フェンネルってどんなハーブ? 特徴や由来など
フェンネル(ウイキョウ)は、セリ科ウイキョウ属に分類される多年生の植物で、ウイキョウ属唯一の種(しゅ)です。フェンネルは伝統的なハーブとして知られ、甘みのある香りと樟脳(しょうのう)のような風味が特徴で、古くから香辛料や薬草として用いられてきました。種(タネ)はフェンネルシードとしてスパイスに利用され、葉はビネガーに漬けたり、煮込みや魚の香草焼きに使用されます。大きくなった株元はサラダやスープにして食べられます。
フェンネルはヨーロッパ、または地中海沿岸が原産とされ、インド、アジア、オーストラリア、南北アメリカに広く分布しています。古代エジプトや古代ローマでも栽培されていた記録があり、ヒトが特に古くから栽培してきた植物の一つとされます。日本には平安時代に中国から渡来しました。
ディルとフェンネルの違い
フェンネルと似たハーブにディルがあります。ディルとフェンネルは、セリ科に属するハーブでありながら、いくつかの重要な違いがあります。まず、生育期間に関して、ディルは一年草で、一年間でその生育サイクルが完了します。一方、フェンネルは多年草で、一度植えられると数年間にわたって生育を続けます。分類上の違いも顕著で、ディルはイノンド属に分類されるのに対し、フェンネルはウイキョウ属です。
外見上では、ディルの葉はより密集しており細かく分かれているのが特徴です。これに対して、フェンネルの葉はディルに比べて少し粗く、より大きな株を形成します。また、ディルとフェンネルは近くで育てると交雑しやすいという特性があります。これは、両者が遺伝的に近いために起こる現象で、タネを採取する場合は植え付け場所に注意が必要です。
フェンネルの種類
フェンネルと一口で言っても、ブロンズフェンネルとフローレンスフェンネル(またはスイートフェンネル)の2種類にわけることができます。
ブロンズフェンネルは、その名の通り、ブロンズ色の葉を持つことが特徴で、観賞用としても人気があります。一方、フローレンスフェンネルは、より甘みがあり、料理に使われることの多い品種です。
それぞれのフェンネルについて詳しく解説していきますので、参考にしてください。
ブロンズフェンネル
ブロンズフェンネルは、名前の通り奇麗なブロンズ色の葉を持つことで知られています。この特徴的な色合いから、多くの場合、観賞用として栽培されます。
しかし、香りがしっかりとしているため、料理やハーブティーの材料として使用されることも。特に、ブロンズフェンネルを白ワインビネガーに漬け込むと、美しいルビー色のハーブビネガーを作ることができ、料理の風味付けやドレッシングとしてぴったりです。
このように、ブロンズフェンネルはその見た目だけでなく、料理においても多様な使い方ができるハーブです。
フローレンスフェンネル(スイートフェンネル)
フローレンスフェンネル、またはスイートフェンネルは、フェンネルの中でも特に料理に適した種類です。フローレンスフェンネルの最大の特徴は、肥大した茎の部分です。球根のような形をしており、サラダやスープ、さまざまな料理に使用されます。
フローレンスフェンネルの味はやや甘く、生で食べるとシャキシャキとした食感が楽しめ、加熱するとより甘みが増し、柔らかくなります。ロースト料理やグリル、煮込み料理にもよく合います。
フェンネルの栽培暦
フェンネルは日当たりと水はけの良い土壌を好みます。
乾燥していたり、栄養分の少ない土は苦手なので、植え付け前・栽培期間中は水と肥料の管理に気をつけましょう。
フェンネルの種まき
フェンネルの種は細い楕円(だえん)形をしています。
こぼれ種でも育つことがあるほど強いハーブなので、種まきもそれほど難しくありませんが、いくつかポイントを押さえておきましょう。
種まきの時期
フェンネルの種まきは、春の初め、霜のリスクがなくなった時期(3月~5月)に行うのが最適です。
関東地方など暖かい地域では、秋まき(9月~10月)もできます。
フェンネルの発芽適温は15℃~25℃と少し高めです。気温が低い日が続くようなら、寒冷紗(かんれいしゃ)やマルチなどで保温すると良いでしょう。
種まきの方法
フェンネルは移植を嫌う直根性の植物です。
最初から地植えするか、プランターや鉢に種をまきましょう。
畝に直接まく場合は、株間を50センチとり、植え穴1カ所に4~5粒ずつまきます。
プランターや鉢、ポリポットにまく場合も同じように4~5粒ずつまきましょう。
このとき、種を土深くまで押し込んでしまわないように注意しましょう。
親指の第一関節くらいの深さが良い目安です。
注意点
フェンネルはディルやコリアンダーと遺伝的に近く、近くで育てると交雑してしまうおそれがあります。
