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1日で10万円以上の売り上げ!! 自宅や自分の畑から都心のターミナル駅前マルシェで販売する「リモート出店」は、農家の新たな販路になる!?

1日で10万円以上の売り上げ!! 自宅や自分の畑から都心のターミナル駅前マルシェで販売する「リモート出店」は、農家の新たな販路になる!?

東京のJR山手線「大崎」駅前で、毎週金曜と土曜にマルシェが開催されている。全国各地から生産者が集まり、野菜や果物などを販売する「大崎駅前マルシェ」だ。特徴的なのは、対面販売だけでなく出店者がリモートで参加できるという点。商品である農作物のかたわらにモニターを設置し、産地に居ながら東京の消費者と実際に会話をして販売する。都心から離れた地方の生産者にとって新たな販路となり得るリモート出店について、マルシェを主催するムクモト設計株式会社の代表・椋本修平(むくもと・しゅうへい)さんに話を聞いた。

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大崎駅前マルシェは、よくあるマルシェと何が違う?

JR大崎駅南口の改札前で、毎週金曜日と土曜日の12時から19時まで開催される「大崎駅前マルシェ」。地元の青果店や全国の農家が農作物を持って集まり、旬の野菜や果物などを販売している。買い物に来るのは大崎駅前のタワーマンションなどに住む地元住民や、近隣のオフィスで働く人たちだ。

取材した金曜の夕方にマルシェを見学していると、にこやかにあいさつを交わしたり前回購入した野菜が話題になっていたりと、常連客も多いことがすぐに分かった。広域集客というよりは何度も足を運んでいる地元住民が多く、都心でありながら地域に根ざした市場の雰囲気だ。売る側も買う側も、楽しんでいる様子が伝わってくる。

椋本さん

マルシェを主催するムクモト設計株式会社代表・椋本修平さん

マルシェを主催するムクモト設計株式会社の代表・椋本さんは、店舗デザインの仕事やスーパーマーケットでの勤務経験を経て2016年7月に独立した。売り場作りの経験を生かして生産者の支援や街の活性化事業を行っており、大崎駅前マルシェは起業まもない2016年12月から開催している。
「スーパーマーケットでの経験から、生産と販売が分業化されすぎているのではないか、作る喜び、売る喜び、買う喜びを実感しづらい状況があるのではないか、と感じてきました」。と語る椋本さん。
地元の青果店のほか、スーパーマーケット時代から付き合いのある生産者に声を掛けて始めたが、現在では北海道から沖縄まで全国各地から出店がある。

マルシェの様子

種類の違うトマトを少しずつ組み合わせるなど、楽しみながら買える仕組みを工夫している

風の子ファーム

おいしいトマトのファンが多い埼玉県「風の子ファーム」。何度も出店している常連農家さん

地元の自宅から、自分の畑から、都心のマルシェにリモート出店!?

出店する農家は自ら売り場に立つだけでなく、地元にいながらリモートで参加するという方法もある。売り場にモニターを設置し、訪れた顧客とモニター越しに会話をして販売する。農家自身が呼び込みや商品説明を行いつつも、商品の陳列やレジはマルシェの主催者へ委託することで、自ら現場へ出向くことなく参加できる仕組みだ。

マルシェ概要図

リモート出店が特徴的な大崎駅前マルシェの仕組み

出店の流れ

リモート出店の概要。3週間前までに出店希望を出す。InstagramのDMからの問い合わせも受け付けている

マルシェは金曜と土曜の2日にわたって開催されるが、1日だけでも出店は可能。
リモート出店であれば、繁忙期などでイベントに長時間出かける余裕がない場合でも、午前中は畑で作業をして午後から大崎駅前マルシェに参加する、といった時間の使い方ができる。畑に立ち、収穫前の作物の様子をモニター越しに見せる、などの接客も可能だ。
また、何度かマルシェの店頭で販売し、リピーターを獲得したらリモート出店を取り入れるケースもあるという。

