年中無休の酪農業を支える「酪農ヘルパー」とは?
乳牛を育て、生乳を生産する酪農家。牛舎の清掃、搾乳、餌やり、子牛の哺育、乳牛の体調管理など酪農家の仕事は多岐に渡りますが、そのどれもが休みなく毎日行わなければならないこと。もし人が乳を搾らなければ、細菌が繁殖し乳牛は乳房炎といった病気になってしまいます。ですが、酪農家とはいえリフレッシュの為の休日は必要ですし、病気や怪我で業務を行えない時が当然あります。そこで頼れる助っ人として登場するのが酪農ヘルパーです。
酪農家が休みをとる間、清掃、搾乳、餌やりといった牛舎内の業務全般を請け負う酪農ヘルパー。酪農ヘルパーは農協や会社組織などの酪農ヘルパー利用組合に所属し、そこからその日依頼のあった酪農家へと派遣されます。
今回お話を伺った西村さんは、酪農とちぎ農業協同組合に所属する酪農ヘルパー。東京都の出身で、現在21歳。酪農とは縁もゆかりも無い暮らしをしていたと言います。その西村さんが、なぜまったく経験のない“酪農”という仕事に就いたのでしょうか。
温もりを感じる牛とのふれあい…西村さんが酪農ヘルパーを選んだ理由
西村さんが酪農ヘルパーという仕事を知ったのは埼玉県の動物専門学校に通っていた頃のこと。元々はイルカのトレーナーに憧れて入学したのですが、徐々に自分の望んでいるものとは違うと感じるようになったのだそう。
「小さい頃からとにかく動物が大好きでした。授業や実習で、水族館や動物園での仕事を学んだり体験したりしていくうちに、意外と動物と接する時間が少ないな、と感じていたんです。そんな時、北海道のインターンシップで酪農ヘルパーを募集していたので試しに挑戦してみようと思いました」
学校での酪農実習は無く、業務に関しては完全な初心者。それでも将来を真剣に考え出していた西村さんにとって、酪農ヘルパーは“これだ!”と感じさせる仕事だったようです。
「牛との距離感がとても近かったんです。毎日牛の世話をして、牛とふれあう時間も長い。“ああ、私大きい動物好きだな、牛が好きなんだな”って心から実感しました」
それから北海道での就職を考えましたが、家族と相談するうちに実家から近い関東圏で就職活動をするように。最終的に酪農とちぎ農業協同組合でのインターンシップを経て、2023年4月から正社員として勤務するようになりました。
「始めの3ヶ月は先輩のベテランヘルパーと一緒に活動するんです。牛をびっくりさせないよう優しく声をかけてから触れる、といった基本的なことから、具体的な牛舎での業務まで丁寧に教えてもらいました。酪農の知識はありませんでしたが、先輩や組合のサポートがしっかりしていて、初心者でも着実に覚えていくことができました」
専任のヘルパーとなって1年足らず。ですが、サポートに訪れた酪農家は50軒以上に上ります。
「仕事の大筋はどの牛舎でも同じですが、餌の与え方ひとつとってもそれぞれ細かい違いがあります。酪農家ごとの違いに対応し、覚えなければならないことが酪農ヘルパーの大変な点かもしれません。
1度訪れた現場に2度、3度と訪れることは多いので、現場でのことをメモし、自宅でノートにまとめ、次の出勤の際には改めて確認できるようにすることで、だいぶスムーズに動けるようになってきました」
専門知識や経験が無かったとしても、地道な努力を続けることで確実にステップアップしていくのも楽しいと西村さんは話します。
自由時間もしっかり!酪農ヘルパーの1日
大きな牛相手の酪農業というと体力的にきつい重労働なのでは?と西村さんに質問すると「そんなことはありませんよ」と1日のスケジュールを教えてくれました。
時間 | 内容 |
---|---|
5:00 | 起床 |
6:00~9:00 | 派遣先の牛舎で清掃、給餌、搾乳、片付け |
自由時間
朝と夕の作業の間は自由時間。その間に買い物に行ったり、美容室に行ったりすることもあります。栃木県は近場にショッピングスポットが充実しているのが嬉しいです。 |
|
16:00~19:00 | 連絡票チェック、清掃、給餌、搾乳、片付け
基本的に、1つの牛舎で、夕方から翌朝が1セット業務。夕方にまず、酪農家さんからの連絡票をチェックします。抗生物質を投与している牛がいるかどうかや、餌の内容が記載されていることが多いです。 |
22:30 | 就寝 |
9:00~16:00は自由時間と、自分の時間をしっかり確保できるのは魅力的!
