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経営にも販売にもメリットをもたらす「サステナブルな農業」

経営にも販売にもメリットをもたらす「サステナブルな農業」

近年、サステナブル(持続可能)な農業の重要性が高まっているが、具体的にはどんな取り組みを行えばいいのだろうか。農業を通じて「カーボンニュートラル」「カーボンマイナス」に取り組む株式会社寅福の加藤夢人(かとう・ゆめと)さんと、マイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が対談した。

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■加藤夢人さんプロフィール

株式会社寅福 代表取締役社長
北海道檜山郡上ノ国町で生まれ育ち、札幌市内の高校から立命館大学に進学。卒業後は、名古屋の商社に勤務。2014年、父である卓也さんと株式会社寅福を設立し、トマトやアスパラガスのハウス栽培を始める。2016年、代表取締役に就任。

■横山拓哉プロフィール

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

商社を辞めて農業の道へ

横山:寅福がある北海道上ノ国町は夢人くんの出身地ですよね。そこで就農するに至った経緯を教えてください。

加藤:もともと私は商社で働いていました。父は小売業やナマコの養殖事業をやっていましたが、ある日突然「農業をやりたい」と電話がかかってきまして。「やる人がいないから、お前がやってくれ」「嫌だ」という会話から始まりました。でも父が会社を作ってしまって「もう逃げられないぞ」と…。無理矢理商社を辞めて帰ることになりました。

横山:普通は辞めませんよね(笑)。

加藤:商社で新規営業や新規事業の立ち上げを経験して「いつかは自分で経営してみたい」という気持ちはあったんです。その舞台は決めていなくて、たまたま農業になりました。「ダメだったらまた働けばいいか」ぐらいの軽い気持ちで農業の世界に入りましたが、いざやってみると、どっぷりつかっていましたね。

横山:初年度の結果はどうでしたか。

加藤:農業を全く知らない素人集団でスタートしたので、1年目は本当に大変でした。売り上げは4000万円近くまでいきましたが、当初の計画からは圧倒的に低い数字。2年目からは個人の資産を突っ込んでやっていて、一番緊張感がありましたね。

「トマトに花が咲くことすら知らなかった」と就農当時を振り返る加藤さん。

サステナブルな取り組み

横山:寅福が取り組んでいるサステナブル農業について教えてください。

加藤:大きく三つの特徴があります。一つは、温泉の地熱を利用することで年間の化石燃料の使用量を約30%削減したこと。二つ目は、本社農場では地熱エネルギーで足りない部分をLPGボイラーで補っているのですが、排出されるCO2をすべてビニールハウスへ送り植物の光合成に利用していること。三つ目は、年間1200トン生じるトマトの植物残さを堆肥(たいひ)化して、アスパラ畑の堆肥に利用していること。こうしてゴミになるものを資源に変えて、地域の中で循環させる循環型農業をやっています。

寅福のサステナブルな取り組み(寅福HPより)

横山:それは設立当初からやろうと考えていたのですか。

加藤:いえ、当初は全く考えていませんでした。“もったいない”をどうにかしたかったんです。僕がトライアンドエラーを繰り返して気づいたのは、農業とはエネルギーの交換事業。植物に熱や光などのエネルギーをかけて、それが作物に変わっていくことだと考えているんです。僕らの収支を見てみると、北海道という土地柄、エネルギーコストがむちゃくちゃ高いんですよ。それを地域にあるエネルギーを使って、なんとか小さくできないかと考えました。その時「この場所だったら温泉がある」と気づいて温泉を掘ったんです。

横山:温泉ってそんなに簡単に掘り当てられるんですか?!

