今夏、新潟県のコシヒカリに何が起きていたのか!?
新潟を代表するコメであるコシヒカリは、2023年の猛暑の影響を受けて、令和5年(2023年)産1等米の割合が大きく減った。農林水産省が発表した9月30日現在の速報値では、前年は79.2%あった1等米の比率が3.6%にまで落ち込んでいる。
年 | 総計 | 等級比率 | |||
1等 | 2等 | 3等 | 規格外 | ||
令和5(2023)年 | 189,711 | 3.6 | 42.7 | 50.9 | 2.9 |
令和4(2022)年 | 253,246 | 79.2 | 20.2 | 0.5 | 0.2 |
また、日本全国の水稲うるち玄米の等級別比率では、令和5年(2023年)の1等米の割合は前年比−16.2ポイントとなっている。
全国平均でも1等米の割合は前年度に比べて減っているものの、新潟のコシヒカリにおける減少幅は極めて大きいことがわかる。
米の等級は見た目で判断される。玄米から精米するときの歩留まりが高く、異物や着色粒、未熟粒などが少ないほど等級が高くなる。等級の高さによってJAなどによる米の買い取り価格も高くなるため、コメの等級下落は価格低下につながる。3等米が特に多い状況では経営に影響が出るおそれもあるといえるだろう。
令和5年産新潟コシヒカリに3等米が多かった理由として「白未熟粒」の多さが指摘されている。高温や渇水がイネの生育に影響すると、白く濁った玄米(白未熟粒)などが発生しやすくなるという。全国的な猛暑の中、新潟県はどのような環境にあったのか。
──北陸地方など日本海側で近接する県、あるいは東北各県でも猛暑だったように記憶していますが、新潟県が特に厳しい状況となったのは何か特別な理由があるのでしょうか。
古土井さん 富山や石川、福井など北陸地方でも猛暑の影響は見られたようですが、他の県と比較しても、新潟県の猛暑と少雨はとりわけ厳しい状況でした。
台風などによるフェーン現象で3回の異常高温と乾燥が発生したとされています。8月の平均気温は平年値26.5℃のところ、2023年は30.6℃で全国最高となりました。さらに降水量はわずか2.0mmと、こちらは全国最小を記録しました(新潟地方気象台での観測)。
出典:気象庁「8月の天候」令和5年9月1日
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/stat/tenko202308_besshi.pdf
7月21日の梅雨明け以降、過去に例のない高温・少雨であったことが新潟県内のコシヒカリの生育に大きく影響したのではないかと考えています。
──猛暑だけでなく雨も少なかったのですね。
古土井さん 稲作において、水は非常に重要な役割を果たします。今年の記録的な少雨で、まとまった雨が30日以上降らないといった状況では水管理も難しく、コメの生育に大いに影響したと思われます。
コメの等級評価は、コメの見た目で決まる。食味を評価するものではない
農林水産省はコメの等級について検査規格を定めており、水稲うるち玄米では下記のような基準がある。
上記の規格に基づき、コメは1等〜3等、規格外の四つの等級に分けられる。整粒の最低限度、被害粒・死米・着色粒・異種穀粒(もみがらや麦など)・異物の最高限度が検査の対象となっている。今年のコメは、猛暑で発生しやすいとされる白く濁った「白未熟粒」などが例年よりも多く、整粒の最低限度が1等米の基準に満たないケースが多く見られたという。
なお、コメの等級は外観上の特徴で決まるものであり、食味を評価する指標ではない。農林水産省は「農産物検査(等級)は、第3者の証明により玄米を精米にする際の歩留まりの目安として重要」としている。
一般消費者においては、「特A」などの食味ランキングと等級が混同されていることがある。「3等米が多いということはおいしくないだろう」といった誤解を生まぬような周知も必要かもしれない。
新潟県については、JAグループとして等級価格差を圧縮
コメの高温障害は、気温が連日35℃を超えたり夜間でも気温が下がらなかったりといった猛暑が続くと起きやすいとされる。水温や地温が上がりすぎないよう、圃場の特性や生育量に応じた暑さ対策が必要になる。
──田植え後に猛暑が続いた場合、圃場でできる対策は何かありますか?
古土井さん 高温対策としては「水のかけ流し」や「土づくり」などがあります。渇水の状況下では、水のかけ流しは難しいケースもあります。土づくりでは適切な施肥、例えば肥料が切れそうな場合の追加施肥、ケイ酸の施肥などが挙げられます。昨今の気候変動で、これまでは暑さへの対策がそれほど求められなかった地域でも、さまざまな施策が必要になってきているといえるかもしれません。
──今年の猛暑の影響を鑑みて、全農としてどのような支援や対策を取られたのでしょうか。
古土井さん 特に厳しい状況となった新潟県に関しては、コメの等級による価格差を通常よりも圧縮いたしました。1等米が極端に少ない今年は、生産者にとって急激な減収となってしまう可能性があり、JAへの仮渡金の等級格差を改定するよう動きました。
暑さに強い品種のコメを作るという選択肢
2023年は記録的な猛暑であったとされるものの、2024年以降にも同様の高温や少雨が続く可能性は否定できない。コシヒカリやあきたこまちなど、北陸・甲信越地方や東北地方で伝統的に栽培されてきた品種は、冷涼な気候に適応するコメが多いとされる。昨今の気候変動による猛暑や渇水が長期的に続く場合は、東日本・北日本であっても暑さへの対策が不可欠になってきているのかもしれない。
こまめな水管理や適切な土づくりなどで暑さ対策を行うのはもちろん、暑さに強い品種のコメへの転換という選択肢もある。
各都道府県などの行政が主導となって、その土地の気候風土に合った品種開発が進められている。山形県の「つや姫」、埼玉県の「彩のきずな」などのほか、新潟県では「新之助」という高温耐性品種が開発されている。
2023年の高温少雨の下でも「新之助」は1等米の割合が97.3%と非常に高く、暑さに強い特性が発揮された。
コメの好みが多様化する中で「新之助」などの新品種に注目する消費者も増え、需要も高まってきている。新品種のおいしさと合わせて、高温耐性がある点についてもさらに周知が進むことが期待される。
取材後記
コメについて取材していると、炊き立ての新米が食べたくなった。コメの生育環境としても、また、コメを栽培する農家にとっても猛暑は厳しい。昨今の暑さの中でコメを育てる農家の苦労に思いをはせながら、しっかりと味わった。ふっくらと炊き上がったつやつやの新米は、シンプルながら最上級のごちそうだ。気候変動や高温・少雨などが続く可能性がある中、これからもおいしい日本のコメが安定的に作られることを願わずにはいられない。
【写真提供・取材協力】全国農業協同組合連合会(全農) 米穀部