■伊藤龍太郎氏プロフィール
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株式会社DDプラス代表取締役 大学卒業後、愛知・都内のイタリア料理店で修業を積んだ後(株)ゼットンに入社 料理の他、仕入れにも携わり バイヤーとして活躍。 その後国内約350店舗を運営するDDグループに入社。訪問した、野菜、肉、魚の生産者は300にも及ぶ。 |
■横山拓哉プロフィール
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株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長 国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで、数多くの企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より「マイナビ農業」を運営する地域活性CSV事業部長就任。「農業をもっと近く、もっと楽しく」を身上に、農業振興に寄与すべく奔走している。 |
受発注システムを利用料0円で開放するワケ
横山:DDプラスのお取り組みについて伺えますか。
伊藤: DDプラスは、DDグループ約350店舗ある様々な業態の飲食店の購買機能と物流機能を担っています。
同時に社外の飲食店様にも同仕入れインフラを無料で提供させて頂いております。8月現在この仕入れプラットフォームを運用して頂いている店舗は約700店舗まだ拡大しております。
横山:システムの利用が無料となると、御社にとってはそれほどメリットが大きくないようにも思いますが。
伊藤:大事なポイントですね。利用して頂くお客様が使い易いサービスが最も大事だと考えていますので、サービスの利用料は1円も頂いておりません。
我々は皆さんに使用して頂いているというスタンス。なぜなら、使用量を拡大させることが、最も重要だからです。
マスメリットが増えれば、魅力的な生産者から購入出来るアイテムも増えるし、物流コストの抑制が出来るのです。現在野菜の契約アイテム数は60です。
横山:今後は「2024年問題」により「野菜をいかに届けるか?」も農業界・飲食業界の課題だとも聞きます。これについて御社も強く感じていらっしゃるということでしょうか。
伊藤:そうですね。もちろん物流の課題解決も目指しています。ですが、DDプラスが最も大事にしていることは「鮮度を届ける」ということ。収穫時にはおいしくても、2、3日たって店舗に届いたら、水分が飛んでおいしくないんですよ。私たちは前日に取った野菜が、次の日にはもう届けられているようなサービスを大事にしています。おいしいものをおいしい状態で届けるために、産地と直接契約をします。そのためには(買い取る)数量も確保しないといけませんので、他の飲食店の皆様との共同仕入れによって量を増やせるようにしています。
旬の野菜を仕入れる仕組み
横山:伊藤さんはもともと料理人だったそうですね。当時の経験は、仕入れなどにはどのように生きていますか。
伊藤:やはり料理人は、旬のおいしい野菜を使いたいんですよ。ですが、個別に仕入れていると、本当にほしいときに旬の野菜が手に入らないことがあります。手に入れるためには生産者と直接契約をしたほうが良いと思っていましたが、一定の仕入れ量が必要でした。「使う量が増やせたら、本当においしい野菜を使いやすくなるんだろうな……」と当時思っていたことが今、実現できていますね。今は、鮮度を担保できる距離内で仕入れ先の産地を“リレー”することで、旬のものを長く仕入れられるようにしています。
横山:どのようにしておいしいものを探すのですか。
伊藤:最初は手探りです。物流も生産者様と農協さんとの関係も知りませんでしたから(笑)生産者が掲載された本を買って、関東近郊の生産者に片っ端から電話して、思いだけを伝えました。
今思えば、笑えますけど。

伊藤さんが訪問した生産者たち
横山:経験を積んで「ここはおいしいんだろうな」と分かるようになりましたか。
伊藤:おいしいものを作っている人は、おいしいもの知っているんですよ。ですから「美味しい野菜作っている生産者紹介してください!」と聞くと「伊藤さんね、こことここ、声かけてみたらいいですよ」という話になります。野菜の仕入れは、システムの構築じゃなくて人間関係の構築です。やはり一緒に話して、例えば私たちの店舗も見てもらって、お酒も飲みながら、料理も食べてもらって「ここであなたの野菜を使わせてもらいたいんです」と話すと「やりましょう」と握手してくれたりします。そういう風に決めた生産者さんは、不作の時にも最初に契約した単価で出してくれます。しかも良い品質のものを。市場に出せばキュウリが1本150円する時にもですよ。
横山:日本の食卓を支えてくれていると言っても過言じゃないですよね。