こぼれ種からでも旺盛に育つハーブなので、一度交雑が発生してしまうと後が大変です。
両者が混ざってしまわないように、離れた場所で育てるなどしっかりと管理してください。
フェンネル苗の植え付け
フェンネルは種から栽培したほうが失敗のないハーブですが、ポリポットなどで育成した苗を花壇などに植え付けたいというケースもあるでしょう。
ここでは苗の植え付け方法について解説していきます。
植え付け時期
フェンネル苗の植え付け時期は、種まきの時期とほぼ同じです。
春になり暖かくなった4月~5月ごろ、霜のおそれがなくなってから植え付けましょう。
暖かい地域では9月~10月の秋の植え付けも可能です。
プランターの場合
◯用意するもの
・プランターor鉢植え(ゆとりをもった大きめサイズが望ましい)
・ハーブ用土or野菜用培養土
・鉢底石、鉢底ネット
・プランターを置く台やブロック、すのこなど
◯やり方
初めに、用意したプランター(鉢植え)に、鉢底石と鉢底ネットを設置します。
次に土を入れ、軽くたたいたり揺らしたりして、土をならしましょう。
土の準備ができたら、苗を植え替えます。
複数の株を植え付けるためには、株間50センチ必要になります。
管理も少し難しくなるので、一つのプランターにつき1株が安全です。
植え付けが終わったら、ジョウロなどで優しく水やりを行ってください。
◯注意点
ベランダや庭で栽培するときは、エアコンの室外機から離して置いてください。
室外機の温風が当たると、株が弱ってしまい、枯れてしまうこともあります。
プランターは直接床や地面に置かず、台やすのこなどに置いて、風通しを良くしてあげましょう。
フェンネルは直根性といい、根っこが真っ直ぐに伸びる性質をしています。
底の浅いプランターを使うとうまく育たないので、底が深いものを使ってください。
また、苗を植え付ける際は極力根っこを傷つけないようにしましょう。とくに、ポリポットから取り出す際には、指で根を崩さないよう注意してください。
地植えの場合
フェンネルの苗を庭や花壇に植え付ける際は、次のことに注意しましょう。
まず植え付ける前に、フェンネルがより伸び伸びと育ちやすい場所を選びます。フェンネルは日当たりが良く、水はけの良い肥沃(ひよく)な土壌を好みます。木陰になる場所や、常に湿っているような場所は避けましょう。
植え付ける前に、土壌を深く耕し、堆肥(たいひ)や肥料を混ぜ込みます。
植え付ける際は、苗の根が十分に広がるように植え穴を掘ります。穴の大きさは、苗より一回りほど大きく作りましょう。
苗を植えた後は、土を軽く押さえつけて、苗がしっかりと支えられるようにします。植え付け後は、苗に水をたっぷりと与え、土が十分に湿るようにしてください。
フェンネルの栽培管理
フェンネルの栽培管理では、特に次のことに注意しましょう。
- 間引き・水やり
- 施肥
- 支柱立て
- 剪定
それぞれ詳しく解説していきます。
間引き
フェンネルの間引きは、苗が適切な成長を遂げるために重要な工程です。間引きは、フェンネルの苗が本葉4枚ほどになり、葉がお互いに触れ合い始める程度に成長したタイミングで行いましょう。
間引きを行うのは、苗同士の間に十分なスペースを確保することが目的です。強健な苗を選び、弱い苗や成長が遅れている苗を取り除きます。
取り除く苗は、根元から優しく引き抜くか、小さなはさみや刃物を使って地上部を切り取ります。株間は50センチル程度空けるのが理想的です。
水やり
基本的にフェンネルはある程度乾燥した土を好む植物であり、過剰な水分は避けるべきです。
露地植えの場合、フェンネルは自然の降雨によって十分な水分を得ることが多く、追加の水やりは基本的に必要ありません。特に雨が多い地域や湿度が高い環境では、自然の水分だけで十分に成長します。しかし、長期間にわたって乾燥が続く場合は、土が完全に乾かないように水やりを行うことが必要になることもあります。
一方プランターの場合は、土の表面が乾いたらたっぷりと水やりを行います。
夏場など気温が高い時期は、日中の水やりを避けて、朝夕の涼しい時間帯に行いましょう。
施肥
◯プランターの場合
培養土を自作する場合は、元肥として緩効性化成肥料を一握りいれましょう。栽培中は追肥として液体肥料を週に1回くらい水やり代わりに施すか、緩効性肥料を株元から離れたところに置くと良いでしょう。
◯地植えの場合
植え付けの2週間前までに堆肥と肥料を一握り、1週間前に苦土石灰を一握り深めにすき込みましょう。地植えの場合、栽培中の追肥はあまり必要ありませんが、月に1度くらいの間隔で緩効性肥料を一握り入れると良いでしょう。
支柱立て
