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【TOP対談】今は輸出の好機!競争のカギは第三者認証

【TOP対談】今は輸出の好機!競争のカギは第三者認証

食の安全や生産工程を重視する消費者が増えはじめ、企業もGAP認証取得農家や直営農場などを通じた食料調達を本格化させている。一方、認証取得の費用や負荷の大きさから躊躇している農家がいることも現実だ。GAP認証を取得することで、農家にはどんなメリットがあるのか。日本GAP協会の理事である武田泰明(たけだ・やすあき)さんと、マイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が対談した。

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■武田泰明さんプロフィール

日本GAP協会代表理事
1976年北海道生まれ。三菱商事で食品営業や食品工場の品質管理などを担当。その後2006年に日本GAP協会の立ち上げに携わり、初代事務局長に就任。監事を経て現職。また、現在は農園リゾート「ザファーム」、農業生産法人「つくば良農」の代表取締役も務めている。

■横山拓哉プロフィール

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。2007年マイナビ入社。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで、数多くの企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より「マイナビ農業」を運営する地域活性CSV事業部にて「農業をもっと近く、もっと楽しく」を身上に、農業振興に寄与すべく奔走している。

きっかけは商社時代の食品事故

横山:まずは日本GAP協会の取り組みからお話を聞かせてください。

武田:日本GAP協会は、JGAP、ASIAGAP(※)というGAP(Good Agricultural Practices:良い農業の取り組み、農業生産工程管理)の認証制度の管理、開発、運営を行っている財団法人です。最近ですと、東京2020オリンピック・パラリンピックの選手村の食材調達基準がGAP認証だったため、多くの農家の方にも知っていただけたと思います。また、2025年の通称・大阪・関西万博もJGAP等が調達基準になりました。

横山:武田さんはJGAPの立ち上げに携わってきたのですよね。

武田:はい。きっかけは三菱商事時代の経験です。食に関連する仕事に携わっていたこともあり、常に食品事故のリスクには注意を払っていました。
例えば、食材から加工品を作って販売する際には、農薬の残留基準違反や異物混入等のリスクがあります。こうした事故が起きた場合、原因を調査し再発防止策を報告するのですが、大体は生産工程で適切な管理さえできていれば防げるものばかりでした。

そんな苦い経験からGAPに興味を持っていて、同じ課題やGAPへの理解を持っている方々と一緒に日本GAP協会を設立しました。
作る人、買う人、売る人、みんなで一つのテーブルを囲んで、農場管理の基準書を作ろうと。それがJGAPになっていったんですね。

横山:私も勉強しましたが、まさに基本の「き」を網羅した内容だと感じました。

武田:JGAPを作るときは、農産物を仕入れる企業にも協力してもらいました。これまでに主に国内で起きた食品事故の例を持ち寄って、原因は何か、どうしたら防げたかを徹底的に分析しました。それを一冊にまとめ上げたのがJGAPですから、非常に信頼できる内容だと思います。また、こまめに改定も行っています。

指導員用に自ら農場経営!

横山:武田さんはご自身でも農場を経営されていますね。

武田:現在は二つの農場を経営しています。2006年から9年間は日本GAP協会の事務局長の仕事に専念していましたが、後任に引き継いでからも「GAPをさらに普及させたい」という思いがあり、ライフワークとして続けていきたいと考えていました。そのために、現場でGAPを学べる場所を作りたかったんです。でも、知り合いの農家に頼んで現場を借りる方法ではやりにくい。そこで、GAPの現地研修をやれるような農場を作ろうと思い立ち、2015年につくば市で農業法人「つくば良農」を始めました。

横山:2ヘクタールから始めて、現在は25ヘクタールになっているんですよね?

