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地元のニーズはベトナム野菜にあり! リピート率ほぼ100%、ニッチ戦略で販路を広げる新規就農者

地元のニーズはベトナム野菜にあり! リピート率ほぼ100%、ニッチ戦略で販路を広げる新規就農者

奈良県に接する大阪府河南町のある農家のビニールハウスでは、少し周りの農家とは違う作物を栽培している。パクチーやタイバジル、ノコギリコリアンダーといった東南アジアの料理に使われる野菜だ。育てているのは内海将樹(うつみ・しょうき)さん。祖父の畑の片隅で始めた栽培は、30アールに広がった。そして今はアヒルやニワトリも飼育している。内海さんが東南アジアの食材を手掛ける理由を取材した。

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ベトナム人に母国の食べ物を届けたい

2020年の春、大阪府富田林(とんだばやし)市に暮らす内海将樹さんは、近所の河川敷を自転車に乗って通る何人ものベトナム人の姿が気になっていた。大阪府の東南部に位置する富田林市には中小企業が集まる団地が造成されたこともあり、ものづくり企業が多い。それらの企業で働く外国籍の技能実習生らもたくさん暮らしていて、中でもベトナム人の占める割合が多い。実は内海さんの妻もベトナム人なので、彼らの存在はとても身近だった。そんな内海さんが気になって仕方なかったのは、彼らの乗る自転車の荷台に大きな段ボールが積まれていたことだ。思い切って声をかけ聞いてみると、彼らが自転車で1時間以上かかる八尾市まで買い物に行っていることが分かった。八尾市にはベトナム仏教寺院があり、その周辺にはベトナム食材の店も多い。一方で、富田林市には当時ベトナムの食材を扱う店はなかった。

富田林市内で寿司・懐石料理店を営む父のもとに生まれた内海さんは、コロナ前は日本料理の料理人の修業をしていた。しかし、コロナ禍で勤めていた店が閉店したため、当時父の店で働き始めていた。そんな中で、富田林市に住むベトナム人が遠くまで買い物に行っている状況を目にし、何とか彼らの役に立ちたいと考えるようになった。
「最初は父親の店の一角で試験的にベトナムの調味料などを置いて販売を始めたんですが、だんだんベトナムの食材を購入しにくるお客さんが多くなってきて、そろそろ別の場所でやった方がいいかなと思ってきたんです」(内海さん)
富田林でベトナムの食材が手に入ることはベトナム人の間で瞬く間に広がり、多くのベトナム人に喜ばれた。2020年11月には、ベトナム食料品スーパー「SHO-KYU(ショウキュウ) ティエンベイカー」をオープンした。料理人だった内海さんには未知の仕事であったが、いろんなところに電話をして食材を仕入れた。料理人仲間のつながりで豚の内臓なども仕入れることができた。野菜はベトナムやタイから空輸した。買いに来てくれた人のほとんどがリピーターになってくれた。

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内海将樹さん(写真右)と妻のチャンズンさん(写真左)。「SHO-KYU ティエンベイカー」の入口で

ベトナム人だけでなく日本人にも新鮮な野菜を食べてもらいたい

2021年の夏にはベトナムのホーチミン市がロックダウン。ベトナムから輸入していた野菜の値段が高騰し、お客さんが手を出しにくい値段になった。このことが、内海さんに転機をもたらした。
以前から内海さんは、ベトナムの人だけでなく、エスニック料理が好きな近隣の日本人にも店を利用してもらいたいと考えていた。もっと、安全で新鮮な東南アジア野菜を店頭に置けば、店の売りにもなるし、お客さんにも喜ばれるはずだ。しかし、ベトナムから空輸している野菜は、日本に届くまでには約1週間くらいかかるため品質や鮮度のばらつきがあり、残留農薬の懸念もあった。
そこで内海さんは、自分で育てることを思いついた。「種から自分で育てれば鮮度抜群の安心して食べてもらえる野菜を販売できるはず。なんにも勉強していなかったんですが、子どもの頃からじいちゃんが畑仕事をしているのをよく見ていたんで、相談に行ったんです」

