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メリットを考えたら有機はやめた方がいい?!経営者の本音座談会【後編】

メリットを考えたら有機はやめた方がいい?!経営者の本音座談会【後編】

農業の選択肢として浸透しつつある有機農業という世界。言葉ばかりが先行して、実際どのようなものなのかわかっていない人も多いのでは。マイナビ農業では有機農業界で大きく活躍している5名の農業経営者を招き、本音を語ってもらいました。

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生産者のプロフィールは前編をチェック

有機農業のメリットデメリット

編集部:有機農業の経営上実感されているメリットとデメリットをお聞きしてもいいですか。皆さんが始められた頃と、ここ最近新規就農した人とでは、感じているものが違うと思うんです。その辺りも踏まえてお聞かせください。

萩原:メリットなんて、ないですよ(笑)

もともと僕は一部上場のメーカーに勤めていて、100億円とか、動く金額の桁数が違うんですよね。農業界のトップですら、そんなにいかないじゃないですか。だからそっち(民間企業)を目指しても全然勝てないなと。だからもう完全逆ぶりで、僕がいた会社ではできないようなことばっかりやるみたいな。

畑の野菜をとってきて、20人くらいでまかないを食べるとか、職場に赤ちゃんを連れてきて、社長があやすみたいなことって、普通の企業じゃ絶対できないじゃないですか。そういうことをするのが面白いという方向性に持っていくしかなかった。メリット・デメリットの物差しで見ちゃうのは、やらないほうが良いよ。

香取:結局、有機農業が好きかっていうところじゃないですか?

萩原:そうそう。最後は好きかどうか、面白いと思えるかどうかしか残らない。例えばニーズがあるからやるっていうのも、そのエネルギーだけだと立ち向かえない気がするんですよね。

香取:それは有機農産物のニーズということですか?

萩原:そう。何が売れるのかっていうことばかり気にしている人。

香取:そういう人って経営者に向いてないですよね。

萩原:無いものを作り上げるっていうところに面白みを感じるしかない。例えば、うちでは春菊を栽培するんですが、鍋用の春菊を生でおいしく食べられる栽培方法にたどり着いたのに、最初全然売れなくてトラクターで潰しまくったんですよ。そりゃそうですよね、誰からも頼まれていないんですから。

一同:(笑)

萩原:でも1年目で何とか2万束売って、2年目で4万束、3年目で6万束、去年は10万束売って、うちで取引している関西の生協さんで、葉野菜の売上3位になったんですよ。春菊がですよ!

一同:それはすごい!

萩原:僕はこういう快感が面白くて有機農業をやっているんだから、もうニーズとかじゃないんですよ。「おいしいんだから食べてみなよ!」という気持ちでやってる。有機農業はこういうエネルギーでしか進めないと思ってます。

佐藤:僕はね、有機農業のメリットには総論と各論があると思いますよ。総論で言うと、農業の世界って、個人農家は減っていくけれども、スケールを大きくしようとする人からすると、割と大きくしやすい。また国内の人口は減っている一方で、世界人口は爆発的に増えていて、農産物の輸出というのも当たり前にできるようになってくる。

この構図を見たときに、「有機農業のメリットはなんですか?」というと、日本の農業全体に有機という言葉が浸透して、有機でもやっていくんだというレールが出来上がっていくこと。これ自体が有機農業の経営上の大きなメリットになると思いますよ。

各論的な話でいうと、生産者が価格決定権を持ちやすいっていうこと。僕は安納芋と麦を慣行栽培の1.2~3倍の価格で売っているけど、価格について文句を言われたことがない。

やはり慣行農業の辛いところは、価格決定権が農家側にないこと。新規で有機農業をやるっていうのであれば、この価格決定権が農家側にあるっていうのは結構なメリットになるんじゃないかな。

萩原:慣行栽培の農家と話をしたときに、農協の手数料が1割あがったっていうんです。そこに物価高や化成肥料の値上がりも入ってきて、収益構造がなくなってきてるんですよ。でも有機栽培はまだ自分たちのところにボールがあって価格を決定できる。それだって、これからどうなるかわからないですよ。今有機栽培をやっている人たちは、市場交渉みたいなことを自分たちでやっていて、チームとしても強い組織でできている。僕がよくスタッフに言うのは、直接売るということはサービス業や中間業務まで全部自分たちでやるということ。そのノウハウを身に付けなくちゃいけない。

香取:僕は人間的な観点でメリットを感じてますね。有機農業って自分で値決めするから、作物を高く売りたいと考えている人が取引先にも多いし、環境に興味関心のある人と働きたかったら、有機農業を目指すのもいいかな。この業界って、すごく優しい人が多いんですよね。自分の出した見積もりが却下されたこともないですし。でもその優しさって、自分が育たなくなる可能性も高いので、デメリットにもなり得るかなと思っていますね。

どのくらい働いてる?

佐藤:朝5時に起きて、夜8時~9時くらいまで働いています。

香取:夜6時には終わりますね。

佐藤:夜5時~6時に終わるときもありますよ。社員が帰るときに一緒に帰ったり。ただ、家には帰るんですけど、何かしらの作業はしてますね。

香取:僕はホワイトカラーを目指しているんです。めちゃくちゃもうけることはできないかもしれないけど、ちょっと長生きしたいので、夜6時には仕事を終わらせてます。

佐藤:うちの会社も労働時間を減らそうとしてますね。

香取:良い取り組みですね。農業の、寝る暇もなく働いているというイメージを変えていきたいですよね。ただその一方で、若い人ってハードに仕事をしたほうがその人のためになることもあるだろうなと思って、そのバランス取りが難しい。

伏田:社員さんの年間所定労働時間ってどのくらいで契約してます?

香取:週休2日の8時間労働としているので、2000時間ちょっとくらいですね。

井上:最近はフレックス制度を導入しているところもありますよね。僕らも夏の繁忙期の間は、週休2日で翌週は1日とかで、冬にまとまった休みがあったり。

でも僕や萩原さんが居るところ(山梨県や長野県)の慣行栽培のレタスとか白菜とかって、冬の間もバイトとかして働いたり、収穫時期には朝2時からヘッドライトをつけて収穫したり、そういう働き方をしていますよね。

編集後記

新規で有機農業に参入しようとしている人にとって、自分で価格を決めやすいというのは大きな魅力。しかしそれは、自分たちで値段交渉をしないといけないことの裏返し。経営者としても高いレベルが要求されます。

前編後編にわたってお届けした有機農業の経営者座談会。厳しい現実もあるなかで、無いものを作り上げることを楽しむ皆さんの挑戦に、これからも注目していきます。

 

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