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雑草で収益をあげるため、田舎のシニアが始めたメイドカフェならぬ「冥土カフェ」とは

雑草で収益をあげるため、田舎のシニアが始めたメイドカフェならぬ「冥土カフェ」とは

全国共通の課題である過疎地の高齢化。今回取材に訪れた熊本県天草市倉岳町棚底地域も、例外ではなくその一途をたどっている。それでも、決して下を向くことはなく、地域資源を活用した町ぐるみでの観光客誘致を積極的に行い、過疎地にもかかわらず観光客は増加傾向にあるという。驚くべきは、その地域資源が「雑草」という点だ。評判なのが、スタッフがほぼ後期高齢者というメイドカフェならぬ「冥土カフェ」。町内で採れた雑草を「野草」として振る舞うこのサロンには、連日多くの観光客が訪れ、リピーターも少なくない。現地に向かい、雑草を収益化する仕組みを聞いてみた。

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雑草じゃない。これは金になる野草

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天空の鳥居と称される倉岳神社

今回訪れた場所は、熊本県天草市倉岳町棚底。眼下には八代海が広がる、いわゆる漁師町であるが、ここで評判を得ているのが海産物ではなく雑草というから驚きだ。

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雑草ビジネスを手掛ける、倉岳メイドサロン代表の木崎眞美子(きざき・まみこ)さん

その謎を追うべく、雑草の収穫に向かう木崎さんに同行した。

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到着したその場所は、山菜採りをするような山の中ではない。この道端にある雑草を収穫し調理したものを「冥土カフェ」で提供しているのだそう。この「冥土カフェ」がどんな場所であるかは、後ほど触れていきたい。

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誰の目にも触れることがなかった植物たちは木崎さんの手にかかれば全てが価値あるものとして息を吹き返す。

「昔から草は好きだったんですよ。何が食べられるものでそうではないかっていうのはね。母がそういうのが好きな人だったのでよく食卓にもあがってました」と木崎さん。

予備知識はあったものの他者に提供するには間違いがあってはいけないので、そこから猛勉強をし資格を取得するまでになった。

「でも好きなことだから楽しいのよ。知識がつくだけでいつもの風景も変わって見える。田舎であればあるほど宝の山だから笑いが止まらないわ」と楽しそうに話し、次々と野草を収穫をしていく。

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自然の湧き水に自生しているのはクレソン

今まで単なる道にある雑草としか思っていなかったものが、実際には食べられる野草だと分かると不思議なもので、今まで見慣れた景色さえ変わってくる感覚を覚える。

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今が旬だという葛(くず)の花

近くによるとまるでブドウのような芳醇(ほうじゅん)な香りを放つ葛。地域の人によれば「やっかいもの」なんだそう。繁殖力が強くツタは空き家はもちろん野山まで覆い尽くすほどだ。

しかし、この葛の花も、少しの工夫でおいしいゼリーに早変わりするのだそう。花からどうやってゼリーに変わるのか皆目見当もつかなかったので、作っている過程を見せてもらうことにした。

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まずは、収穫した葛の花を平たい入れ物に並べ、虫などの異物を取り除く

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梅酒などを作る容器に3分の1程度、葛の花を入れる

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蓋(ふた)をするようなイメージで砂糖を投入。水を入れたら一週間ほど放置

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こうすることで、上記写真のような液体に変わっていくので、液体を鍋に入れて手作りゼリーができるもとを投入。混ぜて冷やし固めれば完成である。

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野草を取りにいった翌日には、予約が入っている冥土カフェのための下準備を行う。収穫した野草は水に浸しておくと鮮度が落ちないのだそう。

ヒントは秋葉原で見たメイドカフェ

こうして収穫した野草を提供している場所が「冥土カフェ」だ。「冥土に近い者がメイドイン天草の野草で冥土の土産(思い出)づくり」をするのがコンセプトで、高齢のスタッフが棚底の魅力を伝える。

発起人である、元天草市職員で現在「冥土カフェ」おもてなし係の通称「知ったかぶりの番頭」さんは「若者がいなくなり、過疎地になり町が寂しくなる。この現状をどうにかできないのか」と考えをめぐらせてきたという。何もかも若者頼りにするのではなく、年寄だからこそ出来ることは何かないのか―。打開策を講じている最中、たまたまテレビで見かけたのが、秋葉原にあるメイドカフェだった。

老いも若きも関係なく、楽しく食事やゲームに興じるその姿を見て「これだ!」と思いついたのだそう。

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発起人でありおもてなし係の「知ったかぶりの番頭」さん

ただそのまま同じものを持ってきたところで働き手がいない。まさか近所の主婦に「町を盛り上げるためにメイドの格好をして欲しい」などと言えるはずもなく悩んでいたところ、「メイド=冥土」のコンセプトを着想。これなら年寄りがする意味があると、2019年にオープンとなった。

提供メニューは町で採れた野草のコース一択。一択に絞ることで材料費も手間も簡略化できるためだ。その分コンセプトをしっかりと打ち出し、非日常感を演出する。

ただオープンするだけでは誰も知りようがない。どう告知するかと思案していたところ、国から補助金が出る雲仙天草国立公園事業で棚底が対象エリアに選ばれたと聞く。

元自治体職員である番頭さんは、ツアー場所を選定する協議会に参加し積極的に冥土カフェのPRを行った。そこで面白がってもらえたことで商機を得たのだ。

番頭さん:じゃ早速入ってみましょうか。いらっしゃいませ冥土カフェへ。

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番頭さん:はい! そこでストップよ! 敷地内に入るところに小さな側溝があるでしょ。そこがこの世とあの世の境界線です。心して入ってね。

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手をしっかりと合わせ、あの世にお邪魔することに。

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中に入るとすでに食事がセッティングされていた。野草の天ぷらをはじめ、野草のハンバーグ、クレソンの白あえや葛の花のゼリーなど多彩な内容だ。

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確かにこの内容であれば野草だと言われなくては分からないし、食べた後に説明を受けると驚きとともに「どうやって収穫を?」という話につながりやすいのではないだろうか。

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ちょっとしたゲームで場が盛り上がったところで楽しく食事をいただく。まさに手作りのアミューズメントパークといえるだろう。

草が町にもたらしたもの

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ここで働くスタッフの大半が75歳以上の後期高齢者である。そのため収益というよりも、やりがいが主な原動力となっていると語る。

完全予約制を採用することで準備やスケジュールの調整を行っているのだそう。この冥土カフェをきっかけに野草に興味を持つ人もおり、不定期ではあるが野草ツアーも開催をしている。

「この地域や野草に興味をもってくれる人が増えるための手段が冥土カフェなので、収益は重要ではありません。その分地域のお店でお金を使ってくださったり、野草ツアーを行うことでバランスをとっています」(木崎さん)

「若者がいなくなりここは年寄りばかり」という言葉を至るところで耳にする。しかしほんの少しのブラックジョークと心からのおもてなしは、まさに年齢を重ねた年寄りだからこそできることではないかと改めて感じた。

今では熊本県内はもちろんのこと、近県の福岡県などからも足を運ぶ人も増え、町には常に誰かの笑い声が聞こえるほどである。

アイディア次第では、雑草すら収益化と地域活性化の起爆剤に昇華させることができる。そんな事例に間近で触れることができた取材だった。

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