サルの特徴
対策するためには、まず相手を知ることが重要です。サルの生態や行動、能力などの特徴について知っておきましょう。
サルの寿命と繁殖能力
野生のサルの寿命は約20年と言われています。繁殖能力は栄養状態が良い環境下にあるかどうかでずいぶん違います。栄養があまり豊富でない山のサルに比べ、エサにありつける可能性が高い里のサルは、繁殖しやすいと言えます。
1回の妊娠で1頭出産し、双子はまれです。
山にいるサル (栄養がない場所) |
里にいるサル (栄養がある場所) |
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初産年齢 | 7~8歳程度 | 4~5歳程度 |
出産間隔 | 2~3年 | 毎年 |
幼獣の死亡率 | 30~50% | 20%以下 |
サルの行動の特徴
サルはほとんどが群れで生活します。群れの大きさは10頭のものもあれば100頭規模のものもありますが、個体数が多くなると分裂するのが特徴です。
群れは成熟したオスとメス、そしてその子供で構成されますが、群れで生まれたオスは4~5歳になると群れを離れます。
群れを離れたオスは別の群れに入りますが、単独行動をするハナレザルになったり、もしくはオスだけでグループを作ったりすることもあります。
「今までサルを見たことがなかったのに、この前1頭だけ家の屋根の上にいた」という場合、そのサルはハナレザルだと推定されます。
野生のサルの場合、個体の順位はあっても「ボスザル」と呼ばれるようなリーダー的存在はいないと言われています。餌場などへの移動などのとりまとめはメスが行っていて、餌場などの知識はメスから子が引き継ぐようです。
非常に学習能力が高い
サルは学習能力が高く、試行錯誤を繰り返すことができます。一度だめでも成功するまで何度もチャレンジする力があるのですね。
記憶力も良く、場所や人の顔を覚えたり、過去にあった出来事も覚えたりすることができます。サルの行動を見ていると「あのニンゲンは以前威嚇したら逃げていった。気にしなくて大丈夫」「あのニンゲンはこの場所で嫌がらせをしてきた。逃げよう」といった具合に記憶しているのかもしれません。
被害対策に役立ちそうなサルの特徴
- 視覚:人と同程度。暗いところで人間より若干よく見える特徴がある
- 聴覚:人間が聞き取ることのできない20キロヘルツ以上の高い音を聞くことができるなどの違いはあるが、おおむね同程度
- 学習能力:非常に高い
- 食性:雑食性
- 行動:昼行性
サルは果実や野菜、種子、樹木の若芽、花などの植物質を中心に食べますが、昆虫、小動物などの動物質も食べます。
運動能力は非常に高く、少しのとっかかりがあれば壁を登れるほどです。跳躍力は垂直方向で2メートル、水平方向へは5メートルと言われています。また、手先も非常に器用です。
被害防止のための具体的対策
学習能力が高いといった特性からもわかるように、サルは非常に厄介な動物です。被害を防止するためには、住民、農家、行政が協力し合いながら計画を立て、それぞれが活動する必要があります。
「サルはどうやっても防げない」「なんだか大変なことになりそうだから気が引ける」
そんな気持ちになってしまいそうですが、すでに全国各地でサルの追い払いや被害防止に成功した自治体の事例があります。成功の秘訣(ひけつ)は「住民が自発的に参加し、みんなで行うこと」。
まずは被害にあっている者どうしで立ち話。そんなきっかけで大丈夫です。国からもさまざまな援助を受けることができますので、あきらめずに行動を起こしてみることが重要なポイントとなります。
農家ができるサルの農業被害対策のポイントは4つあります。個人で始められる順番で書きましたので、参考にしてみてください。
- サルを引き寄せない環境づくり
- サルを侵入させない農園づくり
- サルを追い払う体制づくり
- サルの個体管理(捕獲)
サルを引き寄せない環境づくり
現在サルの被害を受けているということは、そこでは栄養価の高いおいしいものが低いリスクで手に入ると学習している証拠。
「あそこに行ってもおいしいものがない、行ったら危ない」と学習させる必要があります。
そこでまず、一人一人で対策できるのが、サルを寄せ付けない環境づくり。
・廃棄した農作物を放置しない
・柿やクリなどの果樹を未収穫のままにしない
・不要な果樹は切る
・山から農地への通り道となるヤブや草むらは見通しを良くする
など、個人でも対策できることなので、早速始めてみましょう。
サルを侵入させない農園づくり
次に、イノシシやシカなどと同じで、サルの侵入を防ぐために柵を設置すると効果的です。
サルは数ミリのとっかかりがあれば壁をよじ登ることができます。また、跳躍力も非常に高いです。ですから、イノシシやシカ用のワイヤーメッシュ柵や電気柵ではあまり効果がありません。
下記に紹介するのは効果があったとされる代表的な柵です。参考にしてください。
シカとイノシシにも対応した柵~おじろ用心棒~
「おじろ用心棒」はワイヤーメッシュと電気柵を組み合わせた防護柵です。支柱にも電気が流れる構造になっており、サルがよじ登ろうとすると電気が流れるのでサルの侵入が防げます。
下層はワイヤーメッシュなので、イノシシやシカの侵入も防げます。
比較的安価に作成可能なサル侵入防止柵~猿落君~
「猿落君(えんらくくん)」は奈良県果樹振興センターが考案した侵入防止柵です。
