まずは知っておこう。日本の主なカラスとその特徴
日本にはさまざまな種類のカラスがいますが、みなさんが頻繁に目にするのはハシブトガラスとハシボソガラスの2種類で、これらが農作物に被害を及ぼしています。どちらも留鳥(りゅうちょう)といって国内に一年中とどまっているカラスで、渡り鳥のように国外に行くことはありません。
カラスの行動の特徴
よく目にするカラスですが、2羽で仲良く電柱にとまっていることもあれば、集まって群れをなしていることもあると思います。カラスは季節によって集団行動をしたり、つがいで行動をしたりします。年間の行動は下記の通りです。
・春~初夏:繁殖期でその間はつがいもしくは家族で行動
・夏~初秋:巣立った幼鳥と群れで行動するようになる
・秋~冬:大きな群れで行動することが多くなる
被害対策に役立ちそうなカラスの特徴
・視覚:人より優れている。本能的に嫌う色はない。情報の大部分を視覚に頼って行動する
・聴覚:人よりもやや劣る。超音波は聞こえない
・学習能力:とても高い。ハンターの姿も覚える。単純な脅しはすぐに見抜いてしまう
・食性:雑食性で動物の死体、他の鳥のヒナや卵、昆虫、果実や野菜、種子などを食べる
ハシブトガラスとハシボソガラスの違い
カラスの対策を効果的に行うためには、ハシブトガラスとハシボソガラスが見分けられるとよいでしょう。なぜなら、この2種類のカラスは習性が違うからです。
下記に見分け方のポイントを表にしてみました。一番のポイントはクチバシと額の形です。行動や生息場所、食性はあくまでも傾向だと思ってください。
ハシブトガラス | ハシボソガラス | |
見た目 | くちばしが太く、湾曲している 体長は約56センチ 額のふくらみが大きい |
くちばしが細く、まっすぐ 体長は約50センチ 額がなだらか |
生息場所 | 茂った森林地の周縁部、都市部 | 樹木がまばらな明るい林近くにある草原・農耕地・河原 |
鳴き声 | カアカアと澄んだ鳴き声 | ガアガアと濁った鳴き声 |
行動 | 脚での移動は飛び跳ねることが多い、樹上にいることが多い | 脚での移動は歩行が多い、よく地上に降りる |
食性 | 雑食 ※好むもの:樹木の種子、肉類 | 雑食 ※好むもの:農作物、コガネムシなどの昆虫 |
※ 参考:環境省「カラス対策マニュアル」
行動からして「あれはハシブトガラスかな?」と思ってよく見たらハシボソガラスだったりすることもあります。2種類がいっしょにいたりすることもあります。
ちなみに、あるテレビ番組に出ているカラスのキョエちゃんは形はハシブトに似ていますが、クチバシが黄色いので違う種類かもしれませんね。
被害防止のための具体的対策
カラスの農業被害対策のポイントは3つあります。
①カラスを引き寄せない環境づくり
②カラスを侵入させない農園づくり
③カラスの生息密度を減らす
それぞれの対策について段階的に説明をしていきます。
カラスを引き寄せない環境づくり
まずは地域の“エサ場”を減らすことが根本的な解決策です。
カラスは食いだめができないため、3日から1週間程度何も食べなければ餓死してしまいます。そのため、効率的にエサを食べられるエリアを好みます。
畑にカラスを寄せ付けないために、まずは「カラスのエサ」となるクズ果実やクズ野菜などを処分することから始めましょう。処分方法は、「埋める」がベストな方法です。その他、シートを被せておく、潰して早く腐らせるなどの方法もあります。
こうした対策は地域ぐるみでの取り組みが必要です。エリア全体のエサの量が減らないと、いつまでたってもそのエリアはカラスにとって効率的にエサが確保できる場所となってしまいます。地域の人たちと協力して人為的な「カラスのエサ」の撤廃をすることが必要です。
ちなみに、カラスの生息数が多い理由はこの人間が作ったエサ場にあると言われています。通常はエサが少ない冬の時期は死亡率が高くなるのですが、人が無意識につくるエサ場によって死ぬ個体が少なくなっているとされています。
カラスを侵入させない農園づくり
とはいっても、農園ではおいしい野菜や果実を育てるわけですから、賢いカラスは収穫時期にやってきます。その場合はカラスが農園に侵入しないように対策する必要があります。
確実な防止策
