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農地の集積が進む北陸と東海、進まぬ西日本の条件不利地――。「2020年農林業センサス」から見えた都道府県、地域ブロックの動向

山口 亮子

ライター:

農地の集積が進む北陸と東海、進まぬ西日本の条件不利地――。「2020年農林業センサス」から見えた都道府県、地域ブロックの動向

5年に1度実施され農業版の国勢調査といえる農林業センサス。農政に資する調査研究を担う農林水産政策研究所の企画官である橋詰登(はしづめ・のぼる)さんは、その分析の第一人者である。最新版である2020年センサスは、農地が大規模な経営に集まっていく地域と、そうならずに耕作放棄される地域への二極化を明らかにしていると指摘する。全国の地域ブロックや都道府県で何が起きているのか、語ってもらった。

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農家が減り集積進む北陸

農地の集積に結びつく指標の一つ目は、2015年と20年を比べたときの「販売農家」の減少率だ。販売農家とは、経営耕地面積が30アール以上、または農産物の販売金額が50万円以上の農家を言う。これに満たない農家は「自給的農家」と呼ばれる。

販売農家の減少率は、北海道を除く都府県における平均が22.9%で、北陸3県は30%前後と高くなっている。1位福井、2位富山、3位岐阜、4位三重、5位石川の順である。

「農家が減るのは由々しき事態ではないか」と心配する読者もいるかもしれない。農家が減るにつれて耕作する農地が減り、農業生産が下火になるのではないかと。減少率で上位の県において、それは杞憂(きゆう)である。

「販売農家の減少率が高い都府県ほど、離農した農家の農地が大規模な経営体に集積されていく」(橋詰さん)からだ。 

これを裏付けるのが、二つ目の指標――10ヘクタール以上の経営体が耕作する農地面積の割合――である。2020年の都府県の平均が36.5%であるのに対し、北陸3県は50%台~60%台になっている。1位富山、2位福井、3位佐賀、4位滋賀、5位石川の順に高い。

集積状況

地域ブロック別の集積状況(資料提供:橋詰登)

「農地の流動化」という言葉がある。農家の間で農地の売買や賃借がなされ、農地の所有者や利用者が変わることを言う。農地が流動化すれば、やる気のある農家は規模を広げることができ、それに伴って生産性が上がるはずだ。そのため、農地の流動化は長年にわたって農政が実現すべき課題と位置づけられてきたものの、進んでこなかった。
「販売農家の減少率が高いところは、当然農地が流動化します」(橋詰さん)

このことは、農政が積年の宿題を解決する後押しとなる。とはいえ、流動化するには、放出される農地を引き受ける担い手が欠かせない。担い手がいない地域では、単に農地が耕作放棄されて減る結果になる。

「最後の砦(とりで)」が農地を集積

「しっかりした担い手がいるところは、そういう担い手層に農地が集積され、10ヘクタール以上の経営体による面積シェアの上昇が非常に大きくなります。北陸の富山、石川、福井では、集落営農の組織化が全国に先駆けて進みました。集落営農組織が法人化し、しっかりした経営に発展しているので、農地をどんどん集積してシェアを高めています」(橋詰さん)

地域の農地の維持や管理をする「集落営農組織」は全国に存在する。個々の農家が単独で農業を続けることが難しくなった結果として、集落を単位に組織されることが多い。地域の農業にとって、「最後の砦」とも言われる。その数は2023年2月1日時点で1万4227に達していて、うち40.5%が法人化している。

集落営農組織の分布は地域差が激しい。地域ブロックでみると北陸は先進地であり、組織数は東北に次ぐ2282で、全国にある集落営農組織の16%を占める。法人化率は57.1%と最も高い。
販売農家の減少率と10ヘクタール以上経営体の面積シェアという二つの指標がともに高いところは、ほかに茨城、群馬、埼玉、愛知、岐阜、滋賀、山口、佐賀などがある。

「岐阜、滋賀、山口、佐賀なども、昔から集落営農組織が作られてきた地域」と橋詰さんは解説する。

北関東、埼玉、愛知は大規模農家が集積

ただし、集落営農組織は農地を集積するうえで必須の条件ではない。そのことを示す好例が茨城や群馬、埼玉、愛知だ。

「北関東の各県や埼玉、愛知は、集落営農組織もありますが、個別の大規模農家がしっかり育っている。そういうところがこの5年間に農地の集積を進めているんですね」(橋詰さん)

集落営農組織なり大規模農家なり、農地を拡大できる体力のある経営体が存在すれば、農地の集積は進んでいく。

逆に集積が進まず、二つの指標でともに下位に位置しているのは、近畿や四国の各県が多い。その差は「担い手がどれだけの厚みを持って地域で展開しているかの違い」だと橋詰さんは指摘する。

「最新の2020年センサスは、都府県の間の格差が大きくなっている。担い手が不足している近畿、山陽、山陰といった西日本の府県と、担い手が比較的厚く存在する東北や北陸の平場水田地帯では、かなりの違いが出ている」

担い手の有無で地域差が広がっていることは、農地面積の増減でも明らかだ。15年と20年を比べた経営耕地面積の減少率は、地域ブロック別にみると北海道が2.1%と最も低く、北陸がそれに次ぐ5.2%である。北海道は大規模な経営体力のある農家が多く、離農で出る農地のほとんどを吸収してしまう。

