旬とは
野菜の旬とは、その野菜の味が最もよい食べごろの時期で、栄養価も高くなります。収穫がピークを迎え、スーパーや直売所などに出回る量も多くなり、安い価格でおいしく栄養価の高い野菜を手に入れることができます。
実は、旬のなかにはさらに三つの時期があります。「走り」「盛り」「名残」へと推移し、時期を追って食味が変わっていきます。走りの野菜は、みずみずしくフレッシュで、水分を生かした調理法や生食がおすすめ。盛りは、最も食味のよい状態で、どんな調理法でもおいしく食べられ、レシピの幅も広がります。名残は、水分が抜けて味が凝縮されるので、加熱調理に向いています。
季節の変わり目の9月は、夏野菜と秋の味覚が同時に味わえる時期です。旬の野菜には人間に必要な栄養も含まれています。走り、盛り、名残の野菜を知ることで、毎日の食事がより豊かに、季節のうつろいを感じられるものになるでしょう。
9月が「走り」の野菜
夏に収穫されたサツマイモが店頭に並び、初堀りのサトイモやレンコンも出回りはじめます。秋の味覚として食されている根菜類を一足早く楽しみましょう。
サツマイモ
サツマイモの収穫期は夏から11月頃まで。貯蔵して、ある程度水分を蒸発させて出荷されるため、年明け3月頃まで店頭に並びます。品種にもよりますが、夏に収穫される走りのサツマイモは甘みがすっきりしているので、炒め物、煮物、汁物など、おかず系の食材に向いています。食物繊維とビタミンCを多く含み、美容によいといわれています。サツマイモは寒さに弱いので、保存は新聞紙に包んで冷暗所に。使いかけはラップに包んで冷蔵庫の野菜室に入れます。
調理例:サツマイモの甘辛炒め、サツマイモのみそ汁、サツマイモご飯
サトイモ
8月から9月にかけて収穫される早生(わせ)品種のサトイモが新サトイモとして出回ります。品種にもよりますが、新サトイモは水分が多いので柔らかく淡泊な味わい。小ぶりのものが多いので、煮物、汁物、洋風のスープに丸ごと使えます。イモ類の中でも低カロリーで、粘り成分の水溶性食物繊維が胃や腸の働きを助けます。
寒さと乾燥に弱いのでキッチンペーパーで包んで常温で保存します。
調理例:イモ煮、サトイモの煮っころがし、サトイモのポタージュ
レンコン
レンコンの収穫期は7月から3月までと長く、なかでも初夏から秋にかけて出回る新レンコンは、みずみずしく白く透明感があり、柔らかくあっさりとした味わい。生食できるのでサラダやマリネにも適しています。酢水につけてアクを抜き、さっとゆでて下ごしらえをするとより食べやすくなります。ビタミンCが豊富なので夏の疲労回復にも。日持ちがしないので、保存する場合はカットされたものはラップに包み、節のあるものは濡らしたキッチンペーパーに包んでビニール袋に入れ、野菜室で最長3日が目安。
調理例:新レンコンの梅肉あえ、ピクルス、おひたし
9月が「盛り」の野菜
秋ミョウガや秋ナスが最盛期。夏に収穫されたカボチャも出回ります。ラッカセイの収穫期にあたり、掘りたての生が食べられるのはこの時期だけ。盛りの野菜が食卓を秋色に彩ってくれます。
ミョウガ
日本以外で栽培している国はほぼなく、日本特有の香辛野菜といえます。6月から8月の夏ミョウガは小ぶりなのに対して、8月から10月の秋ミョウガは大きく色が鮮やか。薬味として使われることが多いミョウガですが、旬のものは天ぷらや焼きものにも適しています。香り成分のアルファピネンには、食欲増進、消化促進、血行促進などの効果があり、夏バテ回復にも一役買ってくれます。
保存は、湿らせたキッチンペーパーに包むか、水を張った保存容器に入れて冷蔵庫へ。
調理例:ミョウガと季節野菜のかきあげ、焼ミョウガ、ミョウガのベーコン巻き
ナス
ナスは夏野菜の一つですが、9月から10月ごろに収穫されるものを秋ナスといい、この時期になると日差しが和らぐため皮が柔らかくなり、昼夜の寒暖差で実が締まります。「秋ナスは嫁に食わすな」ということわざは、おいしさのあまり食べさせないといういじわる、体を冷やす野菜なので嫁の体を気遣ってのこと、というの二つの解釈があります。焼く、煮る、揚げる、炒める、いろいろな調理法に適し、和洋中のおかずになります。
乾燥しやすいので、保存はラップに包んで冷蔵庫へ。
調理例:麻婆ナス、ナスの焼きびたし、ナスのはさみ焼き
カボチャ
