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酒造とは? 酒蔵との違いや見学に行く際の注意点などを解説

酒造とは? 酒蔵との違いや見学に行く際の注意点などを解説

日本酒に関わる言葉で耳にする「酒造(しゅぞう)」と「酒蔵(さかぐら)」。よく似た言葉であり、両方とも同じ「しゅぞう」という読み方もできるため、どのような違いがあるのか分かりにくく、混同しがちかもしれません。この記事では「酒造」と「酒蔵」の違いやそれぞれの意味、酒造の歴史や関連用語を紹介します。
また、酒蔵を見学する際の注意点、酒造の免許や酒蔵の新設について、酒造は違法になるのか? など、日本酒にまつわる気になる疑問についても解説します。

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酒造とは? 読み方や意味について

鳴海酒造

「酒造」とは文字通り「お酒をつくること」を意味します。読み方は「しゅぞう」ですが、会話の中では「酒蔵」と区別するために「さけづくり」と読む場合もあります。
単体で「酒造」と使われるほか、「酒造業」「酒造免許」「酒造家」といった使われ方をすることもあります。文字の前後を入れ替えた「造酒(ぞうしゅ)」も意味は同じです。

酒造と酒蔵の違い

酒造がお酒を作る行為を表すのに対して、「酒蔵」はお酒を醸造したり貯蔵したりする蔵を意味します。本来の読み方は「さかぐら」で、「しゅぞう」と読まれる場合もあります。
酒蔵で扱う酒は日本酒、ワイン、ウイスキーなどさまざまですが、日本で「酒蔵」といえば一般的には日本酒の酒蔵を指します。ワインの場合はワイナリー、ウイスキーでは蒸留所と呼ばれています。

酒蔵が多い都道府県はどこ?

酒蔵は北海道から沖縄まで日本全国にあり、国税庁の調査では2021(令和3)年時点で全国に1139の酒造場があります。酒造場が最も多いのは新潟県の85カ所で、次いで長野県、兵庫県、福島県と続きます。

清酒の醸造所の多い県
県名 製造場数
新潟県 85
長野県 67
兵庫県 58
福島県 56

出典:清酒の製造状況等について(令和3酒造年度分)

日本酒造りの歴史とは?

明治神宮の酒樽

日本の酒造の起源には諸説ありますが、歴史は古く紀元前300年ごろに始まったと考えられています。酒に関する最も古い記述は8世紀初頭の「播磨国風土記(はりまのくにふどき)」であるとされるほか、同時代の「日本書紀」でも、ヤマタノオロチに酒を飲ませるエピソードが登場します。
宮中など限られた場所で行われていた酒造は、鎌倉時代ごろから一般にも広まったとされています。室町時代には、酒屋に課税した室町幕府が酒造りを奨励したため、幕府のお膝元である京都で酒造業が発達し、今なお続く酒どころとしての歴史が始まりました。
酒の大量生産ができるようになったのは江戸時代以降です。冬季に酒を仕込む「寒造り」とともに、農閑期に酒を造る職人「杜氏(とうじ)」の誕生など、現在につながる酒造のスタイルも徐々に確立されました。

以前の酒蔵は女性禁止だった?

古代の酒造りは重要な神事としての側面を持っており、女性の役目だったとされています。大ヒットしたアニメ映画「君の名は。」には、みこの家系に生まれた主人公が「口かみ酒」を造るシーンが登場します。
しかし長い歴史の中で、酒蔵が女人禁制の時代もありました。

女性特有の症状があるため

女性の杜氏や職人が珍しくない現代とは異なり、昭和ごろまでは一般に酒蔵は女人禁制とされていました。なぜ酒造りにおいて女性が排除されたのか、その理由は正確には分かっていません。月経からくる「血の穢(けが)れ」という意識が強かったためという説が広く知られています。

危険な作業が伴うため

一方で、江戸時代ごろから酒の大量生産が行われるようになり、仕込みの作業が力仕事になったことに起因するという説もあります。女性の手に負えない力仕事が中心となり、酒蔵=男性の職場というイメージが強くなったと考えられます。

酒造りに関わる人の呼び方

酒樽

酒造りに携わる人、職業には独特の名称があります。日常生活や他の食品製造においてはあまり使うことのない「蔵元(くらもと)」「杜氏」「蔵人(くらびと)」などの呼び方が、現在も使われています。

蔵元

酒造場の経営者を「蔵元」といいます。一方で酒の製造元・メーカーそのものを蔵元と呼ぶ場合があり、「酒蔵」と同じ意味合いになります。
また、日本酒に限らず蔵を持って商品を貯蔵・販売しているしょうゆやみそなどの製造元も蔵元と呼ばれることがあります。

杜氏

酒造における醸造の責任者が「杜氏」です。蔵元が経営者であるのに対し、杜氏は現場のトップであるため、自ら酒造りを行います。
また、日本酒を造る職人の集団を指すこともあります。兵庫の丹波杜氏、岩手の南部杜氏、新潟の越後杜氏は日本三大杜氏と呼ばれます。