支柱が弾力性のあるグラスファイバーでできており、サルがよじ登ると支柱がしなってしまい、サルが落っこちるという仕組みです。
すべて資材がホームセンターで購入できるように設計されており、比較的安価で楽に設置できるようです。
イノシシやシカの侵入防止にも利用できますが、猿落君単体で防げるわけではないので注意してください。
作製・設置については山口県の萩阿武(はぎあぶ)地域鳥獣被害防止対策協議会がとても良いマニュアルを公開していますので、参考にしてみてください。
猿落君作製マニュアル
サルを追い払う体制づくり
サルが「人なれ」していくと行動はどんどんエスカレートしていきます。
「サルが人を襲った」「民家に侵入した」というニュースをよく耳にします。これはサルが「人なれ」した結果、起こった事例です。
「人間はみんな怖いぞ」と学習させれば、サルは人が遠くにいてもその姿を目にするだけで逃げていくようになります。
そのために、住民みんなで追い払いをする必要があります。
追い払いの方法
追い払いは可能な限り大人数で行いましょう。1人や2人の少人数で行っても効果は高くありません。サルは「たまたま攻撃性のある人間にであっただけ。あ~怖かった。あっちの畑に行こう」と思うだけです。そして、別のルートから人間のテリトリーに入ってきて居座ります。
サルを追い払う時には大きな音を出したり石を投げたりして、山の方まで追い払うのがポイントです。主に追い払いに使われている道具としては、ロケット花火、パチンコ、電動エアガンなどが有効なようですが、フライパンをたたいて音で威嚇する人も中にはいるようです。
サルが出てきたらしつこく行い、「民家付近に出ると怖い」とサルが学習するまで続けます。
また、「モンキードッグ」といって、訓練を受けた中~大型の犬で効果的に追い払いを成功させている自治体もあります(※)。こちらは訓練を受けて認定を受けた犬のみが行えます。
ロケット花火を利用する際は注意が必要
野生鳥獣追い払いのためにロケット花火を利用する際、打ち上げる方向によっては人身事故や火災につながる危険性があるので、安全に十分留意する必要があります。
さらに火薬類取締法上の注意すべきポイントが2点あります。
まず1点目は、使用に際して都道府県知事の許可が必要な場合があるということです。火薬または爆薬10グラム以下のロケット花火の場合、1日に201個以上使用するときは、使用する都道府県に申請して許可を得ましょう。200個以下の場合は許可は不要です。
2点目は、使用にあたって事故などを避けるために安全対策する義務があるということです。消火用水を備えることや、あらかじめ定めた危険区域内に関係者以外立ち入らないようにすること、風向きを考慮して上方やその他の安全な方向に打ち上げることなどの決まりを順守する必要があります。
いずれも知らなかったでは済まされないので、十分注意しましょう。
みんなで効果的に追い払う方法
自治体によって予算、住民の数や年代、山の地形……さまざまなことが異なります。自分たちに可能な体制を住民自ら考え、効果的に追い払う方法を模索することが必要です。
たとえば、ある集落では住民がサルを目撃したり、パトロール隊がサルに付けた受信機の電波を拾ったりすることで住宅へのサルの接近を確認したら、メールやオフトーク放送(地域の音声放送)などで住民へ知らせ、みんなが集まって追い払いに参加するといった体制をとっています。
また、2023年8月、長野県安曇野市では市民63人を臨時職員として採用して「ニホンザル追い払い隊」を結成。毎日交代で見回りと追い払いを行い、効果を検証するという取り組みも始まっています。
サルの個体管理(捕獲)
防除対策や追い払いなどを行っても被害が抑えられない場合、捕獲するという方法もあります。加害個体や攻撃性の高い個体を狙う、多くなりすぎた群れを減らすなどの目的で捕獲することがほとんどです。
ただし、前述した通り、住民と行政の協力で被害防止に取り組んでいる自治体が多くあります。まずは自治体の獣害対策の部署に相談し、十分な被害防止対策の計画を立てることが重要です。無計画に捕獲をすれば、群れが分裂してしまい、かえって被害が防ぎにくくなることもあります。
捕獲方法は、箱わな、囲いわな、銃などがあります。サルは狩猟の対象種ではないため、狩猟時期であっても捕獲はできません。農業被害を防ぐなどの目的で動物を捕獲したい場合は、自治体に特別な捕獲の許可を取る必要があります。
許可の条件は自治体や対象動物によってさまざまです。
一般的には、狩猟免許を取得した人であることが条件になることが多いです。
個人に許可が出る場合もありますし、猟友会に所属している人を母体とする組織や法人などに委任している場合もあります。
まずは被害を防止したい土地の自治体に問い合わせをしてください。
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以上、サルの被害対策についてお話ししました。
農家自らできることは、廃棄農作物の放置や未収穫果樹などによる「無意識の餌付けを行わない」こと、「農地の周りを見通し良くしておく」こと、そして「防護柵で農園を守る」ことです。
さらに、みんなで追い払いをしてサルに「人間はみな怖い」と学習させることも重要です。農家や住民自らが立ち上がり、行政に手伝ってもらいながら対策を行いましょう。