知るほどに心奪われる、色も香りも多彩なバラの魅力
たった1輪が咲いているだけでも、周りをパッと華やかにしてくれるバラ。色とりどりのバラが咲き誇るローズガーデンに魅了されたことのある人も多いでしょう。自分で栽培するのは難しいと思われがちですが、品種改良が進んだ近年では、初心者でも育てやすいタイプが主流になっているといいます。
「バラは基本的にとても丈夫な植物。手をかけただけ応えてくれますし、多種多様な色、花形、香りを楽しめて魅力は尽きません」
こう語る相原尚子さんは、家族を中心に営むバラ園で、約1000種ものガーデン用バラ苗の生産に携わっています。実は、花屋で扱う切り花用とガーデン用は全く別の品種。屋外で育つ姿を愛でるガーデン用品種は、生けた時の花持ちは切り花用に及びませんが、香りの強さや多彩さは格別です。濃厚な甘さの、いわゆる“ダマスク香”を始め、リンゴのようにフルーティな香り、紅茶の香りなど、実にさまざま。また、赤やピンクといったおなじみの色から、スモーキーなニュアンスカラー、蛍光色、バイカラーなど、植物の中でもっとも多彩な色をもつともいわれます。さらに、一重咲きや八重咲き、ポンポン咲きなど、同じバラとは思えないほど花形も多岐にわたります。
「たくさんの種類から自分好みのものを選ぶ楽しみはもちろん、繰り返し咲いてくれるのもバラの魅力です」と尚子さん。バラの開花期は5〜6月というイメージがありますが、春から秋まで花を楽しめる四季咲きの品種も豊富。「咲かせる喜びをたくさんの人に味わってほしい」と、バラのある暮らしの魅力を伝える店舗も展開。日本でも数少ない、基本の台木づくりから苗木の生産、販売まで一貫して手掛けている企業が「相原バラ園」なのです。
先代から受け継いだ、「花は人の心を変えられる」という思い
「相原バラ園」の店舗があるのは、JR松山駅から徒歩10分という好立地。農園は周囲に点在しています。尚子さんの父である相原嘉寿雄(あいはら・かずお)さんがバラづくりを始めたのは昭和26年(1951年)のこと。「第二次世界大戦の空襲で燃えてしまった松山の街を、花でいっぱいにしたい」という夢を抱いた嘉寿雄さんが出会ったのが、焼け野原の中でたくましく茂っているノイバラでした。ノイバラは、日本のバラの代表的な原種。戦後の貧しい時代、栽培するなら花より食糧を優先すべきという声も多かったといいますが、「花は人の心を変えることができる」という信念のもと、嘉寿雄さんの熱意が少しずつ実を結び、相原バラ園の苗の評判が広まっていったのです。
かつては東京で働いていた尚子さんですが、家業に携わるため、30年前に夫の佳治(よしはる)さんとともにUターン。「いったん離れたことで、バラづくりの魅力を再発見できました。それからは猛勉強です」と語る尚子さん。他社のさまざまな苗を通販で取り寄せ比べてみたところ、手間を惜しまず育てる自社の苗の品質に確信をもてたそう。そこで、2003年からはネット通販を開始。注文の仕組みづくりや丁寧な梱包などのノウハウを徐々に築き、全国各地にファンを増やしていきました。
そんな尚子さんの転機となったのは、2011年の東日本大震災。「自分は何もしてあげられないという無力感にさいなまれました。過酷な状況の方々にとって、バラなんて何の役にも立たないじゃないかと」。当時、東北など寒冷地のお客様に対しては、冬にネット通販で購入してもらった苗を春まで預かるサービスを行っていたそう。連絡のつかないお客様の苗を、いたたまれない気持ちで世話していたところ、しばらくして連絡がありました。「周りの景色がすっかり泥色になってしまった。宅急便が復活したら、皆にぜひきれいなバラを見せてあげたいから、キャンセルしないでとっておいてもらえないかーー。その言葉を聞いて涙が止まりませんでした。バラを卑下していた自分を恥じたのと同時に、戦後の松山を花でいっぱいにしたいと願った父の気持ちが、身に染みて分かったのです」。