蔵人

蔵人は酒造を行う職人の総称です。杜氏の指揮の下でさまざまな作業を行い、酒造の規模によって分業の度合いも異なります。役割ごとに「釜屋(かまや)」や「麹師(こうじし)」などさらに別の名称がある場合もあります。

見学を受け付けている酒蔵もある

日本各地にある酒蔵の中には、見学できる施設もあります。酒蔵の見学においては、気をつけるポイントがいくつかあるので注意しましょう。

事前予約を欠かさない

酒蔵における繁忙期は11月から3月ごろです。仕込み作業が最も忙しくなる時期のため、一時的に見学の受け付けを停止している可能性もあります。
ウェブサイトなどで予約不要とうたわれている施設でも、念のため事前予約をしておくと安心です。

事前に納豆やヨーグルトなどを食べない

微生物の活動を利用して行われる酒造りは、繊細な作業です。微生物に影響を与える菌には注意が必要です。
生命力の強い納豆菌、ヨーグルトに含まれる乳酸菌、柑橘類に生育する青カビ菌なども微生物に影響を与えるため避けた方が無難とされています。

香水や柔軟剤などの香りに注意する

酒造りにおける「香り」は重要な要素で、蔵人たちは香りも判断基準にしながら作業を進めています。強い香水や柔軟剤などの香りが混ざると、仕込み作業に支障をきたす可能性があります。酒蔵見学時は強い香りをまとわないよう注意しましょう。

ハンドルキーパーがいると安心

酒蔵では利き酒、試飲ができることが多いものです。車で酒蔵見学に出かけてしまうと、飲酒運転になってしまうため試飲ができません。安心して見学するためにハンドルキーパーを決めてから参加してください。公共交通機関を利用するのもおすすめです。

酒蔵を新設する際は免許が必要

旧佐藤酒造

「酒を造って販売したい」「酒蔵を新設したい」という場合は、酒税法に基づく酒類製造免許が必要です。酒類の製造免許を受けずに酒を製造すると違法になり、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられるほか、製造した酒類、原料、器具等は没収されることになります。

製造しようとする酒類の品目別・製造場ごとに、その製造場の所在地の所轄税務署長から製造免許を受ける必要があり、1品目あたり15万円の登録免許税がかかります。
また「品目ごとに最低製造数量基準以上であることのほか、酒税法第10条各号に規定する拒否要件に該当しないこと」が求められます。

拒否要件(該当してはいけない要件)は人的、場所的、経営基礎、需給調整、技術・設備の五つに分類されています。

「需給要件」は「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため免許を与えることが適当でないと認められる場合」とされ、日本酒製造免許の新規交付は60年以上にわたり認められていないのが現状です。

現在は輸出向けに限り清酒製造免許の発行が行われている

日本酒の輸出を後押しするために令和2年度に酒税法の一部が改正され、輸出用清酒製造免許制度が新設されました。輸出用に限って清酒の最低製造数量基準(60キロリットル)が適用されないため、小規模な事業者の新規参入も可能になりました。

酒蔵を新設する主な方法と費用の目安

前項で述べたとおり、現状では日本酒を造るための酒類製造免許を受けるハードルは非常に高くなっています。それでも日本酒の酒造に新規参入したい場合の手立てとして、主な方法と費用の目安を紹介します。

輸出限定用酒造として酒蔵を新設する

輸出用清酒製造免許を取得し、輸出に限定した商品を作るための酒蔵を新設する方法です。必要事項を記載した酒類製造免許申請書と所定の添付書類を製造場の所在地の所轄税務署長に提出します。
初期費用は製造の規模によるものの、最小限の設備を整えるだけでも500万〜600万円ほどかかります。
また、酒類製造免許申請に係る審査に要する期間は原則として4カ月とされています。早くても申請から2〜3カ月程度はかかると想定しておきましょう。

M&Aで買収する

自ら新しい酒蔵を造るのではなく、既存の酒蔵をM&Aによって買収する方法があります。酒造免許を持つ企業を買収することで、酒蔵の運営を引き継ぐことができます。
費用はさまざまですが、M&Aそのものにかかる買収コストのほか買収後に機材を入れ替えるなどの設備投資を行う場合は、初期費用が大きくなります。

酒蔵に委託醸造してもらう

すでに酒類製造免許を保有している酒蔵に「委託醸造」をしてもらうという方法もあります。
既存の酒蔵に対して「OEM(Original Equipment Manufacturing)」とも呼ばれる委託を行い、自社専用の日本酒を造ってもらう形態です。技術面のほか小ロットの委託醸造でも受け付けてくれるなど、ニーズに合う酒蔵を探す必要があります。

知っているようで知らない、日本酒と酒造

この記事では日本酒に関連する用語の解説のほか、酒造と酒蔵の違い、見学の方法や酒蔵を新設するための日本酒製造免許などについて紹介しました。酒税法という参入障壁がある酒造りにも、さまざまなアプローチがあります。
身近なようで意外に知らない日本酒には長い歴史と文化があるだけでなく、海外輸出向けの酒造りなど、さまざまな可能性があるといえるかもしれません。

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