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インドで急成長するオーガニック市場。異国の地で有機野菜の宅配事業を立ち上げた双子の日本人姉妹

インドで急成長するオーガニック市場。異国の地で有機野菜の宅配事業を立ち上げた双子の日本人姉妹

日本から遠く離れたインドで、オーガニック野菜の流通・宅配会社を立ち上げた双子の日本人姉妹がいます。農村から都市部へ安心・安全な野菜を届けるため、現地の複雑な流通経路に挑み、試行錯誤を繰り返してきた2人。経済発展やパンデミックによって人々の食と農への意識が変わり始めた今、そのニーズに応えるべく、新たな挑戦が始まりました。2人はどんな困難を乗り越え、ビジネスはどこへ向かうのか。姉の八田舞(はった・まい)さんに話を聞きました。

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姉妹で起業、安心・安全な野菜をインドの食卓へ

双子の姉である舞さんが、単身でインドに渡ったのは今から13年前。国際社会の不平等を解消するためにできることを、途上国に身を置いて探すためでした。

インドへ渡った八田舞さん

インドへ渡った双子の姉・八田舞さん

舞さんは、インド北西部のジャイプールでインド企業に就職。2年後の2012年には妹の飛鳥(あすか)さんが、日本で勤めていた起業支援会社を退職し、インドに移住しました。2013年には、2人で首都デリーに近く日系企業の多いグルガオンに移り住み、それぞれ別の団体・企業で働いたといいます。

「インドに住んで困ったのは、新鮮で安心・安全な野菜を入手できないことでした。日本人をはじめ外国人は誰もが困っていたので、これは解決すべき問題でビジネスチャンスも大きいと思いました」(舞さん)。子どものころから、山梨県の祖父母が作った新鮮でおいしい野菜を食べて育ち、「安心しておいしく食べることで幸せな人生を送れる」と強く感じていた姉妹は、それをインドの都市部で提供しようと決めました。

八田舞さん飛鳥さん姉妹とHSORAインディアのチームメンバー

HASORAオーガニックインディア共同経営者の八田舞さん(中央左)・飛鳥さん(中央右)とスタッフのみなさん

2016年、姉妹は共同経営で「HASORA(ハソラ)オーガニックインディア」(以下、HASORA)を起業。農村部の生産者と都市部の消費者をつなぐオーガニック野菜の宅配事業会社です。多くのことは2人で決めて行いますが、ヒンディー語を話せる舞さんが主に生産者やスタッフとのコミュニケーション、事業のオペレーションを担当。飛鳥さんが営業、販路開拓、社外とのコラボレーションを担当しています。

インドの生産者と話す舞さん

生産者と話をする舞さん

流通と輸送のカオス。重ねた試行錯誤

「インドでは野菜の流通に5~7の中間業者が多く入っているため、農家は手取りが少なく、若手も育ちません」と舞さん。その解決策として、HASORAでは有機農家との直接契約で野菜を市場に出すよりも高値で買い取り、産地から直送でグルガオンまで運ぶことにしました。ただ、グルガオン近郊は夏の気温が50度近くまで上がるため野菜が育ちません。そこで、北部のヒマーチャル・プラデーシュ州やウッタラカンド州の有機農家を開拓しましたが、そこは車で10時間の距離。輸送に大苦戦を強いられました。

キャベツをバイクに積む生産者

HASORAの店舗前にてキャベツの袋を荷卸しをするHASORAの従業員と生産者

「インドのトラック輸送業者は、輸送ボリュームが大きくなければ運んでくれません。インドの農家のほとんどが小規模で、特に有機農家は小さいところが多く、輸送を頼める業者がありませんでした」(舞さん)。そこで、安価な公共のバス・電車を使って輸送することに。契約農家が産地で電車やバスに積み、HASORAのスタッフが最寄りの駅かバス停まで取りに行くというベーシックな手段です。当初は輸送途中の荷物の紛失、降ろし漏れで次の駅やバス停まで行くこともしばしばあったと言います。

列車で輸送されるマンゴーの箱

列車で運ばれるマンゴーの箱

また、夏場の気温が50度近くになるインドでは、低温を保つコールドチェーンの構築も悩みの種。産地で水を凍らせたペットボトルを野菜と一緒に入れ、ダンボールの箱では濡れてボロボロになるためスチールの箱へ。輸送のダメージに耐えられるように新聞紙やワラで保護するなどの工夫をしてきました。ポイントは農村にある資材を使うことでした。

