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需要を先読みし、新規就農から一躍トップランナーに。食卓になじみのなかった時代にパプリカ栽培を始めたワケ

需要を先読みし、新規就農から一躍トップランナーに。食卓になじみのなかった時代にパプリカ栽培を始めたワケ

食事に彩りを与えてくれるパプリカ。近年こそレストランやスーパーなどで目にする機会も多くなってきましたが、国内における栽培の歴史は浅く、2000年に入るまでは生産者や消費者のほとんどに認知されていない野菜でした。そんな中、同年から先進的にパプリカ栽培に取り組んできたのが株式会社Tedyです。代表の林俊秀(はやし・としひで)さんに、パプリカに目を付けた理由やこれまでの歩みを聞きました。

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パプリカ栽培のトップランナー

茨城県水戸市で23年前から先進的にパプリカ栽培をしている株式会社Tedy。同社では樹上でギリギリまでパプリカを熟してから収穫し、その翌日には消費地に届けるようにしています。そのため、消費地に届くまでに日数がかかることから熟す前に収穫されることが多い輸入品に比べ、甘く鮮度が良いことが特徴です。

株式会社Tedyの赤パプリカ

同社の販売するパプリカの強みは、味と鮮度だけではありません。2022年8月には最新鋭の統合環境制御型グリーンハウスを導入し、3.3ヘクタールの栽培面積で年間470トンもの生産を実現しました。今後、栽培技術を突き詰めることで年間の生産量は500トン以上を見込めるといいます。

株式会社Tedyが建てた最新鋭のハウス

憧れだった農業への歩み

農業を始めて23年目を迎える林さんは元々、学生時代から農家を志していたといいます。大学卒業後に新規就農を検討していましたが、当時は「安定した職業について欲しい」と母親からの猛反発にあい断念。茨城県経済農業協同組合連合会(茨城県経済連)に就職しました。しかし、就職後も農業をしたいという思いは捨てられず、働きながらも農地を探していたといいます。

インタビュー時の林さん

働き始めてから15年後、37歳を迎えるタイミングでバラなど花きを栽培していた温室を譲りたいという声が近隣の農家から上がり、これはチャンスだと農家になる事を決断しました。

栽培品目に選んだのは、1990年代にオランダから輸入が開始されるまでは国内で全くといっていいほど知られていなかったパプリカ。国内での知名度はほとんどなかった反面、アメリカやヨーロッパでは、ピーマンは知られておらず、スーパーをのぞけばパプリカしか売っていないというほどメジャーな食材でした。海外の流れは5年、10年遅れで日本に浸透していくといわれていることから、国内での今後の需要増を見据え、2000年から国内で先進的に栽培に取り掛かりました。

林さんの読みは的中。国内の生産量は2000年の約800トンが、2022年には約6700トンに。輸入量も2000年に約5900トンだったものが、2017年には約4万3000トンと、日本国内の消費量は伸びていったのです。

ただ、国内の生産量の増加よりも海外からの輸入の伸び幅が大きいことは予想外だったと、林さんは話します。1990年代はオランダからの輸入が主流でしたが、2000年になると韓国が国をあげてパプリカの栽培に力を入れ始めました。生産量の90%以上は日本への輸出というほど、韓国にとって外貨を手にする新しい産業として成り立っていったのです。それに伴い、キロあたり800円ほどあった国産パプリカの単価もキロあたり300円台へ急降下したといいます。

「パプリカ栽培を始めた途端に韓国からの輸入が始まったので、だいぶ苦労しました」(林さん)

出荷されるパプリカ

話を聞いている中で、輸入品は船などの利用で国産に比べて輸送費がかかるのに、なぜ国内での生産が増えず韓国からの輸入が多いのかという疑問が湧いてきました。パプリカから見る韓国の農業について聞いてみました。

パプリカ栽培からみる韓国の農業事情

2023年、韓国でのパプリカの生産量は約8万トン。10アールあたりの収量においては約25トンにも及びます。それに比べ、Tedyでは10アールあたり約20トンであることから、その栽培技術の高さがうかがえます。

なぜ韓国では、ここまでパプリカという産業が成長したのでしょうか。

韓国のパプリカ産業の成長

1990年代の韓国では、新しい産業を創出するためにハウスに補助金が大きく使われ、野菜や花きなどが栽培されていました。しかし、これといった品目は創出されず、空くハウスが増えていったといいます。その中で、日本で消費量が伸びており、更には空いたハウスを活用することができるパプリカが、韓国で輸出事業として採択されました。

日本にとっては、オランダ産よりも輸送距離が短く、鮮度が良い状態で仕入れることができるという側面のほか、輸入ロットが大きいので輸送コストも抑えられるため、韓国のパプリカが一気に売られるようになっていったといいます。

変わりつつある韓国のパプリカ

とはいえ、2000年代始めに日本への輸出が大半をしめていた韓国産パプリカも、近年は事情が変わりつつあるといいます。

現在、韓国国内でのパプリカの消費量が増加傾向にあり、生産量の約6割が国内で消費されるように変化しています。林さんによると、市場単価をみても、日本へ売るよりも韓国国内で売った方が単価が高くつくときもあるそうです。

また、日本へ出荷する際には規格が細かく決まっていることから選別の手間がかかります。それに比べて、韓国国内での販売は日本の規格ほどではないので手間が少ないといいます。

今後、日本国内で韓国産のパプリカが少なくなる日が来るかもしれません。

黄パプリカ栽培の様子

これからの国産パプリカの展望

韓国産パプリカの輸入量が減るということは、国産パプリカに勝機があると考える人も多いでしょう。しかし、現状は厳しいと林さんはいいます。

日本全国共通の問題でもありますが、燃料や肥料などの値上げ分を青果物に価格転換できないといった問題があります。その影響で、パプリカを作るコストが上がっているのに販売単価は変わらない。更には、価格の値下げ交渉をされるなどといった実情があるといいます。

その中でもパプリカ栽培を継続をさせていくために、さまざまな試行錯誤をしているといいます。まずはパプリカの収量の確保。現状の収量は10アールあたり約20トンですが、韓国と同様に10アールあたり約25トンを目指せるポテンシャルはあるといいます。そのために、最新鋭の統合環境制御型グリーンハウスを導入しました。もう一つが、新たな栽培品目の創出です。現在はパプリカ以外にもジャンボピーマンといった品目を栽培しているといいます。当然のことながら、日本国内ではパプリカよりもピーマンの消費量が多くなっています。その中で、冬など露地栽培できないタイミングでのピーマンの安定供給は需要があるといいます。

林さんはパプリカを始めて、この23年は試行錯誤の連続だったと語ります。これからも、世界トップクラスを目指し、挑戦は続きます。

取材協力

株式会社Tedy
Tedy – 安全・安心、美味しいパプリカ

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