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都市農業とは? 近郊農業との違いやメリット・デメリットを解説

都市農業とは? 近郊農業との違いやメリット・デメリットを解説

都市農業の特徴や利点とは何なのでしょうか。東京などの大都市圏で行われている都市農業には多くのメリットがある一方でデメリットもあります。多岐にわたる機能から、現状の課題まで、事例も踏まえながら、都市農業について理解を深めていきましょう。

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都市農業とは?

日本の農業のかたちは主に3つあると言われます。「平野で行われている大規模な農業」「山間部で営まれる農業」、そして「人口の多い都市部で行われている農業」です。都市農業とは「人口の多い都市部で行われている農業」のことで、農産物の供給だけでなく災害時のオープンスペースとしての防災機能など、多様な役割があります。
2015年には都市農業振興基本法が制定され、この法律では都市農業を「市街地及びその周辺の地域において行われる農業」と定義しています。

都市農業の6つの機能

都市農業にはさまざまな機能があります。そのうち、都市農業振興基本法で規定しているものは以下の6つです。

6つの機能

新鮮な農産物の供給

新鮮な野菜を栽培して供給したり、食や農に関する情報提供を行ったりします。

農業体験・交流活動の場

大人や子供が農業体験・交流を行う場となります。また直売所では、生産者と消費者の交流の場としても機能します。

心やすらぐ景観

緑地空間や水辺空間を提供することで、都市の住民の暮らしにやすらぎや潤いをもたらします。

都市住民の農業への理解の醸成

都市住民にとって農業が身近にあることで、農業への理解を醸成することになります。

国土・環境の保全

都市に緑があることで、雨水の保水や生物の保護などに役立つという機能があります。

災害時の防災空間

火災が起きた際には延焼の防止、地震の際には避難場所や仮設住宅建設用地などのための防災空間となります。

都市農業と近郊農業の違い

都市農業と似た言葉に、近郊農業(または都市近郊農業)というものがあります。
近郊農業とは、言葉のとおり、都市の近く(近郊)で行う農業のことです。消費地が近いため、農作物の鮮度を保ちやすかったり、輸送費用が少なくて済んだりするというメリットがあります。そのため近郊農業では、鮮度の落ちやすい野菜や花きなどが栽培されています。

都市農業のメリット

都市農業に取り組む上では、6つの機能を踏まえ、いくつかのメリットが期待できるでしょう。以下、それぞれを紹介します。

食料の安定供給に貢献できる

農産物の生産により、食料の安定供給に貢献できます。特に、都市農業では鮮度の高いものを、輸送コストを抑えながら提供できるという強みがあります。
また、大都市の消費者にとっては、近くで生産されているという点で生産の過程を目にしやすく、信頼関係も構築しやすいと言えるでしょう。

地域経済の活性化を促進する

都市農業による農産物の提供は、地元の都市住民の地産地消にもつながります。また、地元のレストランなどの食品関連業者との連携により、地域経済の活性化も期待できます。
加えて、市街地で行えるため、これまで農業には触れてこなかった都市部にある企業でも比較的参入しやすいかもしれません。

独自の価値を創出できる

都市農業は農業体験や交流活動の場にもなります。そのため都市住民たちのコミュニティーの形成や維持につながります。

都市農業のデメリット

都市農業には都市ならではの課題もあり、デメリットもあります。代表的なものについて説明します。

大量生産が困難

都市部は利用できる農地が限られているため、広い農地を利用して効率化を図るような農業が難しいでしょう。なお、東京都では農地面積が減少傾向にもあり、2011年から2021年までに1190ヘクタール(減少率15.6%)の農地が失われています。

土地利用のコストが高い

土地のコストについても都市農業ではネックになります。もし企業がビルなどの施設内に水耕栽培の植物工場を作ったとしても、農地に比べて固定資産税の負担が大きくなります。費用対効果を出すためには、独自の価値を打ち出していく必要があるでしょう。

周辺への配慮や工夫が必要

都市農業の場合、近隣の住居への配慮も必要です。においや土ぼこり、騒音について十分に配慮しましょう。また場所によっては、日照や通風などの環境に恵まれないこともありえます。作物の選び方などには工夫が必要でしょう。