こうして大阪の河南町で農業を営んでいる祖父の畑で2畝を借りて栽培を開始したのだ。このとき、祖父の畑に持ち込んだ種は、海外から購入したパクチー、ノコギリコリアンダー、タイバジル。もちろん祖父も東南アジアの野菜を育てた経験はない。それでも頼りにされた祖父はスマートフォンでAIアシスタント「Siri」に聞いたり、インターネットで検索してくれたりした。そうして2022年の春先に種をまき、8月にパクチーなどの収穫ができた。すべて順調とはいかなかったが、少しは店頭に並べることができた。2021年頃から少しずつ周辺に同業の店ができ始めたが、新鮮な東南アジアの野菜が買える店はない。野菜に強い店にしていこうと、少しずつ祖父の畑で東南アジア野菜の作付面積を広げていった。この頃はまだすべて露地栽培だった。

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河南町にある畑

東南アジア野菜の栽培は日本中で需要があった

3種類の種をまき、わずか2畝からスタートした栽培は30アールに広がり、2022年8月には、内海さんは河南町で認定新規就農者となった。最初はすべて露地栽培だったが、それでは旬の時期にしか出荷できない。一方、旬をずらして栽培すれば通年で出荷でき価値もあがる。そこで、20度から25度の適温を維持するためにビニールハウスを3重に覆うなどして寒い冬でも出荷できるように工夫した。
「試行錯誤でした。温度管理や土壌違い、輸入した種の袋の裏の説明書きが読めないし、同じ種でも保存状態が悪いのは芽が出なかったりと、いろんな問題にぶち当たりました」(内海さん)
現在、栽培している東南アジアの野菜はパクチー、ノコギリコリアンダー、タイバジル、スペアミント、エンツァイなど約16種類。自身の店舗で販売するだけでなく、全国各地のベトナム料理店から注文がくるようになった。「一度、購入してくれるとほぼ100%リピートしてくれます」と言うように、内海さんの野菜は人気になっている。

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店で販売されている東南アジア野菜

野菜のみならず、ニワトリ、アヒルも放し飼いで育てている。ふ化寸前のアヒルの卵「ホビロン(バロット)」を販売するためである。自社で育てた平飼い有精卵をベトナムのホーチミンから取り寄せたふ卵器で保温加湿している。これもベトナム料理店などに毎週出荷している。
「卵は養鶏所の前の無人直売所でも販売しています。近所のおばあちゃんが店番をしてくれてたりするんで助かってます」(内海さん)

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畑の近くで飼育されているアヒル

外国人が安心でき、“よりどころ”にできる場所

店と農作業を手伝ってくれているのは、ベトナム人が2人、日本人が2人、計4人のパート従業員だ。出荷前の野菜の調整作業などは基本、店の一角で行っている。「パートに来てくれる方にお願いしている業務は農業に関するものですが、出勤場所は店であることが多いんです」(内海さん)。お客さんが来れば、作業の手を止めて接客することもできるという利点もある。こうしたところに、内海さんの経営者としての気質も感じられる。

内海さんは、2022年3月に内海グローバル株式会社を設立。2022年7月には日本で働くベトナム人をはじめとするアジア系外国人の困りごとの手助けをするために、新規事業を立ち上げた。外国人材紹介・登録支援機関としての事業である。外国人を受け入れる企業からの委託を受け、特定技能1号の在留資格を持った外国人が、在留期間に円滑に働けるよう支援計画の作成や実施を行う手助けをしている。

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内海将樹さん

「受け入れる企業自らが支援を全て行うことも可能なんですが、外国人にとっては企業と直接やり取りしたり相談したりするのは、ハードルが高いんです」と内海さん。
困りごとのある外国人にとって、ベトナム人の気持ちも企業側の立場も理解できる内海さんは「気軽に相談しやすい存在」。在住に必要な市役所への届け出や水道光熱の手続き等をする際の通訳や翻訳、また生活に関する相談も行っている。
将来はベトナムで和食の店をやってみたいという夢がある内海さんは、生まれ育った富田林への恩返しと、いつか自分がベトナムで店を出すことになったときに世話になるかもしれないベトナムへの“先恩返し”をしているそうだ。
2022年に設立した内海グローバル株式会社の社訓は「楽しむこと」。内海さんは25歳、これからまだまだやりたいことが生まれそうだ。

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