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自ら生み出した新品種でイチゴ戦国時代を勝ち抜く【前編】わずか数年で高級果実店に並ぶイチゴ品種の誕生秘話

少年B

ライター:

自ら生み出した新品種でイチゴ戦国時代を勝ち抜く【前編】わずか数年で高級果実店に並ぶイチゴ品種の誕生秘話

各都道府県が作ったオリジナル品種がしのぎを削っているイチゴ業界。そのし烈な競争ぶりは、まさに「イチゴ戦国時代」です。そんな中、個人で新品種のイチゴを生み出したのが、奈良県の大村佳伊人 (おおむら・かいと)さん。すでに3品種を品種登録出願中で、とくに「コットンベリー」は今までの白イチゴのイメージを覆すほどの品種です。これらのイチゴを作れるのは、自身が代表を務める「トップベリー」に加入する生産者など、限られた数名のみ。大村さんの狙いや、これまでの歩みについて伺いました。

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イチゴの育種を始めるまで

──大村さんの作った白イチゴの「コットンベリー」は、すごい人気ですね。わずか数年で、高級果物店に定着しました。

ありがとうございます。

──ところで、果物の育種って、農家さんが畑の隅でやっているイメージが強かったんですが、大村さんは農家ではないんですよね。

全然違いますね。僕は育種だけしかやってないです。

──失礼な質問ですが、育種って素人でもできるものなんでしょうか?

僕、農家じゃないんすけど、元々畑で野菜は作ってたんすよ。大学時代から。

当時バイト先の飲食店で使ってた野菜が、素人目に見てもショボいやつやったんで。僕、野菜嫌いなんすけど、こんなんやったら自分で作れるなと思って。

そんで庭で野菜作ったんですよ。そしたらビギナーズラックじゃないけど、けっこううまくできて。野菜作りおもろいなーと思って、貸し農園借りて、耕運機も買って。

──野菜嫌いなのに、耕運機まで!?

手押しのやつですけどね。そんで、種苗店でバイトさせてもらって。

で、大学出たあと、自分で八百屋を始めたんですよ。自分で選んだ、ホンマにうまい野菜や果物しか並べない八百屋を。

──まさか八百屋さんをやっていたとは。予想をはるかに超える展開が待っていました。

その時は農家さんへの栽培指導、仕入れ、接客まで全部一人でやってたんですよ。でも一人の限界が見えたというか、店の中に長時間いるのも耐え切れなかったんで。そんで店を畳もうかなと思い始めた頃、今トップベリーのメンバーになってる方のところで、バイトじゃないけど、ちょっとお手伝いしてたんです。

そんな時に、種苗会社の人から「うちに来ないか」と声をかけてもらったんです。で、業界のことをいろいろ勉強したいなと思ったんで、会社に入って。9カ月で辞めたんですけど。

──展開が早い。

いや、ホンマはそんなに早く辞めるとは思ってなかったんですけど、ちょっと病気をしてしまって。今はもう治ったんですけど、当時医者からクルマの運転止められてて。

で、営業やのに外に行かれへんし、周りにも申し訳ないし。そんで、その時ちょうど12月で、イチゴ始まるぐらいの時期やったんで、今からイチゴの育種したら間に合うな、と思って。それで辞めたんです。

──そこでいきなり育種を!?

そうです。お手伝い先の方がハウスの一部を貸してくれて、そこで育種を始めましたね。そしたら次の年に古都姫とコットンベリーが出てくれて。

今は育種には使っていないが、この場所から大村さんの育種は始まったのだという

──じゃあ、その時はもう「いちごの育種で食ってくぞ」みたいな気持ちで?