リモート出店

モニター越しに接客するリモート出店の様子

コロナ禍で注目を集めたリモート出店

2020年には、コロナ禍の影響で3カ月ほどマルシェの休止を余儀なくされた。再開してからも、人が集まりがちな山手線駅前という立地のため、さまざまな制約を受けることもあったという。しかし、大崎駅周辺はオフィス街であると同時にタワーマンションなども多く、地元住民の数は多い。外食の機会が減る中で、新鮮な農作物を求める近所の人たちがマルシェに訪れるため、コロナ禍でも客足は途絶えなかった。

一方で、もともと地方の生産者が気軽に出店できるようにと設定していたリモート出店の仕組みが、コロナ禍のもとで注目されるようになった。緊急事態宣言下で地方から東京へ出向いて販売することが難しくなった時期に、リモート出店を活用する農家が増えたという。

椋本さんはスーパーマーケットでの勤務経験をもとに、商品の陳列方法やPOPの設置、またリモートでの接客方法についても、必要に応じて出店者にアドバイスを行う。販売経験の少ない生産者にとって、接客や売り場の設営について具体的な助言をもらえるのは心強いだろう。

珍しいとうがらし

珍しい野菜は食べ方をアドバイスするなど接客の果たす役割が大きい。大崎駅前マルシェでは、商品の陳列や効果的な売り場作りなど、販売に関するサポートも受けられる

安くておいしい産直農作物のニーズは根強く、大崎駅前マルシェの売上は好調だ。1日10万円以上の売上を安定的に実現し、何度も出店している生産者も多い。トラックいっぱいに積み込んだ農作物を、繁忙期には1日に40万円ほど売り上げる出店者もいるという。

リモート出店の場合は、慣れるまでは特に声掛けのタイミングが難しい。録画した動画が流れているものと思われてしまい、気付いてもらえないこともあるという。来店する人を画面越しによく観察して適切な声掛けを行うほか、画面越しの会話をアトラクションのように楽しんでもらえるよう積極的にコミュニケーションをとることも有効だと椋本さんは語る。

農家とお客さんの接点として。ECサイトへの流入窓口として。マルシェは役割を変えていく

 大崎駅前マルシェでは、商品の値付けは出店者に委ねられている。ただし、閉店間際のタイムセールなどの値引きは禁止だ。初めに付けた定価の信頼性を失い、また顧客にとっての裏切り行為にあたるという考えのもと、値引きは行わないのが大崎駅前マルシェ全体のルールだ。
出店者は自分が売りたいと思う価格をつけ、売り場に並べてみることで、市場価値を探るきっかけや消費者の意外なニーズを知ることにもつながる。

また、ECサイトの販売機能とマルシェの対面販売を組み合わせて活用するケースもある。ECサイト「ポケットマルシェ」で決済を済ませた商品の引き渡し場所に、大崎駅前マルシェが活用されるという方法だ。それまでECサイトでしか接点のなかった顧客と実際に顔を合わせる機会として大崎駅前マルシェを活用することで、関係性の強化が見込める。

「大崎駅前マルシェを農家さんとお客さんとの接点として使ってもらうことで、農家さん自身のECサイトへの流入増、そして農家さんの収入増につながっていけばと考えています」と椋本さんは話す。

ECサイトとリアルを行き来する仲介役となることで、店頭での直接的な売り上げを増やすほか、農家の名前と顔を覚えてもらいECサイトへの導入をはかるなど、マルシェはさまざまな役割を果たしている。

また、地方からの出店者にとっては、東京都心という立地ならではのメリットもある。旬の食材はもともと売れ行きが良いが、シーズンの初頭でまだそれほど東京で出回っていない時期には、特によく売れるケースも多い。また、送料などのコストを含めて地元より高い価格設定で販売してもなお「安い」と喜ばれることもあるという。地元以外に販売ルートを開拓したいと考える地方の生産者は、大崎駅前マルシェへの出店が新たな選択肢になるのではないだろうか。

参加農家に聞く、リモート出店のリアルとは

実際に大崎駅前マルシェにリモート出店をしている農家のリアルな体験談を聞くべく、鹿児島県出水市にある柑橘(かんきつ)農家の「ドメーヌ fkwk」4代目、福脇慎一(ふくわき・しんいち)さんに話を聞いた。