さらに西村さんはシフト勤務で、休日もしっかりとれているそう。6連勤といったきつい働き方になることもなく、土日でも予め希望を出せば概ね休みにできるんだとか。体にも心にも無理のない働き方が叶いますね。
西村さん
酪農家さんからの「ありがとう」で前向きに働ける
西村さんに酪農ヘルパーをしていてやりがいを感じるのはどんな時か尋ねると、「それはもちろん酪農家さんに『ありがとう』と言ってもらった時です」と即答。
酪農ヘルパーを月に1度は利用しているという酪農家・海老原哲夫(えびはら・てつお)さんにヘルパーさんはどんな存在か伺いました。
「この職業をやってくうえで無くてはならない存在です。休むことができない朝晩の牛の管理を代わってもらえる。うちは家族で牛を育てているけれど、酪農ヘルパーがいるからみんなで休みをとって旅行に行くことができる。酪農ヘルパーがいなかったら誰かは家に残らないといけないわけだから。本当感謝だよね」
「西村ちゃんは動物が好きなことが分かるし、前向きで応援したくなるんだな」と笑う海老原さん。いろいろな酪農家さんと出会い学ぶことで、西村さんの夢も広がっているそう。
「今はとにかく牛のことをもっと勉強して、酪農ヘルパーとしてできることを増やしていきたいと思っています。来年には、給餌するためのトラクターに乗る大型特殊免許やけん引免許の取得に挑戦するつもりです。この先も、どんな形であれ酪農に関わる仕事を続けていきたいです」
酪農ヘルパーが気になったら、酪農ヘルパー全国協会のホームページをチェック!
酪農ヘルパーとして働くには、酪農とちぎ農業協同組合のような各利用組合に就職することになります。全国各所にある酪農ヘルパー利用組合をまとめ、その窓口的存在となるのが酪農ヘルパー全国協会です。酪農ヘルパー全国協会では現在、酪農ヘルパーの普及と充実強化を目指しているそう。最後に、当協会の桑原芳彦さんと佐藤千秋さんにお話をお伺いしました。
「ぜひみなさんに、酪農ヘルパーという仕事を知っていただきたいですね。酪農ヘルパーになる方は、年齢も性別もさまざま。新卒だけでなく、まったく別業種から転職されて就労を希望する方もいます。酪農未経験であっても、ベテランヘルパーとの勤務で、少しずつ学ぶことが出来るので、無理なく働けると思います」(佐藤さん)
「動物が好きじゃないとできない仕事だと思いますので、動物系専門学校の学生さんにも卒業後の進路の選択肢の一つに酪農ヘルパーも加えてほしいですね。
酪農ヘルパー全国協会のホームページを見ていただければ、酪農ヘルパーを募集している組合を地域ごと閲覧できます。またインターンシップ募集情報も掲載していますので、お気軽に各利用組合に問い合わせてみてください」(桑原さん)
酪農ヘルパーは、動物が好きで動物と関わりながら働きたい方、酪農家を目指している方におすすめの仕事。まずは、酪農ヘルパー全国協会のホームーページをチェックしてみてくださいね。
■問い合わせ■
一般社団法人酪農ヘルパー全国協会
〒151-0053
東京都渋谷区代々木1丁目37番2号 酪農会館 6階
Tel: 03-5577-5135
Fax: 03-5577-5136
Email: info*atmark*d-helper.lin.gr.jp
※スパム防止のため、「@」を「*atmark*」と表記しておりますのでご注意ください。