それ以来、バラは人の心を変える力があるという信念も受け継ぎ、多くの人にバラの魅力を届けるために邁進する覚悟ができたという尚子さん。そうした思いが結実したのが、2019年にオープンした店舗です。「街中に花のテーマパークをつくって、訪れる人の心が豊かになれるような場所にしたかった」と、店頭にはバラ苗を始めさまざまな植物が並びます。これは、バラだけでなくいろいろな草木を組み合わせた庭づくりを提案するため。美しくコーディネートされたサンプルガーデンも併設されています。また、「駆け込み寺としても頼ってほしい」と、花に関する相談はいつでもウエルカム。育て方や楽しみ方の教室も随時開催しています。
バラや花のあるライフスタイルを提案する6次産業として進化した相原バラ園。「お客様から、『お店に来たら癒やされる!』『自分でバラを育てる楽しさを知った』と言われるのが何よりうれしい」と、尚子さんは満面の笑顔で語ってくれました。
手をかけて育てた元気な苗が、お客様の笑顔につながる喜び
相原バラ園が、先代から生産者としてこだわってきたのが、病気に強い元気な苗をお客様に届けること。「バラの病気でやっかいなのが根頭癌腫病(こんとうがんしゅびょう)。土壌の細菌によって株元にコブができ、成長が鈍ってしまいます。私たちはその対策として、手間ひまのかかる昔ながらの生産方法を行っています」と語る佳治さん。連作はせず、2〜3年は水田にして稲作を行うことで、病原菌の多くが消滅し、畑としても肥沃になるのだといいます。
バラ苗のほとんどは、土台となる台木(だいぎ)に、増やしたい種類の芽を接ぐ「接ぎ木」でつくられます。相原バラ園では、秋に接ぎ木して翌春まで半年以上かけて育てる「芽接ぎ苗」を主に生産。まずは台木となるノイバラを育て、12月に実を採取して種を取り出し、種まきします。日本原産のノイバラは、根が丈夫で成育が優れているのがポイント。育てた苗は6月に畑に定植し、9〜11月にかけて芽接ぎ作業を行います。「株元の皮をナイフで開き、増やしたい品種の芽を素早く入れてビニールテープで巻いていく。地面近くでの作業が延々と続く、忍耐と正確さを要する作業です」
芽接ぎして育てた苗は、年明けから掘り上げてポットに植え替え。新苗が出揃うゴールデンウィークの時期は、出荷のピークとなる繁忙期です。相原さん夫妻の甥である山本凛来(やまもと・りく)さんも、昨年から主に販売の手伝いをしています。幼い頃からバラ園が遊び場だったという凛来さんは、「バラは圧倒的なオーラがありますね。店や農園でいろいろな種類に触れられるのがうれしい」と目を輝かせます。
このように、男性も活躍している相原バラ園では、一緒に働く仲間を募集しています。バラや植物が好きな人を歓迎します。「バラのある心豊かな生活を提案する企業として、スタッフも心豊かに働いてほしい」という思いから、ワークライフバランスを重視。基本は週休2日制で、繁忙期は週休1日、閑散期は週休3日、残業はほぼなしという、一般的な農業のイメージを覆す労働条件です。「経験豊富な先輩スタッフが、何でもやさしく教えてくれるので安心して働けます」と凛来さん。
「力仕事も多いですが、美しい花が咲き誇る開花時期は苦労が吹っ飛びます。苗を大事そうに持って帰るお客様の笑顔を見ると、自分たちで生産したものを販売できることの喜びを感じます。手塩にかけて育てた子どもみたいなものですから」と、尚子さんと佳治さんも声を揃えます。高品質のバラ苗を生産するという誇りを持ちつつ、多くの人にバラのある生活の魅力を提案するという仕事に興味のある人は、ぜひ問い合わせてみてはいかがでしょうか。
【問い合わせ先】
相原バラ園
〒790-0053
愛媛県松山市竹原2丁目16-15
TEL:089-931-5588
FAX:089-931-0567