当たり前かもしれませんが、農園全体に網を張り巡らせて物理的に守る方法が最も効果的。コストはかかりますが、確実な方法です。網目は10センチ以下のものを使い、地面や止まり木の近くなど、羽根をたたんで歩いて侵入されそうな場所は特に細かい網目を利用するようにしましょう。
網を張り巡らすには不向きな傾斜地であったり、コストが見合わなかったりするようであれば、テグスを利用して飛来を阻害する方法があります。飛来してくる方角を中心に張り巡らすことがポイントです。
鳥取県鳥取市福部町の梨農園の実例では、黄色などの見えるテグスを張り巡らすよりも、透明なテグスを張る方が効果があったそう。見えないものに引っかかるのでより警戒するようです。また、規則的にテグスを張るよりも、高さや方向をランダムに張る方が効果的です。
期間限定の防止でよい場合
収穫前の時期だけなど2~3週間の対策でよい場合は、音や光などで追い払う方法でも効果があります。爆音機やロケット花火で驚かす、カカシ、カラスの死体や模型、防鳥テープ、目玉模型、ビニール片や金属プレートなどを設置するといった方法があります。
ただし、カラスは学習能力が高いため、これらの方法はしばらくすると慣れてしまい、被害を完全に防ぐことはできません。
ロケット花火を利用する際は注意が必要
野生鳥獣追い払いのためにロケット花火を利用する際、打ち上げる方向によっては人身事故や火災につながる危険性があるので、安全に十分留意する必要があります。
さらに火薬類取締法上の注意すべきポイントが2点あります。
まず1点目は、使用に際して都道府県知事の許可が必要な場合があるということです。火薬または爆薬10グラム以下のロケット花火の場合、1日に201個以上使用するときは、使用する都道府県に申請して許可を得ましょう。200個以下の場合は許可は不要です。
2点目は、使用にあたって事故などを避けるために安全対策する義務があるということです。消火用水を備えることや、あらかじめ定めた危険区域内に関係者以外立ち入らないようにすること、風向きを考慮して上方その他の安全な方向に打ち上げることなどの決まりを順守する必要があります。
いずれも知らなかったでは済まされないので、十分注意しましょう。
カラスの生息密度を減らす
カラスの場合、捕獲は根本的な解決にはなりません。カラスは空を自由に飛んで移動できるため、いくら捕獲しても別のエリアから別の個体がすぐ飛来してきます。また、捕獲できるカラスは、自然界でも死亡率が高い若鳥がほとんどです。あくまでも生息密度を減らす一時的な手段として利用するのがよいでしょう。
捕獲の手段には猟銃と箱わながあります。
銃による捕獲とその撃退効果
猟友会などのハンターに銃での捕獲をお願いする方がより効果的です。
実は銃でのカラスの捕獲は効率がとても悪いです。銃が使用できる場所が限られている上に、事故が起こらないように慎重に活動しなければいけないからです。
しかしながら「銃で仲間が撃たれた、ここは危ない」とカラスに学習させる追い払い効果があります。この活動を行うことで、農家によるロケット花火での追い払いや爆音機、ハンターベストを着たカカシの設置などの他の対策も、より効き目が表れるようになります。
元筑波大学准教授の藤岡正博(ふじおか・まさひろ)さんが、捕獲方法の違いによるカラスの人に対する警戒の程度を調査したところ、箱わなによってカラスを捕獲している地域よりも、銃による捕獲を行っている地域のほうが、よりカラスへの威嚇効果が高いことがわかったと報告されています。
最も捕獲効率がよいのは箱わな
捕獲は、大型の箱わなが一番効率よくできます。エサやおとりのカラスによって誘引して捕獲します。その場合、有害鳥獣捕獲の許可が必要なので、捕獲をする地域の自治体に申請し、許可をとって行いましょう。許可をもらう前提として狩猟免許(わな)を求められることもありますので、事前に自治体に相談してください。
気をつけなければならないのが、わなの狩猟免許を持つ人による狩猟期間中の捕獲です。わなの狩猟免許があっても、わなで鳥類を捕獲することはできません。わなで鳥類を捕獲するためには有害鳥獣捕獲の許可が必要です。
箱わなの種類