畑に立つ福脇さん

出水市の畑に立つ福脇慎一さん

____大崎駅前マルシェのリモート出店をどのように活用されていますか。

出水市が販路拡大を目指す取り組みを行う中で、東京のマルシェでの販売等について学ぶ機会があり、講師であった椋本さんに出会いました。そのご縁で3年前から何度も大崎駅前マルシェにリモート出店しています。継続して出店するうちに常連のお客様ができ、リピートして買ってくださるようになりました。

柑橘類が豊富な九州エリアで販売するのに比べ、1.5倍ほどの単価で売れるのは大きな魅力です。とはいえ通常は鹿児島から東京に出店するには交通費や宿泊費がかかり、地元を離れる期間の農作業をどうするかという問題もありました。大崎駅前マルシェのリモート出店は、コストを抑えると同時に、地元でいつも通りの農作業を行うこともできるのでとても助かっています。

福脇さんリモート出店

福脇さんがリモート出店した時の様子

____初めからリモート出店ということで、難しかった点や工夫している点は?

最初はムクモト設計のスタッフさんに売り場作りや声掛けの仕方などに関するレクチャーを受けてからの挑戦でした。録画した映像が流れているだけだと思われてしまう場合もあるので、ライブでつながっていることを積極的にアピールしています。身振り手振りを使ったり、マスクなしで接客できる利点をいかして表情をしっかり見せたりするのもコツかもしれません。

低めの位置に設置したモニターがちょうど親子連れの子供さんの視線の高さにあり、足を止めてもらうようなケースもあります。

東京ではそれほど知られていない紅甘夏(ベニアマナツ)という品種を販売した際には、食べ方や保管方法などを丁寧にご案内するよう心がけました。

____今後も大崎駅前マルシェへのリモート出店は継続されるのでしょうか。

今シーズンも秋以降に継続して出店していく予定です。また、同じ出水市内でお茶やお米を作っている農家さんともマルシェを通じてつながっており、例えば何か出水市の農作物の詰め合わせセットのようなものを作れないかなど、新しい企画も検討しています。普段なかなか接点を持てない地域にも手軽にアプローチできるリモート出店には、いろいろな可能性があると感じています。

大崎駅前マルシェのこれから

マルシェ遠景

駅につながる通路橋(歩行者用デッキ)に緑のテントが並ぶマルシェの遠景。道行く人が足を止める

コロナ禍が始まった2020年頃に比べ、消費者の行動様式やマインドは変わってきた。大崎駅前も、2023年8月現在ではオフィス街へ通勤する人も含めてかなりの人通りが戻りつつある。

これからも全国各地から新鮮な農作物が集まる大崎駅前マルシェを続けたいと話す椋本さんに、今後の展開について尋ねた。
「リモート販売・直接販売のどちらも継続して、おいしい野菜や果物などが並ぶ売り場を維持していきます。また、コメや茶葉など、消費動向の変化で売り上げが低下している品目の販売を活性化したいですね」と椋本さんは語る。

この秋には全国のコメ農家に声を掛け、とれたての新米を販売するイベントを企画している。大崎駅前に脱穀機を持ち込み、消費者の目の前で脱穀、精米を行い、おいしくて鮮度のいい新米を販売する計画だという。都心に暮らす消費者にとっては目新しく、子供たちにとっては貴重な食育の機会となるだろう。
直接的なふれあいの機会とリモート出店のメリットをうまく組み合わせながら、大崎駅前マルシェはさらに発展していきそうだ。

取材後記

新たな販路を持ちたい、自分で値付けをしたい、と考える農家は多いが、都心の産直市場に出店するにはある程度の準備や覚悟が必要になる。「大崎駅前マルシェ」は、JR山手線の駅前という便利な立地に加えて、商品の陳列や効果的な売り場作りなど、販売に関するサポートも受けられる点が特徴的だ。
リアル出店とリモート出店を組み合わせ、さらにはECサイトとの併用で販路を広げる戦略は、全国の農家にとって参考になるだろう。売る側も買う側も楽しそうに過ごす大崎駅前マルシェをぜひ一度のぞいてみてほしい。

大崎駅前マルシェ「おおさき二十四節気祭」Instagram
@osaki.24sekki

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