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平均年齢47歳、気鋭の有機栽培部会ができるまで。有機野菜の生産規模拡大の背景にある、新規就農者が集い定着するサイクル

平均年齢47歳、気鋭の有機栽培部会ができるまで。有機野菜の生産規模拡大の背景にある、新規就農者が集い定着するサイクル

近年、よく耳にする有機野菜、オーガニックといった言葉。必ずといっていいほどスーパーに並んでおり、なじみ深い存在になりつつあると思います。農林水産省によると、日本国内の有機食品市場は、2009年には1300億円でしたが、2022年には2240億円へと成長。また、有機農業の取り組み面積においても、2011年には1万9400ヘクタールでしたが、2021年には2万6600ヘクタールへと増加しています。
茨城県石岡市にあるJAやさとでは、有機農業が注目される前の1997年から先進的に有機野菜の生産に取り組んできました。これまでの取り組みが評価され、2023年に日本農業賞大賞と内閣総理大臣賞を受賞したJAやさと有機栽培部会を担当する飯田大智(いいだ・だいち)さんに話を聞きました。

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やさと農協と有機農業

1955年に1町7村が合併し生まれた茨城県八郷町(やさとまち)。筑波山のふもとに位置し、川や山といった自然があふれています。現在は石岡市との合併によって八郷町という地名は無くなってしまいましたが、同町を拠点としてきたJAやさとは独自路線での生産量や売り上げを構築し、他県からの新規就農者を増やすなど、隣接するJAと合併をせずに単位農協として生き残ってきました。その中心にあるのが、日本農業賞大賞や内閣総理大臣賞を受賞した有機栽培部会です。

旧八郷町の風景(7月ごろ)

同部会では、JAやさと(ゆめファーム)や石岡市(朝日里山ファーム)の研修機関と連携して新規就農者を育成し、研修後に新たな部会員として迎え入れることで、生産規模を拡大してきました。

また、マーケット・インに基づく栽培計画や販売計画を実施するため、取引先のニーズの把握、購入者に対する定期的なアンケートを実施。更に、研修制度や部内での情報共有により、有機栽培の技術を確立させることで、安定的な有機野菜の生産・販売を可能とし、販売額を拡大してきました。

現在、部会員は32人在籍しており、平均年齢は47歳と農業界ではかなり若い年齢層となっています。長ネギやニンジン、コマツナ、ホウレンソウ、ダイコン、カブ、サツマイモなどといった多品目の野菜が作られており、部会全体の売り上げは1億8000万円。生産者やJA職員の努力もあり、今もなお年々増加傾向にあると話します。

取材時はサツマイモの収穫のタイミング

では、1997年から始まった有機栽培部会の25年間の歩みとはどのようなものだったのか。飯田さんに取り組みを振り返ってもらいました。

25年間の歩みと取り組み

「1976年から東都生協との取り組みが始まり、取り扱い品目を拡大していく中で、1995年にJAやさと組合員の野菜を毎週届ける『やさとグリーンボックス(八郷町の農産物詰め合わせ)』が始まりました」(飯田さん)。毎週5000セットが発送されるほどの人気商品だったといいます。

一時の人気は得たものの、毎週似たような野菜が届くこともあり取り扱い量は下火に。そこで、テコ入れの案に上がったのが、グリーンボックスに有機野菜を取り入れることでした。さまざまな有機野菜が追加されたことでバリエーション豊かになり、消費者からは好評を集めたといいます。このことから、消費者の有機野菜に対する関心の高さを感じ、生産者7名で部会を設立するに至りました。

生産規模を拡大していく中で取り組んできたのが、人材育成。1999年にはJAやさとがゆめファーム、2017年に石岡市が朝日里山ファーム(NPO法人アグリやさとへ委託)を開始し、有機栽培の新規就農者の受け入れを始めました。

研修後に25人が就農し部会へ加入していますが、夫婦での応募が条件になるため、地域としては約60人もの人が移住しています。宮城県や福岡県といった幅広い地域から移住しており、部会全体の7割が県外出身者となっているそうです。

家族での移住

一般的には就農後に農業の大変さなどの現実を知り、リタイアする人は少なくはありませんが、JAやさとでは約9割の方が定着しているといいます。その理由としては、研修施設での2年間で栽培技術と実際の経営を学べることや、就農時から有機野菜の安定的な販路が確保されている、といった点が挙げられるでしょう。