これで食っていく、みたいな気持ちはなかったですね。だって当たるかどうかはわからんかったですから。

でも、根拠のない自信はありました。何かうまくいくんちゃうか、みたいな。最悪、バイトしながらでええわとも思ってましたし。結婚もしてないんで自分一人だけやし、そのへん自由にできるんで。

イチゴの育種を始めた理由と、トップベリーのなりたち

──育種といってもいろいろな野菜や果物がありますが、なぜイチゴだったんでしょうか。

農家さんとつながりがあったってのもありますし、イチゴの育種って基本国とか県とかがやってるんで民間がやってないことだった、ってのも大きかったですね。今イチゴやったらおもろいんちゃうかな、って。

何ていうかね、ちょっと育種の方向性が公務員的というか。味に特化したイチゴって少ないんで。どうしても作りやすさとか、耐病性が優先になってるような気がして。

──味に全振りした育種をしたいと。

僕は正直、味に特化した育種をやって栽培性が悪くなったとしても、上手な農家さんやったら作りこなしてくれると思うんですよ。

たとえ収量が取れへんとなっても、一般の品種の半分しか取れへんかったら倍、3分の1やったら3倍の値段をつければいいと僕は思ってるんで。そのへんはクリアできるかなと思って。

イチゴってのはやっぱ一番ね、ダントツ人気者やと思うんです。イチゴもらって「え~、イチゴ~?」って言う人いないじゃないですか。ショートケーキにも必ずイチゴあるし。好きな果物ランキングみたいなの見ても、ずっと1位やし。やっぱ別格ですよね。

──イチゴが好きだったというわけではないんですか?

育種って基本的に、好きじゃない品目の方が多分いいんですよね。客観的な目で見れるんで。好きなものって、どうしても思い入れとか先入観が入るんで。

育種やる前は、八百屋やってたから食べてましたけど、おいしいものが食べたいからうまいイチゴは食べますけど、僕イチゴが好きってわけでもないんで。一般の人が一生に食べる以上のイチゴを毎年食べてるんで、死ぬ前にイチゴ食べたいとかも思わないですね(笑)。

──勝算があったからイチゴを選んだという。

あとは、白イチゴにおいしいのがないんで。ちょっと白イチゴでおいしいの作ってみたいなって漠然としたことは考えてましたね。ほぼ1年目でコットンベリーを出せるとは思ってなかったですけど。

──ほぼ1年目、とは?

種苗会社に入る前の年に、お遊び程度にちょっとだけイチゴの交配をやってたんで。その系統を交配に使ってるんで、純粋に1年目っていうとちょっとちゃうかな、ってことですね。

大村さんの育種した白イチゴ「コットンベリー」(大村さん提供)

──そのコットンベリーと古都姫は、今すでに作っている方々しか作れないことになっています。今後拡大していくことはあるんでしょうか。

「トップベリー」のメンバーは、減ることはあっても増えることはないですね。今のメンバー3人は、奈良県のトップ3やと思ってるんで。

奈良県には県オリジナル品種の「古都華(ことか)」ってイチゴがあって、これはブドウでいうとシャインマスカットみたいな革命的な品種やと思ってるんです。八百屋やってたとき僕、奈良県じゅうの古都華を食べたんですけど、一時期、利き古都華ができましたからね。

──利き古都華!

(トップベリーの)メンバーの人たちは八百屋をやってるときに出会ったんですけど、いろいろ食べた上で、この人たちが一番腕ええなって。

僕は自分ではイチゴ作らないんで、基本的に自分が開発した品種を作るグループを立ち上げようと。さっき言ったように、難しいイチゴを作りこなせる人ってなると、限られるかなと思ったんで。

──確かに、栽培者を増やすと質が下がる、という問題は他の果物でもよく聞きます。

そうなんすよ、自分の品種がマズいとか言われたらムカつくじゃないですか(笑)。

育種家が栽培をしないメリット

──ただ、栽培者が限られると、育種者の収入も減るというジレンマもあります。大村さんはどのように解決しているんでしょうか。

僕は3人のメンバーに苗と「作る権利」を売って、それとは別に毎年の2品種の売り上げからロイヤリティをもらってます。

僕は売り先を見つけてくる、営業と広報みたいな感じですね。

──会社として、営業や広報を担当するような形ではない?