都市農業の事例

都市農業には多様な機能を生かした、さまざまな事例があります。栽培の他にも、農業体験や情報発信などを組み合わせるなど、創意工夫を凝らすことで都市農業の魅力は高まることでしょう。

農業体験農園(東京都練馬区)

東京23区にはいくつもの体験農園があります。そのうち練馬区の例では、区内に18の農業体験農園があり、基本的には30平方メートルの1区画を約1年、5万5000円(練馬区民の場合は4万3000円)で利用できます(2024年1月時点)。農家による栽培指導もあり、都市住民と農業者、また利用者同士の交流の場としても活用されています。

NTT東日本、プランティオ、タニタ(東京都板橋区)

NTT東日本、プランティオ、タニタは2023年7月、アーバンファーミング(都市型農業)の事業化を発表しました。現在はタニタ本社にて、都市部のビルの屋上などに農地を設けて野菜を栽培するための実証実験を始めています。この事業では、IoTを活用したスマート農業で取り組むことに特徴があります。

chavipelto(埼玉県草加市)

chavipelto(チャヴィペルト)は埼玉県草加市で年間70品目の野菜を栽培し、レストランと販売店を営んでいます。特徴は畑でもレストランでも有機JAS認証を取得していること。これは、草加駅から徒歩5分という住宅街の一角、約70アールの農地で「いかに自分たちが住む環境を汚染せずに売り上げを作れるか」という考え方によるものです。野菜は自社のレストランで使用する他、地元のレストラン、産直通販、学校給食などにも提供しています。

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愛知豊明花き流通協同組合(愛知県豊明市)

愛知県は切り花類、鉢もの類、観葉植物などの都道府県別出荷量割合がもっとも多い県です(2022年産花き生産出荷統計)。その愛知県にある愛知豊明花き流通協同組合では、都市農業への興味・関心を高めるためにも、2016年から「とよあけ花マルシェプロジェクト」を立ち上げました。とよあけ花マルシェプロジェクトは豊明市とと連携し、とよあけ花マルシェを推進しています。これまでもエディブルフラワーの試食会などを通じて、都市農業への理解を醸成してきました。

都市農業の展望および課題・問題点

農林水産省が都市住民を対象とした「都市農業に関する意向調査」(2022年)によれば、都市農地を保全すべきという回答が75.7%と多数を占めました。保全のためにも、都市農業の環境整備が求められます。

最新技術や農法により効率化を図る

都市農業においては、比較的小さな面積でいかに効率的に栽培していくか、また独自価値を付加していくかが重要となるでしょう。その点でAIやIoTなどの最新技術を利用したスマート農業が一つの有効手段になると考えられます。

都市住民との距離の近さを生かす

農林水産省の「都市農業をめぐる情勢について」(2023年)によれば、都市農業を営む経営体の数は全国の農家のうち12.4%を占めているとされます。そのうち約17%は年間販売金額が500万円以上です。1経営体あたりの経営耕地面積が全国平均の2割程度にとどまる都市農業ですが、都市住民との距離の近さなどを生かした経営が展開されていることが見受けられます。

地価や税金の負担が大きい

都市農業の保全においては、税負担などが課題となります。
そこで国は農地について、相続税納税猶予制度を設けています。この制度は農地を相続する人が、その農地で農業を営む場合に一定の要件の下で納税が猶予されるというもの。加えて、市街化区域外の農地について農地バンクを通じて貸す場合や、生産緑地地区内の農地について認定都市農地貸付け(※)などを行う場合にも納税猶予は適用されます。
※ 都市農地の貸借の円滑化に関する法律に規定する認定事業計画に基づく貸し付け。事業計画は市町村長に提出し、農業委員会による決定を受けて認定となる。

都市農業を保全して独自の価値を打ち出す

都市農業には農産物を栽培して都市住民に新鮮な状態で提供する他にも、農業を通じたコミュニティーの醸成、災害時の防災空間の確保など、さまざまな機能が期待されます。大きな視野で見れば食料自給率の向上などに貢献することにもつながるでしょう。創意工夫を凝らしながら、独自の都市農業を検討してみてはいかがでしょうか。

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