また、農業や研修を通して集まった同じ境遇の移住者が多いので、コミュニティ形成が行われるといいます。そうすることで、初めての地でも孤立することなく地域に溶け込みやすい環境となり、結果として農家同士の情報交換も活発に行われ、地域農業の発展にもつながっているのです。

このほか、2021年から有機農業の良さを多くの人に広めるために、地元小中学校や子供食堂へキュウリ、レタスなど一部食材提供をしており、子供たちの食育という観点でも地域に貢献しています。有機農業を通して地域へ貢献する構造が出来上がっているのです。

こうした新規就農者を呼び込み、定着を促す取り組みが評価され、今年1月には第52回日本農業賞大賞を、10月には令和5年度内閣総理大臣賞を受賞しました。

JAやさと本所

有機農家の実際の声

神奈川県から石岡市(旧八郷町)に移住し新規就農したハラケンファームの原田健(はらだ・たけし)さんにもお話を伺いました。

現在は新規就農をして5年目。約2.3ヘクタールの畑で有機野菜を栽培しています。元々、有機栽培部会の取引先でもある東都生協で働いていた原田さん。自然や生産者と接する機会が多く、農業へ興味を持つようになっていったといいます。そのタイミングで、東都生協が持つ、社員が受ける研修用の圃場(ゆめファーム内を一部借りている)の運営を任されることとなりました。

そして、農業に携わる中で、もっと自分でやってみたいという思いが強まり、妻からの賛成もあったことで、研修制度が充実しているJAやさとでの研修を開始したそうです。

慣行栽培ではなく有機栽培を選んだ背景について、原田さんはこう語ります。
「東都生協の圃場では慣行栽培をしており、仕事が終わり家に帰ったとき、農薬などが付いているので1度お風呂に入ったあとでないと子供を抱っこできなかったんです。この経験から有機栽培にしようと決めました。さらに、移住者という同じ境遇の先輩農家も多いので、将来像をしっかりイメージすることができたのも決め手の一つです」

就農してからは、栽培などで困りごとがあれば先輩が技術を惜しむことなく教えてくれる環境で、農家同士の雰囲気も良く、農業を営みやすいといいます。

取材時の原田さん

実際に取材時にも、通りかかったベテラン農家が畑に立ち寄り、農業に関する情報交換が行われていました。

有機農業における今後の取り組みと展望

JAやさとでの有機野菜の栽培面積は全体で約80ヘクタール(1組あたり2〜4ヘクタール)。売上高は、約1億8000万円となっています。出荷割合は、比較的提案価格が高価な生協が7割。残りの3割が市場などの流通になるといいます。部会では、生協や市場での売上全体を出荷量に応じて精算するので、生協の販売割合が多くなれば部会員の収入は増えていく仕組みなのです。

現状、研修生が新規就農することで部会としての栽培面積や生産量が増えていくので、販売額は増えているといいます。しかし、生協のような高単価の販路を広げなくては市場出荷が多くなり、有機栽培での採算が合わなくなってしまいます。そうならないためにも、日々新たな販路を模索したり、取引先へ提案をしたりしているそうです。

また、有機野菜だけでなく、東都生協と協同でアイガモロボットを使った有機米の生産と販売の拡大にも挑戦しているそうです。有機米が地域の取り組みとして実現できれば、有機での栽培面積は大きく広がるでしょう。

飯田さんは「将来的に生産者の収入を増やすために、売上高2億、3億円と拡大を目指さなくてはいけません。生産を頑張ってくださる農家さんが大勢いるので、JAやさととしても営業を頑張って販売額を伸ばしていきたいと思います」と語ってくれました。

一つ一つ手で収穫されるサツマイモ

国として打ち出している「みどりの食料システム戦略」では、2050年までに耕地面積に占める有機農業の取り組み面積を25%、100万ヘクタールを目指しています。JAやさとのような先進的な取り組みや東都生協のような、共同で有機野菜を販売しようという企業が増えることは、農家にとって有機栽培を選択肢の一つに入れることにつながります。そのためにも、今後、有機栽培部会が行うような、食育を通して消費者に農業や有機野菜などについて理解を深めてもらう活動が、より大切になって来るのではないでしょうか。

取材協力

JAやさと

ハラケンファーム

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