加藤:簡単じゃないですね。データはある程度ありますが、一か八かです。チャレンジする時って誰も成功を保証してくれないじゃないですか。それと一緒です。

横山:初年度からずっと挑戦ですね。

サステナブルな経営

横山:サステナブルな取り組みは、経営面にどんな影響を与えていますか。

加藤:一つはコスト削減です。地熱エネルギーによってエネルギーコストを30%削減できたり、CO2も排ガスを利用することで買わなくて済んだり、植物残さもお金をかけて廃棄するところを堆肥化できて……すベて良いことにつながっています。それからサステナブル農業、SDGsに取り組んでいることをアピールすることで、お付き合いのあるお客様の信用を高められ、さらに同じ価値観のお客様と出会うことができます。それによって商品が売れることもあるので、経営面にも良い影響が出ていますね。

横山:コスト削減という、マイナスを抑えるほかに、プラスを上げていくという面ではどんな影響がありますか。

加藤:販売する時「通常のトマトです」と売るのと、「サステナブルな取り組みをしながら育てたトマトです」と売るのとでは、お客様からの見え方が違います。この取り組み自体が付加価値になっていると思います。実際に、お客様からも「そういう取り組みはいいね」という声をいただきます。

寅福のトマト栽培施設

横山:経営にも販売にもメリットがあるんですね。

加藤:サステナブルの本質は、無駄なことをしないこと、有効利用することだと思うんです。先ほど、僕らは温泉の地熱エネルギーをトマトの栽培に利用していると言いました。68度のお湯を48度で排出するのですが、それをさらに養殖事業でも使い、最終的には15度〜20度の状態で排出します。最後まで無駄なく使っているんです。

青森への進出・グローカルの話

横山:夢人くんの新たな挑戦は、今青森で進んでいるんですよね。

加藤:今、青森県むつ市で、3.5ヘクタールの植物工場を建設中です。ストッキングを製造するアツギという会社が同市に東北最大の工場を持っていたのですが、閉鎖することになり約500人の雇用が失われる話があったんです。それをたまたま青森県議会議員の方から相談されて、ピンチはチャンスだと感じました。2022年4月に市長にお会いして、植物工場があれば約100名の雇用が生まれると提案したら「やりましょう」と。行政は、ピンチをなんとかしなきゃいけない時にはとてつもないパワーとスピードで事業を仕上げていきます。その後土地を探し、青森県とむつ市から企業誘致を受け、今年4月には工場建設がスタート。約1年で事業を仕上げていきました。これは僕一人ではできなかったことです。街全体でいろんな人が応援してくれました。

横山:そこではどうやってサステナブル農業を実現しますか。

加藤:むつ市のポテンシャルを生かして、どうコラボできるかを考えました。むつ市は青森県の中で最も面積が大きく、その7割超が山林。この街のポテンシャルは林業です。そこで、林業で生じる未利用材を僕らが購入、加工してバイオマスのボイラーで燃焼させ、工場の熱エネルギーに変えます。さらに排ガスを浄化してきれいなCO2をトマトに供給し光合成に利用します。またトマトの収益の一部を植樹という形でむつ市の山に還元します。こういうプロセスを組むことで、また山がよみがえり循環していきます。持続可能なビジネスモデルの一つだと思っています。

今後やっていきたいこと

横山:夢人くんが農業を通じて実現したいことを教えてください。

加藤:農業を、その地域になくてはいけない産業にしたいです。地域とともに、地域に根付いた、地域のための農業の未来の形を作っていきたいですね。そのためには「サステナブル」じゃないと続きません。地域にあるエネルギーやポテンシャルを最大限に引き出した農業をやっていきたいと思っています。

横山:これから農業をやりたいと考えている人へ、アドバイスやメッセージをお願いします。

加藤:グローバルで良いものを見て、日本のローカルに落とし込む、そんなグローカルな視点が必要だと思います。例えば僕らはオランダ式の技術を自分たちの地域にあった形にローカライズして「オランダ型フェンローハウス」を建てました。そういう視点を持ちながら何かチャレンジしていけば、新しくて面白い何かが生まれるんじゃないかなと思います。僕も失敗しまくっています。それでもチャレンジすればいつかは成功します。ぜひどんどんチャレンジしていただければと思います。

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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