ニンジン生産の動向
ニンジンは種まきから収穫までの栽培期間が長く、生育環境の影響を受けやすい品目です。特に露地での栽培となる夏まき秋冬どりは、近年の気候変動により、猛暑や豪雨、台風の襲来、干ばつ、暖冬、寒波などさまざまな環境ストレスが増加し、作柄が不安定となっています。
一方で、生産の現場では作付け規模の拡大が進み、種まきから栽培管理、収穫出荷まで一連の作業の大規模な機械化が進んでいます。この状況にタキイでは幅広い環境に適応できる、生育の安定性と機械化への適応力を高いレベルで併せもつ品種を目標に、育成を行ってきました。
「TCH–799」として数年間にわたり関東や九州の主要な産地で幅広く試験栽培を行った結果、期待した育種目標を達成し、有望と認められたため「冬ちあき」と命名し、今回発表することとなりました
品種特性
形状のまとまりがよい中早生種
「冬ちあき」は尻づまりがよく、肥大の安定した中早生種です。暑さ寒さに強く、幅広い土壌に適応します。形状の乱れが少なく、適期収穫でM/L規格によくそろい、秀品率が高い品種です。
初期生育が旺盛で作りやすい
夏まき栽培は種まきの時期が高温条件となりますが、発芽ぞろいがよく、初期生育が旺盛なため欠株になりにくく、栽培安定性にすぐれた作りやすい品種です。
機械化に適する
生育初期から草姿立性で中耕や土寄せ、薬剤散布など栽培管理が行いやすい品種です。また、収穫時期に葉が伸び過ぎず、葉軸はしっかりしており、耐寒性にすぐれるためニンジン収穫機を用いた機械収穫に適しています。さらに、肉質が緻密で割れにくく、収穫時や洗浄および選別時のひび割れの発生が少ないため歩留まりも良好です。
根色濃く、肌がなめらかで食味良好
肌がなめらかでつやがあり、根色は表皮から芯まできれいな赤みのある鮮紅色です。みずみずしい食感で臭みが少ないため、食味にすぐれます。根形はやや肩張りで、尻部の肉付きがよい円筒形状のため調理しやすく、幅広い用途の業務加工に適した商品性の高い品種です。
栽培ポイント
排水良好で有機質に富んだ土づくり
「冬ちあき」は肥沃(ひよく)で耕土が深く、通気性・排水性・保水性のよい畑での栽培が適します。排水のよい畑を選定しましょう。地下水位が高く水はけの悪い畑では短根や又根、しみ腐(ぐされ)病などが発生するおそれがあるため、畑に水がたまらないよう明きょの整備や畝を高めにするなど排水性の向上に努めましょう。
通気性や保水性、保肥力など土壌の物理性向上には「ネグサレタイジ」(えん麦野生種)などの緑肥の栽培を推奨します。堆肥(たいひ)を施用する場合は完熟したものを利用し、量が多くならないように注意しながら、前作の栽培時や、種まきの1〜2カ月以上前に施用します。
また、土質改善にむけた腐植酸の補充には「腐植チャージ」がおすすめです。排水がよく有機質に富んだ土づくりが豊作への第一歩です。
「均一な発芽」と「スムーズな初期生育」
良品多収の最重要ポイントは、発芽をそろえ、初期の生育を順調に進めることです。ニンジンの種子は吸水力が弱く、発芽に多くの水分を必要とするため、発芽をそろえるよう十分なかん水管理を行いましょう。発芽後も過度に乾燥すると又根や裂根が増加するため、土壌の水分状態に留意し、適宜かん水を行います。
「冬ちあき」の初期生育が旺盛という特長を最大限に生かせるように、かん水管理を確実に行い、均一な発芽とスムーズな初期生育を目指しましょう。
適期の種まきと適期収穫、病害虫の防除
「冬ちあき」は肩部の高温障害(エクボ症、肩こけ)に比較的強い品種ですが、無理な早まきは高温障害や黒葉枯病など病害発生のリスクが増加します。一方で、遅まきは肥大不足や着色不良の要因となるため、栽培地域に即した適期の種まきを心掛けましょう。害虫や葉枯れ病害(黒葉枯病、斑点病、斑点細菌病など)は一度発生すると広がりやすく収量に大きく影響します。
発生前からの予防的防除を基本とし、種まき後1カ月あたりから定期的に登録薬剤の散布を行うと効果的です。また、収穫遅れによる老化は、しみ症(しみ腐病、根腐病、乾腐病など)の発生増加につながるため適期収穫を心掛けましょう。
追肥型の肥培管理と土寄せの励行
施肥量は「向陽二号」よりも1〜2割程度減(10アール当たりチッソ成分で10㎏程度)を基準とし、前作の残肥や畑の保肥力を考慮して施肥量を決定します。生育後半まで葉を健全に保つために、追肥型の肥培管理が適しています。元肥として全体の6〜7割を施用し、残りを追肥とするとよいでしょう。生育途中の肥料切れは、裂根や葉の黄化、地上部病害の発生につながるため注意しましょう。
また、ニンジンの生育にはリン酸の肥効が重要といわれています。元肥としてリン酸を施用するとともに、亜リン酸を含む葉面散布剤(「ホスベジ10」がおすすめ)を生育の中期から後期にかけて散布すると発根が促され地上部が健全となり、安定生産・良品多収へとつながります。降雨により土壌がかたくなった場合は畝間や条間の中耕を行い、土壌の通気性を改善します(湿り気が多く土がしまりやすい畑では土壌改善に「オキソパワー5」がおすすめです)。青首防止のため、最終間引き後に株元へ土寄せを行います。降霜の厳しい地域や厳寒期の収穫では、首部の凍害防止のため12月に再度、土寄せを行いましょう。
(執筆:タキイ研究農場 門田伸彦)