コマツナ生産の動向
コマツナは栽培が比較的容易であり、栽培期間が短く、年間で最大7〜8回作付け可能な作物です。周年での雇用型経営で規模を拡大しやすく、また耐暑性を生かして夏場の葉物野菜の安定出荷が可能なことから、近年の作付面積、出荷量はともに増加傾向にあります。
しかしコマツナは、ほかの軟弱野菜同様に出荷調製作業の時間がかかるため、時間当たりにどれだけの袋数、束数ができるかが出荷量を決めるポイントです。そのため、大規模化を進めるためには、ますます収量性と収穫作業性を兼ね備えた収益性の高い品種が求められます。
また、近年は異常気象の影響で、特に高温期の収穫では徒長による株張りの低下、石灰欠乏症やカッピングのような生理障害の発生など、安定した栽培が難しくなっています。
このような背景から、タキイでは高温期の栽培でも株張りがすぐれ、収穫・調製作業がしやすい品種、さらには在圃性・耐暑性にすぐれ、生理障害や病害に強い耐性をもつ品種の育成を目標に開発を進め、産地で複数年を経て、このたび発売する運びとなりました。
品種特性
収量性・作業性・在圃性にすぐれる夏どり晩生種
❶葉柄が太り、葉枚数が多いため株張りがよく収量性が非常に高いことが一番の特長です。
❷草姿が立性で葉柄が折れにくいため収穫・調製作業が容易です。
❸生育がじっくりしており、徒長しやすい時期の栽培でも葉柄が間延びしにくく在圃性にすぐれます。
耐暑性にすぐれ生理障害に強い
耐暑性があるため、高温期の栽培でも石灰欠乏症やカッピングに強いため、夏どり栽培での良品出荷が可能です。
萎黄病と白さび病に強い耐病性をもつ
夏どり栽培で問題になる萎黄病と、多湿条件で発生しやすい白さび病に強度の耐病性をもち、安定した栽培が見込めます。
濃緑平滑葉で葉ぞろいがよく、荷姿が美しい
葉色は濃緑色でテリがあり、葉面はシワが少なく平滑葉です。
また、葉と軸のバランスや葉ぞろいがよいため、束ね・袋詰めしたときの荷姿が美しく商品性にすぐれます。
栽培のポイント
種まきおよびかん水管理
夏季のコマツナの栽植密度は、条間15㎝、株間5〜6㎝ が目安ですが、生育期間が短いため、発芽がばらつくとその後の生育に大きく影響します。発芽をそろえるため、ハウス栽培の場合は整地前にたっぷりかん水して圃場の奥深くまで、乾湿のムラなく水を浸透させた状態で整地、種まきを行います。生育初期から中期までは1回のかん水量を多めに行い、乾燥による生育ムラを防ぎます。
生育中の過度な乾燥条件では生育の遅延、および本来の株張りが発揮されない可能性があるため、かん水管理で生育を順調に進めます。
生育の後半はかん水量を控えめにし、株張りを促します。
適期収穫を心掛ける
適作型は中間・暖地ハウスの4月上旬〜8月下旬まき、冷涼地ハウスの4月下旬〜8月上旬まきです。特に下降気温下での栽培では、生育がよりじっくりして栽培期間が長くかかるため、適作型での栽培を推奨します。在圃性にすぐれますが、在圃期間が長くなると外葉の黄化につながるため、できるだけ適期収穫を心掛けてください。
病虫害予防
萎黄病や白さび病には耐病性をもちますが、根こぶ病などほかの土壌病害発生が懸念される場合は、土壌消毒や殺菌剤の利用、圃場(ほじょう)の排水改善など総合的な防除を行ってください。また、栽培時期はアブラムシやアザミウマなどの被害による収穫物の品質低下も多くなっていますので、予防的防除を心掛けてください。
「菜々シリーズ」との使い分け
新発売の「夏蒼天」は、生育がじっくりしており、株張りがすぐれるため軟弱徒長しにくく、収量性と在圃性にすぐれます。また、萎黄病や白さび病に耐病性をもち、高温期に発生しやすい石灰欠乏症やカッピングの発生が少ないため、高温期栽培での基幹品種
として活用していただけます。
一方、従来の夏どり品種である「菜々シリーズ」の中で、より早生(わせ)でボリュームを重視される方は「菜々美」を、極立性で作業性を重視される方は「菜々音」をおすすめします。
(執筆:タキイ茨城研究農場 神田 拓也)