「現在も輸送はトライ&エラーで改善中です」と舞さん。近郊の契約農家でさえも、約100キロの距離をバイクで3時間かけて運んでくれるというインドの輸送事情。自社でトラックを持つことも考えていると言います。

訪問先の農園でランチの招待を受ける舞さんと飛鳥さん

訪問先の農園で歓迎を受ける八田さん姉妹

生産者から仲間の紹介もあり契約農家は10軒。スタッフも紹介やクチコミで10人。起業から7年で事業には大きな進展がありました。

パンデミックを経て急成長するオーガニック市場に先手

オーガニック野菜の宅配からスタートしたHASORAは、現在では肉・魚類から、みそ・しょうゆ・米までほとんどの食材を扱うブランドに成長。肉・魚類はデリーやグルガオンで徐々に増えつつある鮮度や食の安全性にこだわった業者から調達し、みそ・しょうゆ・米は日本人の農業指導により隣州で生産されたものです。さらに、手軽に調理できるカット野菜やミールキットのほか、料理をしない層に向けて総菜やお弁当などの中食事業も手掛けています。中食の看板商品は生野菜サラダです。

HASORAのオーガニック野菜サラダ

安全・新鮮・目にもおいしいHASORAの生野菜サラダ

「インドでは煮込み料理が多く、生野菜を食べる習慣はありませんでしたが、近年、海外経験のある人を中心にサラダの人気が高まっています」と舞さん。インドでは硬い品種の野菜が多いため、契約農家に軟らかくて甘みのある日本野菜を生産してもらうプロジェクトを立ち上げています。

生産者を訪れる舞さんと飛鳥さん

日本野菜プロジェクトでキャベツ生産者を訪れる八田さん姉妹

中食への事業拡大のきっかけは、2020年のコロナ禍でのロックダウンです。苦しい経営環境の中で、日本のサービスを手本にインドで新たなビジネスに乗り出しました。

「インド人の食に対する変化の兆しは、私たちが起業した7年前からありました。コロナ禍を経て都市部の消費者の意識が大きく変わり、所得も上がって食べるものに使えるお金も増え、多くの人がオーガニックの食品を求めるようになっています」と舞さんは現地の状況を語ります。もう一つ、大きな動きとして、「産地直送というコンセプトも2021年頃から浸透しつつあります」と言葉を続けます。

インドでいち早くオーガニック野菜の産直を始めたHASORAに追い風が吹いています。

インドと日本をつなぐ会社として新しい価値を提供する

他国の料理をほとんど食べなかったインド人が、日本の料理などを好んで食べるようになるなど、現地では「和食ブーム」が巻き起こっているといいます。そこで、日本人経営のベーカリーを間借りしていたHASORAでは、2023年春に独立店舗を構え、約10席のカフェを併設。10月から寿司や丼物の提供を始めました。

料理をするのは、日本人に和食を学んだインド人シェフ。舞さんが厨房(ちゅうぼう)に入ることもあります。ランチタイムを中心に営業をスタートし、夕食の時間が遅いインド人に合わせて、徐々に営業時間を延ばしてディナーの提供を始める準備を整えています。

ジャパニーズカフェのインド人客

HASORAのカフェで和食を楽しむインド人客

「インドで新しい価値を提供できる存在になろうと、食の新しい流通を開発してきました。競合が増えていくなか、日本人の強みを出さなければインドのマーケットでは勝てません。安全な食と日本を掛け合わせてさらに新しい価値を提供していきたい」と舞さんは今後の展望を語ります。

すでに日本の中小企業とのタイアップで、日本の優れた商品を、伸びているインド市場で販売する取り組みを開始。インドでの10年以上の経験を生かし、インド市場に進出を検討している日系企業への市場調査や視察支援などのサポート業務も行っています。また、インドの高品質なスパイスやハーブなどの日本への輸出の可能性も検討しているとのこと。

農場を訪れた舞さんと飛鳥さん

インドのオーガニック畑でみなさんと

ミッションは、HASORAに関わった人の可能性を最大化すること。原点は、子どものころから食べてきた安心・安全でおいしい食事。それがなければ、夢も実現しないと強く思う舞さん・飛鳥さん姉妹。お互いへの揺るぎない信頼と、トラブルも笑い話にできる心強さで、インドと日本をつなぎ、双方に食と農の新しい価値をもたらしてくれることでしょう。

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