フェンネルは草丈が高く成長するハーブであり、特に風の影響を受けやすい性質を持っています。このため、特に夏の時期には、台風などの強風によって植物が倒れたり、損傷を受けたりするリスクが高まります。このような状況を防ぐために、フェンネルの栽培においては支柱を立てることが非常に効果的です。
支柱立ては、フェンネルが十分に成長し始めたら行います。株の近くにしっかりと支柱を固定します。その後、フェンネルの茎を支柱に沿って優しく結びつけます。結ぶ際は、麻ひもなどの柔らかい物を選びましょう。
剪定
フェンネルの剪定においては、花が咲く前に花茎を切り戻すことが一つの重要なポイントです。フェンネルは花が咲くと、花と種にエネルギーを使うため、葉の成長が遅れることがあります。したがって、花茎を早めに切り戻すことで、より多くの葉を収穫することが可能になります。
また、フェンネルの剪定には他にもいくつかのポイントがあります。例えば、古い葉や枯れた葉は定期的に取り除くことで、植物の健康を保ち、病気や害虫のリスクを減らすことができます。さらに、フェンネルが過度に茂りすぎると、株間の通気性が悪くなり、病気の発生を促すことがあるため、適度に葉を間引くことも重要です。
収穫方法
フェンネルの収穫は葉、株元、フェンネルシードそれぞれを楽しむことができます。
フェンネルの葉は、若くて柔らかいうちに収穫しましょう。随時収穫できるので、独特の風味を最大限に引き出すよう新鮮なものを楽しみましょう。葉はサラダやスープ、さまざまな料理の香り付けに使われます。
株元の部分は、フローレンスフェンネルの場合、肥大した茎が特徴的です。この部分は、球根のように白く太っており、サラダやグリル、煮込み料理などに適しています。収穫は、株元が十分に肥大したときに行います。株元を土から切り離し、葉や茎の部分を取り除いて使用します。
フェンネルシードは、フェンネルの花が咲き終わり、種が成熟した後に収穫します。種は、花穂が黄色から茶色に変わり、乾燥してきた時に収穫しましょう。収穫した種は、乾燥させてから料理やハーブティーに使用します。
植え替え
フェンネルは植え替えを嫌うので、なるべく種から同じ場所で育てると良いでしょう。
植え替え・植え付けの方法については、説明した通りです。
フェンネルの増やし方
フェンネルの増やし方には種まきと株分けの二つの方法があります。
ここでは、特に株分けについて解説します。
フェンネルは多年草で、時間とともに株が大きくなり、分けることで新しい株を作ることができます。株分けは、種を収穫した後の秋に行いましょう。
株分けを行う際には、まずフェンネルの株を掘り上げます。このとき、根をできるだけ傷つけないように慎重に作業を進めます。株を掘り上げたら、健康な部分を選び、根を含めて数個の部分に分割します。分割する際には、各部分に十分な根が残るように注意し、必要に応じて根を切り分けます。
分けた各株は、新しい場所に植え付けます。植え付ける際には、十分なスペースを確保し、根が広がりやすいように土をよく耕しておきます。植え付けた後は、水をたっぷりと与えましょう。
フェンネルにつく害虫
病害虫に強いフェンネルですが、次に説明する虫が発生することがあります。
それぞれ見ていきましょう。
キアゲハの幼虫
被害:幼虫はフェンネルの葉を食べることで、植物にダメージを与えます。大量に発生すると、葉が大きく食害されることがあります。
対策:幼虫を見つけたら手で取り除くか、有機農薬を使って駆除しましょう。
アカスジカメムシ
被害:花を食害し、植物の成長や収穫量に影響を及ぼすことがあります。
対策:カメムシは見つけ次第手で取り除くと良いでしょう。また、カメムシを引き寄せないようにするために、植物の健康を維持することも重要です。
アブラムシ
被害:アブラムシは植物の葉や茎の汁を吸うことで、植物にダメージを与えます。またミツロウ状の排泄(はいせつ)物を分泌し、カビなどの原因となることもあります。
対策:アブラムシは水で流したり、割り箸にティッシュをくくりつけてこそぎ落とすようにして捕殺すると簡単に落とすことができます。またエコピタなどの有機農薬で対処しても良いでしょう。
ハーブ栽培の入り口として、フェンネルはぴったり!
フェンネルはその優れた香りで知られ、葉だけでなく茎や種も食用として楽しむことができる多用途のハーブです。
栽培に関しては、特に難しい手順は必要なく、日々の適切な栽培管理を行うことで十分に育てることが可能です。ただし、フェンネルはディルと交雑しやすい性質を持っているため、両者を離れた場所で育てるなどの注意が必要です。
フェンネル栽培はハーブの家庭菜園が初めてだという人にもぴったりで、ハーブの魅力を存分に味わう素晴らしい経験となるでしょう。
本記事を参考にして、フェンネル栽培に挑戦してみてください!