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業務効率化、マネジメント、採用にもメリットがある「数字で見る農業」とは

業務効率化、マネジメント、採用にもメリットがある「数字で見る農業」とは

農業の担い手の減少や高齢化により、スマート農業の技術導入や農業経営の効率化を考えている人は多いでしょう。しかし、効率化といっても何から始め、具体的に何をすればいいのでしょうか。徹底して「数字で把握する農業」を行い、規模を拡大してきた石川県金沢市の有限会社かわにの代表取締役、河二敏雄(かわに・としお)さんに「新しい農業経営」について伺いました。

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「親世代とは違う農業をすること」を条件に就農

かわにでは、加賀伝統野菜でもあるサツマイモ「五郎島金時」を7ヘクタール、金沢スイカを4ヘクタール 栽培しています。また、焼き芋にした後にペースト加工したものを菓子製造業者へ販売。自社でもスイートケーキやスイートポテトなどを開発し、金沢駅内に直営店舗を持っています。

河二さんは、大学卒業後に家業の農業に従事し、1995年に有限会社かわにを設立しました。就農当初は両親から「自分たちの時代はすごくよかった。でもお前の時代にはたぶん再生産価格がとれんやろう。だから農業はさせたくない」と反対されていたそう。
「会社勤めで、しっかり月給もらって生活できるようになってほしい」という思いがあったそうです。

かわにが五郎島金時を栽培する内灘砂丘近辺は水はけがよく肥料もちも良い地域

河二さんはそんな両親を3カ月かけて説得。「ちっちゃいときから両親にくっついて、ずっと農業を見てたから、どうしても農業がしたいってことを言うて」。父親から条件として出されたのが「自分たちとは違う農業をすること」。どんな農業をしようかと思う一方で、ようやく農業ができることがうれしかったと河二さんは振り返ります。

数字で把握する農業をスタート

農作業日誌をPCに記録

就農してすぐに取り組んだのが、農作業日誌をPCに記録し、農業を数字で把握することでした。農業の勉強会で、石川県農業総合試験場農業経営科長の小林一(こばやし・はじめ)先生 と出会い、教わりながら取り組みました。

「初めて小林先生に会ったとき『農業で大切なことはなんや』と聞かれて、俺は『気合と根性です』って答えて。そしたら先生は『それも必要やけども、僕は数字が必要やなと思いますよ』と教えてくれて。それで先生の指導を受けながら、数字で把握する農業を始めた」
農作業を17に分類し、誰がどの作業をどれくらいの時間でやるのか、また10アールあたりの労働時間などを記録していきました。

複式簿記を学び売上計画を立てる

続いて学んだのが複式簿記。月ごとの売り上げを数字で把握し、耕地面積に対する最大の売り上げを目指す計画を立てました。
作物には単価が高くなる時期がありますが、その時期に仕事が集中するとパンクしてしまいます。そのため、品目ごとの栽培期間と、月ごとにかかる労働時間をPCに入力し、最大の売り上げを出すにはどんな計画を立てればいいか計算していきました。「数字のおもしろさっていうのに気づいたね」と河二さんは振り返ります。

農業を数字で把握することのメリット

一時期、経営状態が悪く会社を畳もうと考えた時期があるという河二さん。この状況下でも踏ん張ってくれている従業員のために、「6月の決算前に経常利益率が8%以上だったら、基本給を7%増額する」と宣言しました。
すると翌日から従業員全員がストップウォッチを持ち、「この作業にはどれくらい時間がかかるか」を調べながら作業するように。作業の導線まで徹底的に無駄を省いた動きを従業員全員が意識していきました。結果、経常利益率は9.6%に。翌年は10%、翌々年も11%を記録したといいます。従業員全員が同じ方向を向き、現状と目標を数値化できたことが、経営危機を脱し飛躍できた要因と言えるでしょう。

かわにでは、新規事業を始めるときなど何か経営上の判断が必要なときは、社長が最終判断をするのではなく、会社の主要メンバー10人全員が了解しなければやらないというルールがあるといいます。また、会社の経営に関する数字は全て社員にオープンにすることも、こだわっているポイントです。
「なんかあったときに助けてほしいしから、良いときも悪いときも数字は出す。社員にとっても数字が良ければ基本給は伸びるから、目標までもうちょっとのときはガンガン仕事してくれるし、もっと売り上げを伸ばせるなと思ったら絶対攻めてくれる」

採用でも“数字”が役立つ

河二さんは、労働時間を把握しておくことで、耕地面積が増えても人がどれだけ必要になるかが明確になるため、採用を行う上でも役立つと言います。
「俺の長男が今26歳で農業の責任者をやってるんやけども、22歳のとき、耕地面積を10年後には2倍に、15年後には3倍にって計画作ってくれて。そのためには、ただ単に作るだけじゃなくて、出荷するときにどう加工するか、お店をどこに出店するか、そのためには人がどれくらい必要か、人件費や経常利益がどれくらいになってるかまで考えて作ってくれた。数値化しておくことで、目標も具体的に設計できる」

かわにで作られている五郎島金時

今の常識を否定して考える

河二さんが社員に伝えていることの一つに、「今の常識を否定して考えること」があります。かわにではこれまで、土を耕す際は時速2.5kmほどのトラクターを使っていましたが、ショートディスクをつけて時速11kmで動くトラクターに変えたところ、作業時間は1/5に減りました。また、消毒も10アールを2人で25分ほどかかっていましたが、ドローンで行うと1人ででき、作業時間も10分で済むことがわかりました。

「この時代、いろんなことにチャレンジするのがいいなと思ったね。昔どおりの農業をやろうと思っとったら、俺らがやりたいような耕地面積拡大はできんと思う。何か変えたいんやったら、今やってることと180度違うことをするのがベスト。社員にも、まずやれと伝えてる。失敗したとしても2年間ぐらい会社を継続させる力はあるし、その間に修正すればいいだけだから」

地域を根ざし規模拡大を目指す

お客様は地元

かわにで人気の商品

五郎島金時 には300年以上の歴史があります。全国的にも甘みの強さ、色の良さなどが好評ですが、河二さんは「あくまでお客様は地元の方」だと言います。現在、かわにで製造している五郎島金時のペーストも、基本的には地元のお菓子屋さんを中心に卸しているそう。「よく『ブランドを作る』って言うけども、ブランドは生産者じゃなくてお客様が作るもの。それぞれの地域で食文化をしっかり作った上で、その地域の人が応援してくれて、それで全国に広まっていくもんやと思う。やっぱり一番の近道は一歩一歩階段登ることじゃないかな」

地域に根ざし新しい食文化を作る

今後は、かわにが得意な砂丘地農業を生かし「四国や九州でも栽培するかもしれない」と河二さんは言います。そのときも「五郎島金時」ではなく、それぞれの地域の名前をつけ、地域のお菓子屋さんと一緒になり、新しいサツマイモの食文化を作ろうと思っているのだそう。
「俺、人生は1000打数1安打だと思ってる。今んとこ800回ぐらいやって失敗してるから、あと200回チャレンジしたら俺の目の前にでっかい成功が待ってるかも。あれもしたい、これもしたいってやりたいことがたくさんあるよ」

(編集協力:三坂輝プロダクション)

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