あくまでも「トップベリー」ってグループ名なんで、会社ではないですね。(僕は)あくまでも営業・広報と取りまとめみたいな感じです。

別に営業しなくても入ってくるお金は変わらないんすけど、売れたらそんだけ翌年のロイヤリティも増えるし、今後にもつながるわけじゃないですか。あとは品種作った自分が一番説明できるし、そういう人がおるんはやっぱ大きいかなと思うんで、僕がやるしかないなと思うんで。

──自分が営業やら広報やらをすることで、農家さんの売り上げも自分の収入も増えると。

営業活動は自腹ですけど、結局自分に返ってくるし。自分でやることによって、いろんなつながりもできるし、おもろい農家さんとか、育種やってる人とも出会えるじゃないですか。

別の果物の育種家さんと出会えれば、今後の育種にも生かせるかもしれないし、自分が今後別の果物の育種をやったら、品種買ってもらえるかもしれないし(笑)。

大村さんの育種したイチゴ「古都姫」(大村さん提供)

──自分で品種のグループを立ち上げて、栽培せずに営業や広報をやる人って、あんまり聞いたことがないですね。

そういうの、たぶん僕だけだと思うんです。基本、イチゴは国や各都道府県が品種を開発して、農家さんに親苗を提供する、みたいなパターンが多いと思うんですけど。僕は逆に、品種握った者が今後勝つんちゃうかなと思ってて。

国が作った品種とか、イチゴの場合は各県が作った品種が多いんですけど、誰でも作れるんやったら、値段もすごい変わるじゃないですか。シャインマスカットとかもそうですけど、日本中どこでも、誰でも作れるから、もうかるぞってなったら、みんな乗っかってやりだすし。

──2023年はシャインマスカットの価格が一時的に暴落しましたもんね。

でも個人で作った品種なら、一部の人だけに作ってもらうってことができる。そしたら量が決まってるから、価格も維持できるし。腕のええ人しか作らんかったら、品種の寿命が延びるんですよね。

その辺を制限することによって、値段も品質もキープできるとなったら、農家さんのメリットは大きいかなと思うんと、ビジネス的にも面白いかなと思ったんで。栽培者の人数が増えれば増えるほど、絶対品質のばらつきって出るじゃないですか。僕はそれは絶対嫌なんで。

──品質と価格に対してはこだわっていくと。

それはもう当然ですよね。さっき減ることはあっても増えることはないって言うたんですけど、「トップ」って名前にふさわしくない品質やなと思ったら、僕は結構きつく言いますからね。

やっぱ厳しいからこそ品質が保たれて、市場の人気も高いって部分があると思うんで。

──市場出荷だと、検品するといっても基本は農家さん同士でやることが多いと聞きます。

そうするとやっぱ、言いたいけど言えないこともあるじゃないですか。僕はそういうの全く関係ないから、ズバズバ言えるんで。もし悪かったら、「○○さん最近ちょっと雑ちゃう?」みたいなことも全然言えるし。

第三者が入ってるじゃないけど、そういうのは市場やお店の方からも言われますね。見てるのは育種者本人やから、言うにも説得力が出ますしね。

──育種家はもうからないって話もよく聞きますが、栽培をせず、団体の代表として動くことで解決したと。

もうけたらもうけたで、いろいろ言われますけどね。でも僕個人なんで、資金力ないんで。行政だったら税金で育種して、ハウス建てて、全部できるわけですから。でも僕、それ全部自分でお金集めてやっていかなあかんやつじゃないですか。

そこをもらわんと、僕やっていけませんよって。それをなんかね、「行政はタダで作らしてくれんのにお前んとこは……」みたいな。それはちゃうやんって話なんですけど。

──そういうやっかみみたいなものとも、育種者は闘わなきゃいけないんですね。

育種者ってどうしても人にどうこう言われるんですよ。でも、そういうのは全部「知るかボケ」でええと思います。

何人もの育種家が「育種は苦労の割にもうからない」と口をそろえます。しかし、大村さんは栽培をせずに、育種でもうけるという新たな道を切り開きました。最後の言葉も、一見強気で乱暴な物言いに聞こえるかもしれません。でも、育種に関わる人なら、きっと勇気づけられるはずです。

後編ではトップベリーの販売方法と、大村流のイチゴ育種術についてお届けします。

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