「都市の農」を食で体験する料理会
都市の暮らしでは農を身近に感じる機会は少ないかもしれません。しかし、都内にも多くの農園があり、さまざまな作物が栽培されています。実は、直接畑に足を運んで生産者と接することができるほど近くに農業はあるのです。
そこで、「農場から食卓へ」を意味するFarm to Table(ファームトゥテーブル)を、都市部でも実践するきっかけ作りにと、今回の「食と農」の体験イベントが開催されました。題して「Urban farm to Tabel in 吉祥寺PARCO supported by 農業の魅力発見コンソーシアム」。YouTubeチャンネル「1人前食堂(いちにんまえしょくどう)」で普段の料理レシピを発信するmaiさんが、東京都三鷹市にある鴨志田農園のとれたて野菜を使った家庭料理を参加者と一緒に作ります。
料理を教えてくれるmaiさんは、2019年にYouTubeチャンネル「1人前食堂」を開設。自分が食べるものを自分で決めて作るという何気ない日常を動画にしてつづり、食と暮らしと健康的な料理の関係性を模索しながら、映像や言葉を通じてさまざまな提案を行っています。
鴨志田農園代表の鴨志田純(かもしだ・じゅん)さんは、数学教員を経て三鷹市に代々続く農家の6代目となりました。家庭から出る生ごみと落ち葉などの有機廃棄物を微生物の力で堆肥化させるコンポストアドバイザーとして、全国各地だけでなくネパールでも活動。2020年サステナアワードで環境省環境課長賞を受賞しています。
今回の料理会では、参加者が数名ずつに分かれて、maiさんの料理を手伝いながらレシピや作り方のコツを教わり、全員で料理を完成させます。早速、このスタイルで「夏野菜のガスパチョサラダ」を作り、ウェルカムスープとしていただきながらmaiさんの話を聞きます。
中東料理を日本の都市の旬野菜で作る
本日のメニューは、maiさんが最近、好んで作っているという中東料理に着想を得た5品。料理に入る前に、maiさんが作り置きしている発酵野菜の中から「発酵トマト」と「発酵玉ねぎ」の紹介がありました。発酵野菜は、季節の野菜をカットして塩漬けにしたもので、塩と野菜があれば簡単に作ることができます。腸活食材として、また調味ベースとして、家庭の料理に合わせて使えます。1品目に作ったガスパチョも発酵トマトのトッピングで仕上げています。
場がほぐれてきたところで、ここからは実際に料理を作り、ワンプレートに盛り付けて、最後に試食します。
まずは、焼きナスのフムス。オリジナルはひよこ豆のペーストですが、今回は鴨志田農園のナスでアレンジ。普段からナスが好きで食べることが多いというmaiさんから調理のワンポイント。焼きナスは表面をトースターで真っ黒こげに焼いて中身だけ取り出すと、ふわふわでスモーキーな一味違う仕上がりになるとのこと。
続いて「緑のファラフェル」です。ファラフェルとはハーブやスパイスを利かせた豆のコロッケで、ひよこ豆をよく使いますが、今回は旬を迎えた枝豆で作ります。発酵玉ねぎとにんにくで風味を付けますが、鴨志田さんによると野菜は、ブレンド堆肥を作る段階である程度の味が決まるのだそうです。例えば、煮込み用の野菜を育てる際に使う堆肥を動物性の有機物を主体にしたものにするとコクが出て、サラダなど生で食べる野菜の堆肥は植物性の有機物を主体にするとさっぱり仕上がると教えてくれました。
鴨志田家の甘長唐辛子レシピも紹介
「甘長唐辛子の発酵トマトソースあえ」は、鴨志田農園の佑衣さんにおいしく作るコツを習いました。調理方法はフライパンで蒸し焼きですが、このとき、蓋をすると水っぽくなるので、皿などを載せて半押し状態で弱火でしんなりするまで焼くと苦みが取れて甘くなるのだそう。焼き色もきれいに仕上がります。
5品目は、「しそタブレ」です。
「しそタブレ」のタブレとは、世界一小さなパスタといわれるクスクスを使ったサラダ。「スープを添えて主食としても、野菜サラダとしてもおいしく、和もの食材とも相性がいい」とmaiさん。和ハーブのしそを合わせて作りました。
今回の料理は肉を一切使っていませんが、にんにくやヨーグルトなどを使うことでパンチのある味に仕上がっています。
トークセッション
最後に、完成した料理をいただきながら、maiさんと鴨志田さんのトークに耳を傾けます。
maiさんは「自身がこのテーマのターゲット。都市のアパートの1室で料理を作っていますが、自然の恵みを得られるようにライフスタイルを見直すことが自身のテーマ」なのだそう。このテーマに対して、鴨志田さんは「難しく考える必要はないのでは」と応えます。鴨志田さんが生ごみの堆肥化を通して有機農業を推進しているのは、生ごみを可燃ごみから分離して堆肥化することで環境負荷を減らすことができるから。都市に暮らす人も「生ごみ堆肥のおいしい野菜を購入するだけで、結果的に環境負荷を下げてます」と話します。
また、maiさんは「このようなイベントに参加したり、マルシェに行くことが農家さんと接する取っかかりになるのでは」と話します。鴨志田さんは「かかりつけの医者のように、かかりつけの農家さんがいるといい。その土地の風土や景観を維持するためにも地産地消が大事。農家との出会い方として、産直サイトで購入しても、情報発信している生産者を訪ねてみてもいい」と背中を押してくれました。
イベントを終えた2人に感想を聞きました。鴨志田さんは「普段農業に関わることのない、距離の遠い方たちとのきっかけができたのがうれしい」と声を弾ませます。maiさんは「参加者は自分と同じ状況にいる人たちが多いのかなと。嗜好(しこう)やライフスタイルが似通った人が集まって一緒に料理を作って問題意識やスタンスを共有できました。イベントのタイトルをおのおのがかみ砕ける機会になれば」と穏やかに芯のある言葉で語ってくれました。
友達、夫婦、カップル、親子での参加もあり、都市で暮らすいろいろな人が集まった今回のイベント。自身が健やかに暮らすためにも、家族や大切な人のためにも「ファームトゥーテーブル」を実践していくきっかけになったのではないでしょうか。