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花きからアスパラへ事業転換。壁を突破する視点をくれた「担い手コンサル」の存在

花きからアスパラへ事業転換。壁を突破する視点をくれた「担い手コンサル」の存在

生産規模を拡大する中でぶつかる売り上げの壁。この先の事業をどうしていくか、課題をどう対処していくか、経営者は意思決定とかじ取りを迫られます。花きからアスパラガス栽培へ事業を転換し、規模拡大し続けるアスパラマル株式会社の吉見雅史(よしみ・まさし)さんも、売り上げの壁にぶち当たった悩み多き経営者の1人でした。突破口をつかんだ背景には、データの利活用と、これをサポートしてくれた心強い伴走者の存在がありました。

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アスパラガスへの事業転換で家族経営から農業法人へ

アスパラマル株式会社は社名から連想されるとおり、アスパラガスの生産・販売を主な事業とする農業法人です。長野県長和町(ながわまち)の高原地帯で春どり、夏どりのアスパラガスやコメ、大豆を生産しています。代表取締役の吉見雅史さんは、東京の大学を卒業後に地元へ戻り、福祉施設の総務部門で10年勤めたのち、31歳の時に家業である花き農家に就農しました。

吉見雅史さん

「喜ぶだろうと思った両親はこぞって反対、妻には事後報告して怒られました」と笑う吉見さん。30アールほどの畑でシンテッポウユリを栽培していた就農当時は、農業経験がなかったために、およそ3年間は家業で手一杯の生活だったと、当時を回顧します。

転機は34歳の時。PALネットながの(長野県農業青年クラブ)に加盟した吉見さんは、「自分よりも若い世代が農業に将来性を感じて世の中に発信していることに刺激を受けた」と言います。折しも、冠婚葬祭用のシンテッポウユリの需要に陰りが見え、事業転換を図る必要性を感じていた時でした。

人を雇える環境を作るため、法人化を視野に入れた吉見さんは、中山間地の限られた圃場面積でも反収が期待できるアスパラガスに目を付け、2010年に事業転換を決意。花きのハウスを再利用して10アールで栽培を開始しました。シンテッポウユリとは凍霜害対策や土づくりなどのノウハウに共通性があり、資材も流用できたため、アスパラガス栽培は出だしから順調。当時、販売に苦労していたコメとは対照的に市場評価が高く、作れば作るほど売れていったと振り返ります。

アスパラガス

事業転換から5年後の2015年には法人化を果たし、2017年には新卒社員2人を雇用しました。現在、従業員は正社員4人とパート約20人を抱え、圃場面積はアスパラガスで2.5ヘクタール、コメは就農当時の3倍以上に上る32ヘクタールまで規模を拡大しています。
2020年には事業の強化を図るため、選果場兼出荷施設を建設し、最新のアスパラガス画像処理選別システムを導入。同年春に稼働を開始しました。

伸び悩み解決のカギは、データの利活用による経営の見える化にあった

一方、生産規模が大きくなるにつれて、徐々に課題も顕在化してきたと吉見さんは話します。象徴的だったのが、売り上げの伸び悩みです。

「面積を拡大して収量を増やせば、販売先も増えて売り上げが増えるという単純な方程式が崩れ始め、どうやって立て直せばいいのか悩んでいました」(吉見さん)。当時はコロナ禍で、主要販路である飲食店への売り上げが落ち込んだこともあり、栽培規模が広がる一方で、業績は横ばい。そんな悩みを抱えていた時、以前より取引のあったJA長野県信連からの提案を受け、2022年1~3月の約3カ月間に渡り「担い手コンサルティング」(以下、担い手コンサル)を導入しました。

担い手コンサルとは、JAバンクが2021年に開始した取り組みです。JAグループの一員である、JA、都道府県信用農業協同組合連合会(信連)、農林中央金庫などのメンバーが農業法人や個人農家に対して経営課題のヒアリングや各種分析を行い、課題の見える化をしたうえで、課題解決に向けた改善策の提案を行う約3カ月間のプロジェクトになります。

アスパラマルのプロジェクトでは複数の検討テーマを議論しましたが、課題の根幹にはいずれも、データの利活用があったといいます。例えば、これまでは選果場兼集出荷場に導入した機械で圃場全体の収量(本数)を算出していましたが、アスパラガスだけでも圃場は13カ所にもわたるため、これではどの圃場でどのサイズのアスパラガスが栽培されたかが見えず、生育が思わしくない場合も原因の特定が難しい側面がありました。

まずは、このデータの取り方から見直す必要があると担い手コンサル実践チームから助言を受け、現在は圃場別に1日あたりの収量を、サイズを10段階に分けて取り、その推移を見ています。「これまで肌感覚だった収穫の最盛期をデータに基づき予測し、売り先に販促をかけ人員を確保することで、課題の一つだったピーク時の売り損じを減らすことができました」

担い手コンサルの成果を語る吉見さん

「同時に、衝撃的な事実も明らかになりました」と、吉見さんは言葉を続けます。産地として4~9月までの半年間にわたって収穫・販売できることが強みだと思っていたところ、春どりの4~6月は単価が高く需要もある一方で、夏どりの7~9月は別の作物を検討してもいいほどの赤字を計上していたことが明らかになったのです。

さらに意外だったのは、吉見さんが収益の足を引っ張っていると見ていたコメづくりが、効率的な機械化によって黒字化できていたことです。「実はバランスのいい経営ができていたことが分かったのは明るい材料。今後の経営判断にも、データの活用は有用でした」と、吉見さんはここまでの成果を語ってくれました。

農業経営を俯瞰(ふかん)してくれる、心強い伴走者

吉見さんが担い手コンサルに期待したことは、生産や販売の数値的な改善だけではありません。自分と同じ目線で自社の経営状況を話し合える人材を育てるきっかけにしたいと考えていました。そこで、妻の美香(みか)さんをプロジェクトのメンバーに入れ、月数回行われる定例会を通して経営課題を共有してきました。

美香さん(右)

このほか、データ分析は従業員の意識合わせにも生かされています。例えば、それまで目視と感覚で決めていた収穫の打ち止めを、毎日の収量とサイズの内訳を圃場ごとに細分化したデータで示すことで、社員が納得感を持って対応できるようになりました。吉見さんは、将来的に圃場管理をマニュアル化することで、人材の育成にも活用できると見ています。

創業から一人で走ってきた吉見さんにとって、第三者の目線で自社と自社の商品を評価してもらいながら、細かな課題を見つけ出せたことは大きな収穫でした。プロジェクトの開始から1年半がたった今も、JA長野県信連の担当者は、金融面だけではなく経営面も含めた良き相談相手となり、意見交換をしながら課題解決のフォローにあたっています。

吉見さんと二人三脚で、経営課題の解決に奔走するJA長野県信連の担当者

「会社として今後どうしていくのかは、正直なところまだ悩んでいます。第三者にデータに基づいて助言をもらうことの大切さがわかり、同時に課題解決のスキームを学ばせてもらったことが、今後の経営に生かされると思います」と吉見さん。創業時に打ち立てた「100年先まで続く企業」という理念のもと、次の時代に向けたアスパラマルの組織作りが社員とともに進められています。

取材協力

アスパラマル株式会社
長野県小県郡長和町古町上立岩967-1
http://www.asparamaru.co.jp/

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