茨城県の契約農家のキュウリを使ったメニュー
生産者の思いを味わって伝える
横山:今、国は2050年までに、耕地面積に占める有機農業の農家の割合を25%まで高めていくことを目標にしていますよね。これについて、飲食業からはどのように見ているのでしょうか。
伊藤:私は有機野菜を増やしたいとは必ずしも思っていません。大事なのは、未来に繋げるべく野菜かどうか。それは、生産者の想いと味だと思います。
私が今大事に考えているのは、むしろフードロスを肥料に変えて、契約産地で使用出来ないか?ということ。我々飲食企業に於いては、こちらを重要すべきと考えています。
横山:先日私がお会いした生産者さんも「『有機JAS認証』というマークをつけたいわけでなく、生産の強みを伝えたいだけ」とおっしゃっていました。
伊藤:私も、有機JAS認証を取得している長野県のキノコ生産者から「認証を取っているので、それを店舗に伝えてもらえるとありがたいです。ただ、認証マークのついたパックにすると1個3円上がるんですけれど……」と言われたことがあります。
飲食店の場合、JAS認証のパックで納品されても、開けて提供しますよね。するとバイヤーのエゴなのか、お客様にとってやるべきことか迷うんですよ。
「そんなエゴいらないから3円安くしてよ」と店舗が思うかもしれませんから難しい。
横山:確かにスーパーマーケットに出すときと、飲食店に出すときでは、伝え方に大きな違いがありそうですね。
伊藤:そうですね。DDプラスでもようやく汎用(はんよう)性の高い野菜については安定的においしく、まじめに作っていただける生産者さんと契約できました。これからは、店舗の料理人が唯一無二の野菜を使えるようにしていきたいです。毎日使うおいしい野菜も仕入れられるけれど、その日の特別な“黒板メニュー”を作れるような食材も、もっと扱えるようにしたいですね。

静岡県の契約農家のキャベツ(写真左)と埼玉県深谷市のネギを使ったメニュー(写真右)。
差別化と安定供給の観点で仕入れ
横山:伊藤さんから見て魅力的な生産者さんの特徴はありますか。
伊藤:魅力的な方は、やはり自分の作っている野菜を気にして頻繁にコミュニケーションを取ってくれるんですよ。LINEで生産者さんとつながっているのですが、生産者からは「雨降ったので、今、こういう状態です」とか「店舗の方はどんな感想ですか?」「サイズはどうですか?」などと連絡が来ます。契約後は年1回だけ価格の話しかしないような方だと、私たちも日ごろの感謝を伝えられませんし、興味もないのかなと思ってしまいます。

伊藤さんが訪問した生産者たち(写真左:レタス生産者 写真右:大葉生産者)
横山:例えば生産者さんから「うちの野菜を使ってもらいたい」と持ち込む際のポイントなどはあるのでしょうか。
伊藤:まずはおいしさでしょうか。他社さんと差別化できることが大事です。値段ではなく、何か特徴的な農法だったり、味の濃さや緑の鮮やかさだったり。もちろんその点で有機農業というのも良いと思います。また、私たちの場合は、ある程度の使用量がありますので、その生産者さんがどれくらいの量を、どのくらいの期間作れるかは知りたいですね。例えば、すごくおいしくても、極端な例では「1カ月しか取れない」となると、ちょっと使いづらいところがあります。継続取引を大事にしていますので、2カ月くらいの収穫時期があるほうが良いですね。
横山:差別化できる特徴と、仕入れ側としては安定供給の観点も大事だということですね。
伊藤:お互いが長く継続的な取引ができるように、使用量もお伝えしながら、栽培計画から一緒に話ができれば良いと思っています。
飲食企業として農業を守る
横山:最後に、農業界をどのように盛り上げていきたいか、伊藤さんの今後の展望を聞かせてもらってもいいですか。
伊藤:やはり飲食企業のバイヤーとしての使命があると思うんです。
生産者はコロナ禍で飲食企業からの野菜の発注が大幅にへり、とても厳しい状況になりました。そんな状況でも、生産者の皆様は「伊藤さんが悪いんじゃないからしょうがないよ!」って何も言わず、耐えてくれていました。
その時、私は「飲食企業が農家さんを守る存在なんだ」って強く思いました。
だからこそ、どの生産者と継続取引をする事が重要かを真剣に考えないといけないし、少なからず、未来に繋がる1次産業に関わる人間としての使命だと思いました。
同様に環境にも配慮していきたいです。温暖化によって、この数年間野菜の価格が暴れている状況です。共同仕入れを進める事で、物流の統合を進めCO₂の削減を進めながら、フードロスを肥料に変え、契約産地で使用するような循環をいち早くすすめなくてはいけないと感じています。
(編集協力:三坂輝)