カラスの捕獲用箱わなは、自作する人が多いようですが、最近では販売しているメーカーもあります。何社か値段を問い合わせてみたところ、市販のカラス用の箱わなは20万円以上はするとのことでした。自作はどんな大きさでどんな素材を使うかで大きく異なります。10万円くらいかかったという人もいれば、不要になったテントの枠組みを利用して作製費を3万円弱に抑えている自治体もありました。
筆者は中型動物捕獲用の箱わなでカラスを3羽、イノシシ用の箱わなで2羽捕獲したことはありますが、これは偶然が重ならないと無理だなといった実感があります。カラスの特性を利用して捕獲できるように設計されたカラス専用の箱わなを用意した方がよさそうです。
大きさですが、鳥取県の資料「第1回カラス被害対策セミナー『カラスの学校』」によると、カラスの箱わなは大きいほどよいという結果が出ているようです。縦2メートル、横3メートル、高さ2.5メートルの箱わなで捕獲数が97羽だったのに対し、縦4メートル、横4メートル、高さ3.5メートルの箱わなでは329羽捕獲できたという実績があります。
箱わなの設置場所
設置の場所には注意が必要です。カラスによる被害が出ている場所に設置しないようにしましょう。捕獲わなにカラスが誘引されるため被害を拡大する恐れがあります。
カラスのねぐらと被害が発生している場所の間、つまりエサを食べにくる途中にある土地に箱わなを設置するとよいです。設置前に、カラスがどこから飛んで被害発生地にやってくるかを確認しておきましょう。
カラスの誘引方法
箱わなへの誘引方法ですが、大きく分けて2つあります。
カラスの好きなエサを入れて誘引する方法と、おとりとなるカラスやデコイ(狩猟のとき、おとりとして使う鳥の模型)を入れておく方法です。おとりのカラスは誘引の効果が非常に高いですが、なかなか入手できるものではありません。まずはエサで誘引することから始めましょう。
エサはシカの肉など赤身肉を入れる人もいれば、ドッグフードを入れる、ナシなどの果実を入れるという人もいます。地域によって好みも異なる可能性があるので、いろいろなエサを試してみましょう。
2~3羽が箱わなに入れば、それが「おとりのカラス」となります。そのカラスにつられて他のカラスが箱わなに入ってきます。おとりカラスを生かしてどんどん捕獲していきましょう。
ただし、カラスは清潔なエサや水がないと生きられません。こまめにエサや水を交換することを心がけましょう。また、途中で死んでしまうカラスがいたり、羽根などが散乱していたりすると、外のカラスが警戒して中に入ろうとしなくなります。わなの中をなるべくきれいに掃除をすることも効率的な捕獲のポイントとなります。おとりのカラスが多すぎるとメンテナンスも大変なので、箱わな内のカラスが10羽以上になったら、それを超えるカラスを処分していきましょう。
カラスの処分方法
カラスは捕獲者が箱わなの中に入って捕獲します。逃げないようにタイミングを見計らって扉を開けて中に入りましょう。
カラスにくちばしでつつかれたりするので、ヘルメットをかぶり、厚い手袋を装着するとよいです。
カラスは手でつかんで捕獲する人もいれば、網で捕獲する人もいます。自分の技量によって工夫するとよいでしょう。殺処分する場合は、首の骨を折るなどの方法で、なるべく苦痛を与えないよう速やかに行いましょう。
カラスの処分方法は自治体の指示に従ってください。自分で埋設するか、自治体の処分場に持っていくことが多いです。
錯誤捕獲に注意
錯誤捕獲とは、誤って許可を得ていない獲物を捕獲してしまうことです。この場合、すぐに逃がさないと違法になってしまいます。
カラスの箱わなには、トンビなどがエサにつられて入ることがあります。さらにそのトンビがカラスを食べてしまうようなことも……。
箱わなは毎日チェックをし、万が一、カラス以外の鳥獣が入ってしまった場合は速やかに逃がしましょう。
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以上、カラスの被害対策でした。獣の被害対策と異なり、「捕獲はあまり効果的ではないこと」や「防鳥ネットやテグスなどで物理的に農作物を守ることがベスト!」ということを覚えておきましょう。
被害に遭うととても憎たらしいカラスですが、よく見ると、とても可愛らしい鳥です。上手に人間と付き合っていけるよう、まずはカラスを寄せ付けない対策から心がけてください。