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「あるのが当たり前」な農作物を観光資源に変えた仕組みとは

「あるのが当たり前」な農作物を観光資源に変えた仕組みとは

全国各地、観光地と呼ばれる場所は多くあるが、黙っていても観光客が来てくれるような自治体はほんの一握りである。多くの自治体は自分たちでその魅力を発信しなくてはならないが、「何を観光資源にすれば?」と頭を抱えることも少なくないだろう。今回訪れた宮崎県宮崎市田野地区は、普段の農業風景を観光資源にして観光客の誘致を図っている。その観光のメインは名産品の干し大根をつるした「大根やぐら」である。
仕掛け人である田野・清武地域日本農業遺産推進協議会に、観光と農業の融合について 話を聞いた。

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太陽と風が育んだ漬け物大根の生産量日本一

田野・清武地域日本農業遺産推進協議会カメラマン 辻晃史撮影(以下同)

冬の夜の風物詩といえばイルミネーションのライトアップだろう。色とりどりの世界は年齢、性別を問わずワクワクするものだ。多くの自治体でもさまざまな場所で行われ、住民はもとより観光客の目を楽しませている。

宮崎県宮崎市田野地区もそんな自治体の一つだが、装飾をつける対象は樹木ではなく干した大根である。

単に大根を干している光景と侮るなかれ。田野地区のそれは高さ約6メートル、幅約6メートル、長さは20~150メートルと、まさに「大根やぐら」と呼ばれるにふさわしい規模を誇っているのだ。

毎年11月から組み立て作業を開始し、12月初旬にはその年に収穫した大根を干し始める。しかも組み立てはほぼ人力、そして業者ではなく家族単位で行われているというから驚きだ。

もちろんこれらの作業はライトアップのために行われるのではない。漬け物大根のもとになる干し大根をつくるための作業である。

野菜を干して保存食とする文化の歴史は江戸時代までさかのぼる。保存食作りは全国各地で行われているが、宮崎県宮崎市田野地区も昭和のはじめごろから干し大根の産業に着手した。当初は隣県である鹿児島県の業者に干し大根を卸して加工していたが、コスト面を考え町内に加工用の工場を作った方がいいのではないかという声があがり、昭和48年にJA宮崎中央が工場を設立した。

これにより、大根農家は高値での収入を得られるだけでなく、工場が毎年必ず買い取ってくれるので安定した収入を得られるようになった。後継者も農業を続けやすくなる仕組みを構築したのだ。

また風土も干し大根作りに適しているのも功を奏した。鰐塚(わにつか)山から降りてくる「鰐塚(わにつか)おろし」と呼ばれる風は大根を乾燥させるのに適しており、また温暖な気候であるため冬場も雪が降ったりすることが少ないことから、上質な干し大根が作られ、今では漬け物大根の生産量日本一にまでになった。

農風景を観光資源に

漬け物大根が生産量日本一になったとて、それが観光資源に結びつくとは考えにくい。いったいどのような仕掛けを行っているのか、協議会事務局の担当者に話を伺った。

「まず大根やぐらの日本農業遺産に認定を目指したいと思って、すでに(阿蘇の農業が)世界農業遺産に認定されている熊本県の阿蘇地域に勉強に行ったんですよ」

日本農業遺産とは、農林水産大臣が認定する何世代も受け継がれている独自性のある伝統的な農林水産業とそれに付随する文化のこと。それにに認定されれば、ブランド化も図ることができ、ひいては観光誘致にもつながると考えたのだそう。

九州エリアではまだ農と観光の融合を行っている地域は少ない。しかし、世界的にも知名度がある阿蘇エリアであれば何かしらのヒントが得られるかもしれない、というわずかな望みをかけ積極的に勉強会に参加。そこで得た学びを、宮崎スタイルとして落とし込むことを考えたという。

まずは地元、宮崎県民に大根やぐらがすごいものだと認知してもらうためにイルミネーションのイベントを開始。宮崎ブーゲンビリア空港にも展示し、VR体験など国内外問わず宮崎に訪れる観光客への周知を図った。

努力のかいあって、大根やぐらは2020年にはグッドデザイン賞を受賞。より広くそして確実に大根やぐらの認知度は向上しているといえるだろう。普段、当たり前にそこにある風景が観光資源になるー。ともすれば夢物語のような話だが実際にそれをカタチにしようと行動を起こした宮崎市田野地区。

干し大根を作り卸して終わりではなく、「もっといい方法があるはず」「では、どうすればいいのか?」と考え、大きなムーブメントを起こし、町を動かし工場まで立てたそのバイタリティも田野地区が育んだ風土といえるのではないだろうか。そしてそのバイタリティによって、田野地区はきっと漬け物大根と同じく、日本一の観光地になるのではないか。そう思わずにはいられない地域であった。

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