収穫期は夏から秋にかけて。貯蔵して翌年春まで食べられています。旬のカボチャは水分が多く、ねっとりとして甘さは控えめ。柔らかいのでカットしやすく、さまざまな料理で楽しめるのが特徴。生食できるサラダ用の品種もあります。カボチャの栄養価の高さは緑黄色野菜でもトップクラス。カロテンが豊富で、ビタミンC、B1、B2、E、カルシウム、鉄などが含まれています。カロテンは免疫力を高める効果が期待できます。保存は、丸のままなら冷暗所で2カ月。カットした場合は、ラップに包んで保存します。
調理例:カボチャのサラダ、カボチャのグラタン、カボチャと豚肉の炒め物
ラッカセイ(落花生)
ラッカセイは木の実ではありませんが、殻が固いのでピーナッツと呼ばれています。乾燥させていった落花生は通年販売されていますが、畑で採れたての生のラッカセイが出回るのは、8月下旬から9月中旬の短期間。ゆでラッカセイはまさに旬の味覚です。作り方は、水を張った鍋に殻ごと洗ったラッカセイと一つまみの塩を入れて強火にかけ、沸騰してから弱火で30〜40分ゆでてザルにあけて冷まします。料理の食材としてもアレンジできます。
調理例:鶏肉とゆでラッカセイのオイスター炒め、ゆで生ラッカセイのピーナッツみそ
9月が「名残」の野菜
夏野菜のシーズンが終わりに近づきますが、暑さでバテ気味の9月。ねばねば野菜のオクラとモロヘイヤ、ゴーヤ、枝豆などで残暑を乗り切るための栄養をプラスできます。
オクラ
収穫時期は7月から9月まで。アフリカ大陸が原産です。食欲をそそる独特のねばりは、水溶性食物繊維の一種であるペクチンなどによるもの。ペクチンには、腸内の善玉菌を増やして血中コレステロールを減らし血圧を下げる働きがあります。名残のオクラは、水分が少ないため固く締まり、味は濃くなります。生食よりも、焼く、煮る、炒めるなどの加熱調理がおすすめです。
オクラは足がはやいので、保存はビニール袋に入れて冷蔵庫の野菜室に入れ、2~3日で食べきりましょう。
調理例:オクラとナスの焼きびたし、オクラと卵のスープ、オクラのバターしょうゆ炒め
ゴーヤ(にがうり)
ゴーヤはにがうりの沖縄での呼び方。古くから沖縄で食べられてきた野菜です。収穫期は6月から9月まで。苦み成分のモモルデシンが胃液の分泌を促進して食欲を増進させる効果があります。ビタミンC、カルシウム、マグネシウムも豊富で、夏バテ解消にもってこい。ゴーヤのビタミンCは加熱しても壊れにくいので炒めものや揚げ物に向いています。
乾燥に弱いので、保存はビニール袋に入れて冷蔵庫へ。
調理例:ゴーヤとふの炒め物(イリチー)、ゴーヤの素揚げ
モロヘイヤ
モロヘイヤの収穫期は4月から8月をピークに10月まで。主産地は中近東やアフリカで、アラビア語で「大家の野菜」を意味します。鉄、カルシウム、ビタミンB群など、日本人に不足しがちなミネラルが豊富に含まれています。エジプトでは葉を細かく刻んだスープが伝統的な家庭料理です。刻むと出るねばり成分は、糖の吸収を送らせて血糖値の上昇を抑える働きがあるとされています。ねばり成分を生かしてスープやおひたしに。
乾燥しやすいので、湿らせたキッチンペーパーで包んでビニール袋に入れて冷蔵庫で保存します。
調理例:モロヘイヤのスープ、モロヘイヤカレー、モロヘイヤのおひたし
エダマメ
収穫期は7月から9月上旬ごろ。エダマメは大豆を未成熟なうちに収穫したものです。畑の肉と呼ばれる大豆と同様にタンパク質が豊富で、大豆にはないビタミンCも含んでいます。名残の枝豆は味が濃いので、ゆでてはもちろん、すり潰してぬた(ずんだ)にしたり、フライパンで香ばしく焼いてもおいしく楽しめます。
乾燥しやすく湿気に弱いので、保存は新聞紙やキッチンペーパーに包んでビニール袋に入れて冷蔵庫に。鮮度が命なのでできるだけ早く食べきりましょう。
調理例:焼きエダマメ、野菜のぬたあえ、エダマメのかきあげ
まとめ
秋といってもまだ残暑が厳しい9月。名残の野菜で夏バテ回復、おいしさと栄養を増した盛りの野菜をたくさんとって、走りの野菜で秋の味覚を先取り。走り、盛り、名残の野菜を組み合わせれば、色どりがよく栄養バランスのとれた一品に。旬の野菜を中心とした献立で、お財布にやさしく、毎日の食事が整います。旬は日本語独特の表現で、自然風土に根差しています。国産の野菜で旬の食卓を楽しみましょう。
参考書籍
からだにおいしい野菜の便利帳(板木利隆監修|髙橋書店発行)
草土花図鑑シリーズ4 野菜+果物(芦澤正和、内田正宏、小崎格監修|草土出版発行)