JGAPの研修用農場として使われている「つくば良農」

JGAPの研修用農場として使われている「つくば良農」

武田:8年間で10倍以上に広がりました。正直1年目は大変で、作業をこなすだけで精一杯でしたが、2年目からJGAP認証を取得しました。その後は実際にJGAPの研修用農場として使っています。
研修の日はわざと不適合箇所を作り、私が農家役となって現場でロールプレイングを行います。指導員役には農家との話し方はもちろん、改善の提案もやってもらいます。現在は、たまたま隣にあった牧場を引き継いで、黒毛和種の牛も100頭飼育しています。今は、畜産版のJGAPも出ているので、ゆくゆくはその現地研修をやるための場所としても使いたいですね。

年収2000万円の農家がゴロゴロいる世界

横山:日本の農業と海外の農業の違いについて、武田さんはどのように捉えていらっしゃいますか。

オランダの農場。自動収穫期でラディッシュを収穫している

オランダの農場。自動収穫期でラディッシュを収穫している

武田:海外では「農業はビジネスである」という感覚が非常に強いです。農産物・食料品輸出額で上位に入る国はほとんどが先進国ですし、とくにオランダは小国でありながら農業大国ですよね。

GAPの仕事を始めてから、オランダやドイツ、イタリアなどヨーロッパの農家にも視察に行き、GLOBALG.A.P.の取り組みなどを見せてもらいましたが、どこの農家もみんなビジネスとしてやっている人たちばかり。年収2000万円の経営者がゴロゴロいて「農業はビジネスチャンスが大きいんだ」と語っていました。日本の農家にも、もちろんそういう方もいますし、私自身も自分の農場はそういうマインドで経営しています。
農業はもっともうかるビジネスなので、「農業=ビジネス」というマインドで見直してみてもいいのではないでしょうか。

横山:オランダは、いかに輸出するかという出口ありきで経営を考えているのは印象的だなと思っていました。

武田:もちろん販売戦略も必要です。そのためにGAP認証がないと大手のバイヤーとつながれませんから、ヨーロッパの大規模農家にとってはGAP認証を取得するのは当然のこと。それから生産効率を上げて単収を上げるために、ITをどう使うかを考えています。こうして農業の現場を組み立て直しているんです。「いかに労働者の賃金を低く抑えるか」に注力する勝負の仕方は未来がありません。

輸出の狙い目はどこ?

横山:将来を見据えて、日本の農業の打ち手になると考えることがあれば教えてください。

武田:今は円安じゃないですか。本来は輸出の好機です。もちろん原料は高くなりますが、輸出するときにはもっと高い値段をつけられます。今、輸入肥料の価格高騰に苦しむ農家もいるといわれていますが、商品の価格を3割アップして輸出できるようになればいいんです。なぜこの波に乗れないかというと、普段から農産物を輸出するノウハウを日本の農家が持っていないから。今からでも遅くありませんから、輸出をやってみるといいと思います。

横山:輸出する国はどこが狙い目だと思いますか。

武田:シンガポール、香港、タイ、台湾などがいいと思います。ポイントになるのは、高品質であることと、価格競争力があることです。
例えば、シンガポールのキャベツの値段を考えると、日本のキャベツは現時点で十分、価格競争力があります。今は1キロ当たり40円〜50円程度で取引されていますが、この値段に輸出経費をのせても、中国のキャベツよりも安く売れます。
実はキャベツ以外にも、タマネギやニンジンなど価格競争力のある品目はいくつもあるんです。それらを主要輸出品目に置いて国が支援し、農家に輸出の経験を積ませる。それだけで日本の農業に新しいビジネスチャンスが生まれます。
それから、シンガポールやタイ、台湾で大手企業に売るためには、GAP認証の取得はマストです。

リスク回避と販売促進のために

横山:GAP認証は、過去に農業現場で起きてしまったことを二度と起こさないための集大成としてできたものなんですね。

武田:そうですね。残留農薬基準違反(食品衛生法違反)や労働事故を起こしたい農家っていないと思うんです。であれば何かやらなければいけない。そのためのGAP認証です。
それだけでなく、販売促進にも効果があるんです。例えばセブンイレブンはGAP認証100%を目指して、取引先をGAP認証に切り替えていっています。これから伸びそうな魅力的な売り先に納品できれば、自分たちの農産物も自然と伸びる。

横山:農家にとって、新たな販路拡大に機縁するかもしれないですね。

武田:GAP認証の内容はインターネットに情報が公開されているので、まずはできるところからで良いので、みんなにお勧めしたいですね。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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