問しているという。

「今年に入って、チャットGPTの話題を耳にすることが多くなったこともあり、興味本位で使い始めました。直近では枝豆の葉枯病の発生原因を質問し、レスのスピードが(速く)助かっています。自分で調べるより断然早く、インターネット検索と同等の情報を得ることができる。ある程度質問が抽象的でも回答を示してくれるので、気になったことを都度質問して、来年のために知識を集約しているところです」

毎日変化が起こる農業。日々生じる疑問に

鈴木さんがこう評価する『IPPUKU』の生みの親、株式会社cv digital CEOの馬場大治(ばば・だいち)さんは、サービスを開発した背景について「農業は日々、ものすごく多くの疑問が出てくるものですが、収穫できるのはたった1回。最短距離で農業の土台を作るお手伝いを通して、農家さんの成長を加速させるサポートがしたかった」と話す。

通常のチャットGPTと大きく異なるのは、回答の精度だ。
例えば、筆者がチャットGPTに「べと病の発生原因は?」と質問を投げかけたところ、返ってきた答えは「病気の原因は多岐にわたり、感染、ストレス、遺伝、生活習慣などが挙げられます。病気を予防するためには、健康的な生活習慣を実践することが重要です(中略)」というもので、農業など特定の分野に関する回答の精度には疑問が残る結果となった。

一方の『IPPUKU』は、AIへの命令文である「プロンプト」を調整したうえで、質問できる内容を「生産」「販売」「経営」「業務効率化」の農業に関する4カテゴリに絞っている。こうすることで、AIが質問に対して、より精度の高い回答ができるようになっているという。

筆者は『IPPUKU』でも同様に、べと病の発生原因について質問してみた。すると、約1分後には下の画像のような回答があった。予防策や病原菌を抑える手立てが具体的に示されたほか、どのように2次質問をすればより適切な回答が可能かまでアドバイスしてくれた。

清美さんは今後、生産現場から経営の立場へとシフトしていきたいと展望を話してくれた。そのうえで、『IPPUKU』が生産現場を支える共有ツールになるかもしれないと期待を寄せる。『IPPUKU』も今後、補助金などに関する回答の精度も高めていくとのこと。より頼りになる存在となりそうだ。

公式サイト https://ippuku-agri.com

取材協力

有限会社鈴木農園/株式会社まどか菜園
郡山市田村町大供向173

あわせて読みたい記事5選

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

公式SNS

「個人情報の取り扱いについて」の同意

2023年4月3日に「個人情報の取り扱いについて」が改訂されました。
マイナビ農業をご利用いただくには「個人情報の取り扱いについて」の内容をご確認いただき、同意いただく必要がございます。

■変更内容
個人情報の利用目的の以下の項目を追加
(7)行動履歴を会員情報と紐づけて分析した上で以下に活用。

内容に同意してサービスを利用する