反対に減少率が最も高いのは21.4%の沖縄で、それに13.4%の四国、13.1%の山陽が続く。いずれも中山間地といった条件不利地をたくさん抱え、大規模な農家の少ない地域である。
総じて、農地の集積が進む平場の水田地帯と、農地が耕作放棄される西日本の中山間地というふうに、二極化が進んでいる。

面積の増減

経営耕地面積の増減率(資料提供:橋詰登)

拡大する地域間格差

地域農業の「最後の砦」と位置づけられる集落営農組織には、危機に瀕(ひん)しているところも少なくない。新たな設立がある一方で、後継者の不在や構成員の高齢化などを理由に、解散や廃止が相次ぐ。

集落営農組織の数は、2017年の1万5136をピークに減少に転じた。2023年の調査までの1年間に解散、廃止に至った数は、310にのぼる。

集落営農組織が頭打ちとなり、農地集積のあり方に変化をもたらしていると橋詰さんは話す。2015年センサスまでは、集落営農組織が農地を集積して面積を増やすことが主流だった。

「2020年センサスでは、集落営農組織も面積を増やしているけれども、スピードが相当鈍化している。新しく集落営農組織を作ってそこが農地の受け手になる動きが弱まり、既存の組織でも高齢化がかなり進んで、これ以上の農地を受け入れる力がなくなってきている」

それに代わって、20ヘクタールを超えるような規模の家族経営体が農地を引き受ける地域が出てきた。典型的なのは愛知をはじめとする東海。
「20ヘクタール以上の層のこの5年間の動きをみると、家族経営体の方が集落営農組織を含む組織経営体よりも面積を増やしているんですよ」(橋詰さん)

これまで集落営農組織によってなんとか農地を集積していたのが、集落営農組織と大規模な家族経営体で農地を引き受けるという方向へ変化している。
そうなると、今後も農地の集積を進めるには、受け手となる家族経営体の有無が大事になる。

「大規模な家族経営体は、いるところといないところの地域差が、集落営農組織以上に大きい。それもあって、地域差はますます拡大していく」。橋詰さんは将来をこう予測する。

農林業センサスは2015年を最後に耕作放棄地の統計をとるのをやめてしまった。そのため、耕作放棄地がどのくらい増えたかを把握することはできない。経営耕地面積は全国平均で6.3%減っているので、「条件不利地域では、かなりの農地が耕作放棄されただろう」と橋詰さんはみている。

この傾向は加速するはずだ。「今後、受け手のない農地が大量に出てくるとなると、そのかなりの部分は耕作放棄されてしまうでしょう。それは、条件の不利な中山間地を多く抱える地域、県になる可能性が高い」(橋詰さん)

農地の減少が落ち着いてきた山陰

ところで、農地の減少率の上位3位から、条件不利地の代表格である地域ブロックが漏れていることにお気づきだろうか。鳥取、島根の山陰だ。その農地の減少率は10%。隣接する山陽より3ポイント以上低い。

これには島根で集落営農の組織づくりが盛んなことも影響しているが、橋詰さんによると「本当に条件の悪い農地は、20年くらい前にすでに耕作放棄されてしまっている」ことが大きい。

農水省は統計をとるうえで、地域の特性を区分する「農業地域類型」を設けている。このうち条件不利地に当たる区分に「中間農業地域」と「山間農業地域」の二つがある。山間農業地域は、林野率80%以上かつ耕地率10%未満と定義される山あいの地域をいう。中間農業地域は、都市でも平地でもなく、山間にも当たらない、平地と山間の中間に位置する地域である。

「2020年センサスで農地面積が一番減少しているのは、中間農業地域です。山間農業地域ではありません」(橋詰さん)

山陰は山間農業地域の割合が高い。条件の不利さゆえに、農地の減少が先んじて進み、下げ止まっている。

農地の減少率で山陰を上回るのが、10.3%である東海だ。「岐阜や三重の中山間地で結構面積が減ってきてるのではないか」と橋詰さん。

同じブロックに属していても、各県の集積の仕方は異なる。愛知県は、20ヘクタールを超える大規模な家族経営体が農地を集積している。かたや岐阜で集積を担うのは集落営農組織だ。
「三重はその中間で、大規模な家族経営体と集落営農組織が補完し合いながら農地を集積している。そういうふうに県によってずいぶん特色が違う」(橋詰さん)

集積進まぬ果樹産地・山梨、和歌山、愛媛

「中間農業地域には結構果樹が多い。樹園地の減少率は、田畑と比べて断トツで高くなっています。農家の高齢化と離農にともなって、廃園になるところがかなり出ている」

こう橋詰さんが解説するとおり、農地の減少率が全国平均で6.3%なのに対し、樹園地は15.6%。田の8.3%、畑の2.1%を大きく引き離す。

果樹栽培の盛んな地域では、農地の集積が進みにくい。労働集約的であるだけに、規模を広げるにも限界がある。

稲作だと、数ヘクタールしか耕作していなかった農家が周辺の離農に伴って一挙に20ヘクタール前後まで規模を拡大することもあり得る。

「水田地帯だと比較的大規模化が進みやすい。それに対して、果樹産地と都市近郊の都道府県では、大規模な経営体への農地集積が進みません」(橋詰さん)

山梨、和歌山、愛媛といった果樹産地、東京、神奈川、大阪といった都市圏では農地を集積する動きが鈍い。

都市近郊で集積が進まないのは、収穫後の傷みが早いホウレンソウや小松菜といった軟弱野菜を施設で栽培する経営が多いから。栽培に手間がかかるだけに面積を広げにくい。さらに都市部は農地を宅地として開発する圧力が強く、農地が高いことも影響している。

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